「信号のない横断歩道では歩行者が優先」。これは道路交通法第38条で定められた鉄則です。
しかし、この基本的なルールを遵守したことが、結果として悪質な後続車を苛立たせ、さらなる危険運転を誘発してしまうケースが発生しています。
警察庁が啓発を強化している通り、横断歩道での停車は当然の義務です。しかし、そんな「正しい行動」を妨害と見なし、無理な追い越しや当て逃げに及ぶドライバーは、自らの暴挙がどれほどの代償を招くか理解していません。

今回は、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、ルールを守ったことで悪質なトラブルに巻き込まれた事例を、最新の法規と共にお届けします。被害者による執念の追跡と、警察を前に「土下座」で許しを請うた加害者の惨めな末路。その驚きの全貌を紐解きます。

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ドライブ旅行で受けたカルチャーショック

行楽シーズン、さまざまな場所へ旅行に出かけている人が多いと思います。都内にある大手広告代理店で働いている近藤太賀さん(仮名・28歳)も、夏休みを利用して奥さんの実家である東北地方に帰省を兼ねた旅行に出かけたそうです。近藤さんは、昔からほしかったJeep(ジープ)の新車を購入したばかりで、移動はすべて車を使用。4泊5日のスケジュールで、途中はホテルに泊まりながら、東京から奥さんの実家がある岩手県までドライブを楽しんだそうです。

「車の慣らし運転も兼ねて、ドライブを中心に今回は旅をしました。妻と交代しながら運転して、下道も多用しながらさまざまなスポットを巡る旅行を計画。栃木や福島、宮城なども通って岩手県まで北上していく旅で、ご飯も地元のお店に入ってグルメを楽しめましたよ」

買ったばかりの愛車で、有意義な旅ができたという近藤さん。
今回は、奥さんの実家には1泊しただけで、ほとんどは車の運転ですごしたそうです。

「渋滞はほとんどなく快適だったのですが、とある温泉地に向かった際は、車がすれ違うのがギリギリな山道を夜間に通って怖かったです。都内では味わえないようなワイルドな道も多く、ジープの性能をしっかりと感じられました。車がメインの移動になりましたが、地方には道の駅も多くて休めるし、時間に余裕があったのでドライブを堪能できました。ただ、道中では地元ナンバーの老人が国道で普通にガンガン飛ばしていて、カルチャーショックを受けました(笑)。警察の取り締まりも少ないようで、荒い運転の人が多かった印象です。こちらはジープだしそんなに飛ばすつもりはなかったので、何度か煽られたり幅寄せされたりしましたよ」

危険運転が多く、“歩行者軽視”の傾向が…

田舎道で地元民の運転にカルチャーショックを受けたという近藤さんですが、もっと驚いたのは交通ルールを守っていない人が多かったことだとか。全員がそうだとはいえないものの、実際に近藤さんは何度か危ない目にあったそうです。

「一時停止を無視して突っ込んできたり、車線変更禁止のレーンで割り込んできたりと自由に運転している人が多かった。その殆どは、運転席を見ると老人ばかり。東北では曲がる直前にウインカーを出すドライバーが多く、かなりひやりとする場面も多かった。基本的には、前の車と車間距離をしっかりとって運転していましたね。また、横断歩道で誰かが待っていても止まらないドライバーが多かった印象です。
都会と違って歩いている人よりも車のほうが多いので、どうしても歩行者軽視の傾向に思えました」

追い抜こうとした車が目の前で「当て逃げ」

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地元のドライバーの運転に違和感を覚えていた近藤さんですが、とある場面で驚きの光景を目にしたそうです。

「信号のない横断歩道で待っている自転車の女性がいたので、交通ルールに沿って一時停止したんです。そうしたら、後ろの車が急に追い抜きをかけて横断歩道を渡る女性に接触しそうになった。女性は自転車ごと倒れてしまい、われわれが救護したのですが、そのうちに追い抜きをかけたドライバーは逃げていったんです」

悪質極まりないドライバーに遭遇した近藤さん。ひとまず、女性の救護は奥さんに任せて、「当て逃げ」疑惑のある車を追い掛けたそうです。

「追跡すると意外にもすぐ近くで信号待ちをしていた。そのまま追跡して、その車がコンビニに入った際に、一緒に停車したんです。ドライバーは60代くらいの初老の男性で、声を掛けるとこちらに気づいたのか喧嘩腰で逆ギレしてきた。その男性が言うには、われわれの運転が遅かったので追い抜いたら、たまたま横断歩道をわたっている人がいた。ぶつかっていないので当て逃げでも無いし、そもそもこちらの車が遅かったのが悪いと言うんです」

土下座するも、許されるはずもなく…

なんとも身勝手な悪質ドライバーと対峙することになった近藤さんは、すぐに警察に通報。現場に駆けつけてもらったそうです。

「こちらが警察に電話する際には怒鳴り声をあげるなど元気だったのですが、実際に警察官が来ると急にオロオロしはじめたんです。警察官に一部始終を説明し、こちらはドライブレコーダーのデータもあるので提出する意思があることを明かした。すると、その初老の男性は人目もはばからず土下座しはじめ、見逃してほしいと謝罪してきたんです。
警察官も許してくれるはずもなく、現場の横断歩道までその男性と自分、警察車両で戻ることになりました」

現場検証中に「足がガクガク震えていた」

近藤さんは奥さんに連絡を取ると、横断歩道を渡ろうとしていたのは女子高生で、足に怪我をしているので救急車を呼んだのだそうです。

「われわれが現場につくと救急車も到着していて、かなり大事になっていて。逃げた男性もこんな事になっていると思っていなかったようで、現場検証中に足がガクガク震えていました。われわれも警察に状況を説明し、ドライブレコーダーのデータを提供。警察官に後日聞きましたが、女子高生が押していた自転車に少し車が接触していたようで、当て逃げの容疑で捜査されるとのことでした」

非常識なドライバーを、しっかりと確保してお手柄の近藤さん。とはいえ、なんともモヤモヤする気持ちが残ったそうです。

「逃げた男性を追い詰めたときも、悪いことをした意識が希薄だったんです。たぶん、普段から無謀な運転をしているんでしょうね。今回だって、一歩間違えたら歩行者を轢き殺していた可能性があるし、運転する際は危ない乗り物に乗っているということを、しっかり意識しなければダメだと改めて考え直しました」

知らないうちに、自分も今回の無謀なドライバーのような運転をしているかもしれない。いま一度、車に乗る際は安全運転を心がける必要がありそうだ。

■ 数字が語る「暴走の代償」と取り締まりの現実

歩行者の安全を守るという正しい行動が、無理な追い越しや、取り返しのつかない事故の引き金になってしまう。そんな不条理がまかり通る公道ですが、法と「記録」の目は、決して悪意を見逃しません。

このルールは、自転車であっても「降りて押して歩いている」場合は歩行者として適用されます。
今回のエピソードでも、「女子高生が押していた自転車に少し車が接触」という描写がある通り、法的には明確に歩行者となります。

この横断歩道での歩行者妨害(道路交通法第38条違反)の反則金は、普通車で9,000円。しかし、今回のように負傷者がいるにもかかわらず逃走すれば「救護義務違反(ひき逃げ・当て逃げ)」となり、反則金では済まない重い刑事罰(10年以下の懲役または100万円以下の罰金など)と、即座の免許取り消しという、あまりに重い代償が待っています。

加害者がどれほど身勝手な主張を繰り返しても、ドライブレコーダーという「客観的な証拠」の前では、土下座も謝罪も通用しません。一瞬の苛立ちが生んだ暴走は、一瞬でその人の人生を狂わせるブーメランとなります。

「急いでいるから」「自分は悪くない」という言い訳は、警察の前では無力です。法を正しく理解し、常に冷静なハンドルさばきを心がけること。それこそが、理不尽な悪意から自分と、そして周囲の命を守り抜く、最強の防衛策なのです。

<TEXT/高橋マナブ 再構成/日刊SPA!編集部>

【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている
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