健康診断で血圧や血糖値、コレステロールなどの数値を気にする人は多いです。しかし、「口の中の状態」を気にしている人はどれくらいいるでしょうか。

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実は近年、歯周病は単なる口の病気ではなく、糖尿病や心血管疾患などの生活習慣病と深く関係していることがわかっています。歯茎で起きている慢性的な炎症が、血流を通じて全身の健康にまで影響する可能性があるのです。今回は見落とされがちな「口の健康」と生活習慣病の意外な関係について、歯科医の観点から解説します。

健康診断ではわからない「もう一つの生活習慣リスク」


歯を放置するとカラダが壊れる。歯周病が“生活習慣病”を悪化させる意外な理由
歯周病によって歯を失っている男性。残っている歯も歯茎が下がり、歯と歯の隙間も大きくなっている
健康診断では、全身の健康状態を隅々まで確認します。しかし、チェックされることがなく、見落とされがちなのが“口の健康状態”です。口のトラブルのなかでも、全身の病気と密接に関わりがあるのが「歯周病」です。

歯周病とは、歯と歯茎の境目(歯周ポケット)に細菌が増殖し、歯の周囲、骨や歯茎に炎症が起こる病気です。「朝起きた時に口がネバネバする」「歯磨きで出血する」「歯茎が下がってきた気がする」など歯周病の初期のサインは、大きな症状ではないため見落としがちです。特に、歯周病菌が発するガスは、強烈な口臭の原因となるのですが、本人はなかなか気づけないものです。

ビジネスシーンにおいて、口臭は第一印象を悪くしてしまうリスクがあり、歯周病の初期のサインの中でも一番深刻な問題です。知らぬ間に「スメハラ(スメルハラスメント)」の加害者になっているかもしれません。日本の成人の多くが、歯周病の兆候を持っていると言われています。歯周病が進行すると、歯周病菌が血管に入り込み、全身に影響を与える可能性があります。


◎歯周病の初期サイン
・歯磨きをすると出血する
・歯茎が下がって歯が伸びた感じがする
・歯茎がむず痒い
・歯が浮いているような感覚がある
・噛むと痛い時がある
・朝起きた時に口の中がネバネバする
・口臭が気になる
・舌で口の歯をなぞるとザラザラする

男性ほど歯周病リスクが高い理由

歯を放置するとカラダが壊れる。歯周病が“生活習慣病”を悪化させる意外な理由
下の前歯に歯石が多く付いている。歯周病の進行で歯並びにも異変がある
男性は、歯周病リスクが高い傾向があります。以下の理由にみなさんは当てはまるでしょうか。

・喫煙量が多い(ヘビースモーカー)
・仕事によるストレスと慢性疲労
・外食など不規則な食生活
・歯科医院の受診率の低さ
・多忙から時間がなく歯磨きが疎かになりやすい

忙しさとストレスから、生活習慣が乱れやすく、歯周病のリスクを高めているのです。

糖尿病と歯周病は“相互関係”で悪化する

まず、歯周病と特に関係が深いとされているのが糖尿病です。

糖尿病では、網膜症や神経障害など合併症を引き起こしやすいことが知られています。歯周病は糖尿病の「第6の合併症」と言われるほど、関連が強いです。

糖尿病の人は、身体を感染から守る免疫機能が低下しやすく、歯周病が進行しやすい傾向があります。また、糖尿病では、血糖を下げる作用のインスリンの働きが低下することで高血糖になっています。高血糖の状態では、炎症は強まりやすいため、歯周病もより悪化しやすくなっています。

一方で、歯周病による炎症でつくり出される物質には、インスリンの働きを妨げて、血糖値のコントロールに悪影響を及ぼす作用があり、糖尿病を悪化させます。つまり、「糖尿病が悪化すると歯周病が悪化し、歯周病が悪化すると糖尿病が悪化する」のです。

歯茎の炎症が血管から心臓にも影響する可能性

歯周病は、動脈硬化や心血管疾患とも関係していると言われています。

歯周病菌や、歯周病によって作られた炎症反応物が血流に入ると、血管の内側では炎症が起こりやすくなります。その結果、血管の壁が傷つき、動脈硬化の進行に関与する可能性があるのです。また、血流に乗って心臓や血管などに移動することで心臓血管系の異常が起こりやすくなります。
実際、アテローム性動脈硬化を起こしている部分から歯周病菌が見つかったという報告が多く出ています。

心臓病の一つである「感染性心内膜炎」の場合、口の中の歯周病菌が血液中に入り込み、心臓の内側を覆っている心内膜に感染して炎症を起こすことが原因となっていることもあります。

生活習慣病を防ぐ「もう一つの習慣」

歯を放置するとカラダが壊れる。歯周病が“生活習慣病”を悪化させる意外な理由
歯磨き残しを染め出した。奥歯や歯と歯の間の磨き残しが目立つ。歯周病によって歯間が広く、歯磨きも難しくなる
歯周病は、生活習慣病の他にも、リウマチや認知症などとの関連も示唆されています。歯周病は、健康を脅かす最初の一歩目かもしれません。歯の健康を怠って糖尿病や心疾患リスクを上げることによって罹患してしまっては、将来的に莫大な医療費がかかります。

歯周病を防ぐためにはどうすべきなのでしょうか。今日から始められる3つのことを紹介します。

①最優先は「就寝前」の丁寧なケア

基本となるのは、毎日の口腔ケアです。定期的な専門ケアも重要ですが、毎日の清潔の積み重ねはとても重要となります。多忙で歯の管理に気が回らなくても、まずは、唾液が減って菌が繁殖しやすい「就寝前」は丁寧にオーラルケアをしてみてください。

②お風呂での「ながらフロス」を習慣に

そして、歯間ブラシやフロスを使って、歯間の汚れや細菌を取り除くことです。

歯周病菌は、歯の表面ではなく、歯と歯の間や、歯周ポケット(歯と歯茎の溝)など、隙間を好んで繁殖するためです。歯間ブラシやフロスはお風呂に入りながらの「ながら」でも良いので習慣化をしましょう。
小さな手鏡も一緒に置いて確認しながら行うと、さらに良いです。

③美容院感覚で「2、3か月~半年に一度」の定期検診を

さらに、歯科医院での定期的な検診やクリーニングも大切です。歯周病は初期の段階では、自覚症状が全くないまま進行していきます。定期的なチェックで早期に発見することが重要です。クリーニングでは、歯周病菌が繁殖しやすい隙間の細菌を除去し、毎日のセルフケアの状態確認を行います。

セルフケアとプロケアの両方が歯周病予防には欠かせません。

美容院に行く感覚で、まずは一度定期検診を予約しましょう。お口の状態に合わせて2、3か月~半年の間隔でスケジュールに組み込んでください。ホワイトニングまでしなくても、プロのクリーニングで歯の表面のある程度の着色は除去され、ツルツルの歯になりますし、歯石やヤニの定期的な除去で口内の清潔を維持することができます。

全身疾患と歯周病の治療のための莫大な医療費を考えると、定期的な歯科検診は最強の投資だと言えます。

生活習慣病は歯周病もカギを握っている

生活習慣病予防というと、食事や運動はとても重要です。しかし、口の健康もまた重要な生活習慣病予防の一つと言えます。
歯を守ることは、単に歯を残すためだけではありません。身体全体の健康を守ることにも繋がっているのです。

栄養、酸素の入り口であり、言語(コミュニケーション)の窓口である口は、私たちの生活や人生で大きな役割を果たしているのではないでしょうか。そう考えると、口の健康にも目を向けたいですね。

<文/野尻真里>

【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari
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