一見、エリート街道を歩んできたように見えるが、その華々しいキャリアの裏側には、数々の苦労があったという。
社長を目指すのは必然的だった
ーー日産自動車でのサラリーマン生活からスタートし、数々の企業でトップを歴任。最初から「社長」を目指していたのでしょうか。岩田松雄:日産に入社した時の自己紹介で「将来は社長になります」と宣言しましたから、変わった新入社員だったと思いますよ(笑)。実家が小さな商売をやっていた影響もありますが、私にとって社長を目指すのは、高校球児が甲子園を目指すのと同じ感覚。サラリーマンになった以上は頂点である社長になりたいというシンプルな動機でした。
ーーとはいえ、大企業でトップに上り詰めるのは至難の業。どのように「社長」への道を切り開いたのですか?
岩田松雄:日産時代では、社内留学制度を使ってUCLAのビジネススクールへ行きました。当時の英語力はTOEIC300点台からのスタートで、死ぬほど勉強しましたね。その後、大きな転機となったのがゲーム会社「アトラス」の社長就任です。コカ・コーラという安定した外資系トップ企業から、当時年商200億円規模のオーナー系企業へ。当時アトラスは3期連続の赤字企業でした。給料も数百万下がりましたが、「経営者になるためには、ベンチャー企業の方が勉強になると思い飛び込んだんです。
新しい会社で成功するには「じっくり観察」
ーー「よそ者」としてリーダーシップを発揮するコツはなんですか。岩田松雄:二つ鉄則があります。最初の3ヶ月は黙って観察し、「一つだけでいいからクイックヒット(早期に成果)を出す。新しい会社に行くと、つい前の会社のやり方を持ち込んだり、「ここがダメだ」と指摘したくなりますが、それは反発を招くだけ。まずはじっくり観察して、これまでの歴史や文脈を理解する。一方で、周囲は「お手並み拝見」と見ていますから、目に見える成果も必要です。私の場合、ザボディショップではボディバターのプロモーションを成功させ、イオンの岡田元也社長(当時)に褒められたことで、周囲の見る目が一変しました。スターバックスでは売上が低迷していた時期に「ワンモアコーヒー(2杯目おかわりサービス)」を導入し、V字回復のきっかけを作りました。それで初めて「この人の言うことなら聞こう」といういわゆるステークホルダーからの信頼が生まれ、改革がやりやすくなっていきます。
外資系で出世する日本人の特徴は…
ーー外資系企業のイメージと実態にギャップはありますか?岩田松雄:大いにありますね。よく「外資系はフラットで風通しが良い」と思われがちですが、実際は日本企業よりも遥かに強烈なトップダウンです。上司をファーストネームで呼び合うので親しげに見えますが、上司の言うことは絶対。「NO」と言えば即刻クビになる世界です。
スターバックスは「正念場」
岩田松雄:非常に危惧しています。アメリカのスターバックスに関しては、経営陣が「ミッション」を忘れ、ウォール街(株主・投資家)の方ばかりを見てしまった結果のように感じます。スターバックスの本質は「人々の心を豊かで活力あるものにする」というミッションにあります。しかし、売上や利益を追求するあまり、無理な出店や人員削減を行い、現場のパートナー(従業員)との信頼関係が崩れてストライキまで起きている。これではブランドが毀損してしまいます。日本はまだ堅調のようですが、アメリカからの出店圧力は相当なはずです。いかに日本で築いた素晴らしいスターバックスのブランドを守っていくのか。これからが正念場だと思います。
ーーそうした本国からの要求には、どう対抗していたのですか?
岩田松雄:ザボディショプでもスターバックスでも、欧米の本社から成長に対する強いプレッシャーがありました。
これまでのキャリアで一番大変だったのは…
ーー最後に、これからリーダーを目指す人たちへアドバイスをお願いします。岩田松雄:リーダーシップとは、役職やカリスマ性ではありません。私がこれまでのキャリアで一番大変だったリーダー経験は、社長ではなく、実は「マンション管理組合の理事長」でしたから(笑)。会社なら「社長命令」で済みますが、管理組合は年齢も職業も価値観も違う住民たちを、権限なしでまとめなければなりません。これは本当に大変です。ですからどんなプロジェクトやサークル、飲み会の幹事でも良いのでリーダーの経験をすることが大切です。
リーダーに求められる資質は、洞察力やコミュニケーション能力など多くありますが、一つに絞るとすれば「無私の心」です。「自分の給料を上げたい」「出世したい」という私心をできるだけ小さくして、「部下のため」「お客様のため」「チームのため」に動けるかどうか。幕末、勝海舟が清水次郎長に「お前のために命を捨てる子分は何人いるか」と聞いた時、次郎長は「誰もいません。ですが、子分のためなら私はいつでも命を捨てられます」と答えたそうです。
<取材・文/菅原春二>
【菅原春二】
東京都出身。フリーライター。6歳の頃から名刺交換をする環境に育ち、人と対話を通して世界を知る喜びを学んだ。人の歩んできた人生を通して、その人を形づくる背景や思想を探ることをライフワークとしている。
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