物流業界の人手不足問題が深刻化するなか、宅配業者への配慮を求める声は年々大きくなっている。コロナ禍を経て「置き配」が定着し、2024年からは東京都をはじめとした自治体で「カスハラ防止条例」も施行された。
しかし、現場の環境が劇的に改善したかと言えば、答えは否である。「殺すぞと連呼されて、警察を呼んだこともある」。そう語るのは、現役のドライバーとして働くさりーchan(@Sarrys_)氏だ。Xで物流業界のリアルを発信する彼女に、私たちが直面しているカスハラの過酷な実態を聞いた。
「今すぐ来い!」再配達で15分罵倒…現役女性配達員が明かす“...の画像はこちら >>

「ゴネ得」を狙う迷惑客の存在

時間帯指定は便利なサービスだが、配達員にとってはトラブルの火種になりやすい。19~21時指定の荷物を不在のため持ち帰った際、さりーchan氏は執拗な連続着信に見舞われた。

「19~21時指定のお荷物を19時半にお届けに行ったものの、ご不在でした。そのため不在票を入れて残りの宅配ルートに回っていました。すると20時頃に着信があったのですが、運転中だったので電話に出ることはできませんでした。すぐに折り返そうと、車を停められる場所を探して5分ほど走っている間に、何度も電話が鳴るんです。停車して開くとすべて同じ人からの着信でした」

さりーchan氏の予感通り、折り返しで繋がった男性からは「今帰ったからすぐ来て!」と横柄な命令が飛んだ。距離が離れているため後日になる旨を伝えると、男性は逆上したという。

「『あなたが電話に出なかったせいで、時間が遅くなったんですよ。
それは、あなたのやる気がないってことですよね』と、無茶苦茶なことをおっしゃるんです。配達の件だけでなく、『こっちは帰宅中に不在通知がきたから、運転しながら電話をかけてたんだよ! もし、それで捕まったり事故を起こしたら、責任取れるんですか!?』とまで言われてしまって。そこから15分くらい、電話口で怒鳴り散らされました」

こうした「ゴネ得」的な考えを持つ客は、電話が長引くほど後続の配達に影響が出ることを理解しない。結局、さりーchan氏は「今から行きます」と言わない限り解放されない状況に追い込まれ、サービス外の時間外再配達に応じることになった。

インターホンをめぐって激昂される

ハラスメントを行う客の中には、自分の非を認めず、平然と嘘をつく者も少なくない。よくあるのが、不在通知を巡る「インターホン論争」だ。

「よくお届けするお宅で、最初に伺ったときはいつも停まっている原付バイクも車もなかったので、『ご不在かな』と思いながらインターフォンを押しました。複数回押しても応答がなかったので、不在票を入れて次の配達に向かったんです。しばらくするとその方からお電話があり、出ると『俺の荷物は!?』と声を荒らげられて。『インターフォンを押したんですが、ご返答がありませんでしたので』と言いましたが、『鳴ってない!』とおっしゃるんですよ」

さりーchan氏は確かにチャイムの音を確認していたが、平身低頭に対応するしかなかった。男性はさらに「15分後に来い!」と言い捨てて電話を切ったが、数分後に再び連絡が入る。

「『お前、さっき15分前に来たって言ったよな。今、インターフォンの履歴を見たら10分前じゃねーか! 嘘ついたのかよ!』と怒鳴られて……。
『履歴が残ってるなら、鳴ってるじゃん』と思いましたが、到底口には出せませんでした。再配達に戻ると、1度目にはなかった車がしっかりと車庫に停められていた。荷物を渡し終わって、車に戻った瞬間に叫びたくなるくらいのストレスでした」

女性配達員を狙う、卑劣なセクハラ

物流業界は依然として男性中心だが、女性ドライバーも増えている。しかし、そこには女性特有の深刻なリスクが潜む。さりーchan氏によれば、さほど珍しくないのだという。

「荷物を受け渡すときに、不必要に私の手を握るような感じで受け取られたり、階段の段差で『危ないよ』と腰に手を回されたりしたことは、まあありますよね。ただ、このくらいでは気持ち悪いと感じて、相手に性的接触の意図があることを証明するには足りず、明確な対応は困難なのが悲しいです」

中には命の危険を感じるほど、あからさまな被害に遭遇することもある。

「コピー用紙は重たいので『どこかに置きましょうか?』とご提案すると、男性の方に『そこのカウンターにお願いします』と言われました。そこで店舗の中に少し入らせていただいて、カウンターに荷物を置きました。すると、後ろでカチャってドアの鍵をかける音が聞こえたんです。そして『そうやって男性に背中を向けて、何かされたらどうするの?』とおっしゃったんです。これは気持ち悪かったし、恐怖を覚えました」

現場の負担を減らすためには…

宅配業者が受ける無理難題は、対面時だけに留まらない。「置き配」指定であっても、ドライバーの良心的な判断が裏目に出ることがある。


「普段から置き配希望の方だったんですが、その日は雨も風も強かったうえ、軽いお荷物だったんです。濡れたり汚れたり、最悪飛ばされてしまう可能性もあり、置き配はできない状況だと判断しました。そこで、一度お電話をして状況を伝えようとしたのですが、繋がりませんでした。やむなく持ち帰ったんですが、後から『なんで置いて帰ってないんだ!』とお叱りを受けました……」

物流は社会の血管であり、ラストワンマイルを支える人間の存在は代替不可能だ。しかし、人手不足や異常気象、燃料費高騰など、業界を取り巻く状況は明るくない。便利なサービスの向こう側にいる「人間」の存在に、私たちは今一度、想像力を働かせる必要がある。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
編集部おすすめ