―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

法廷で闘い、舞台では笑いを取る――。現役弁護士のピン芸人・こたけ正義感。
法律という一見堅苦しいテーマをネタに変え、長尺のスタンダップコメディ「弁論」で観客を沸かせる。「笑い」の道を選んだ男に、自身の“正義”を聞いた。
「司法試験も芸人も、目指す感覚は一緒」。弁護士芸人・こたけ正...の画像はこちら >>

弁護士バッジをつけて歩む、芸道

 戦後最大の冤罪事件「袴田事件」から、(※1)「生活保護」まで、現役弁護士ならではの切り口を生かした漫談「弁論」で、一躍注目を浴びたこたけ正義感。「社会派漫談」と見られることも多いが、本人はあくまで「『芸人』としてのチャレンジ」と語る。(※2)ロースクール(法科大学院)時代から彼を知る弁護士・(※3)三輪記子氏が聞き手となり、その半生と芸人哲学に迫った──。

──こたけくんと会うのは、2か月前に大阪であったトークイベント以来やね。

こたけ:そうですね。元は僕が立命館大の法科大学院に通っていたとき、学内の勉強会に2期上だった三輪先生が教えに来ていたことが、出会いのきっかけでした。

──こたけくんは、私が担当していたゼミ生の中でも一番賢かったんですよ。勉強会でたくさんの学生を見てきたからわかるんです。あのとき履修していた男のコと付き合っていた女のコも、めちゃくちゃ賢かったよね。

こたけ:あー! よく覚えてますね、すごいな。僕、芸人の世界に入ったのは弁護士になってからで、そのとき相談したのも三輪先生でした。
「ち〇こさえ出さなければ何やってもええんとちゃう?」と背中を押してもらえて、本当にありがたかったですね。

「司法試験も芸人も、目指す感覚は一緒」。弁護士芸人・こたけ正義感が語る、高いハードルを越え続けるための“合理的思考”
(左)三輪記子氏
──私はこれまで、何かに挑戦しようとすると「お前にはできない」と止めてくる人をたくさん見てきたんですよ。だからこそ、誰かが挑戦するときは「応援する」というスタンスでいたいんです。そもそも、こたけくんが弁護士を目指そうと思ったきっかけって何やったん?

こたけ:昔から、親に何でも屁理屈で返す子どもで「あんたみたいなのは弁護士にでもなったほうがええわ」って言われていたんですよ。それを嫌みと思わず「向いてんのかも?」とストレートに受け取って、中学ぐらいから「弁護士になりたい」って言ってましたね。

――中学・高校と京都で、大学だけ香川に行ってるよね。

こたけ:そうですね。高2の終わりに進路指導の先生に名前の聞いたことがある大学名を出して「弁護士になりたいんですけど、どの大学がいいですか?」って聞いたら「よくわからんけど偏差値高いほうがいいんじゃない?」って言われて。「どこでもええってことやん」と全く勉強しなくなったんです。法学部があって、自分の成績でも受かりそうな国立大学として選んだのが香川大学。でも入学してみたら誰も弁護士を目指してなくて……。情報もなければ仲間もいない。
司法試験って詰まるところ情報戦なのに、今思うと情弱すぎましたね。

──環境的に不利でも、諦めようとは思わなかった?

こたけ:一度も思わなかったですね。「できる」という根拠のない自信があったんです。

──その自信はどうやってつけていったん?

こたけ:ちっさいハードルを自分で設定して、それを越えることでほんまに弁護士になれるか実験していったんです。香川大って、自己肯定感がとてつもなく低い人が多かったんですよ。ロースクールも、法学部出身者向けの2年制コース(既修)と、それ以外の人向けの3年制コース(未修)のうち、僕の先輩は法学部なのに「自信ないから」って未修に行ってたんですね。そこで僕は「弁護士になるんやったら既修に受からなければ」とハードルをあえて設けていました。

司法試験も芸人も、目指す感覚は一緒

──小さいハードルを設けてクリアしていく感覚は、芸人になってからも一緒?

こたけ:全く同じです。プロで売れるかどうかなんてわかんないから、まずは「養成所を卒業する」とか、手が届く範囲にハードルを設けて、そこだけを目指す。いきなり上を見すぎたら、心が折れるじゃないですか。

「司法試験も芸人も、目指す感覚は一緒」。弁護士芸人・こたけ正義感が語る、高いハードルを越え続けるための“合理的思考”
エッジな人々
──そこが賢さなのかもしれへんな。司法試験仲間がいない以外に、壁はなかった?

こたけ:長時間勉強する習慣がなかったことですかね。僕が接してきた範囲で言うと、東大や京大に受かってる人って地頭もいいんですけど、それ以上に受験ノウハウの蓄積がすごいんです。
一日の総勉強時間の増やし方とか、息抜きの方法をよく知っている。僕はそれが全くなかった。勉強法の本を読んでみたり、情報集めから始めました。妻も三輪先生と同じく東大卒なんですけど、「写真みたいに教科書のページを覚えて、頭の中でめくりながら探していた」と言っていました。恐ろしい世界やなと(笑)。

──私も全部ガチガチに覚えるやり方で大学受験まで来たタイプ。でも、司法試験は覚える量が多すぎるから、通用しないんよね。

こたけ:僕も学部時代は、受験ノウハウの蓄積がないから、覚えたことがどこに整理されているのかがわからんままでした。でも、大学とロースクールに6年間通ったら、最後の最後に、ようやく自分が勉強していることを俯瞰しながら見られるようになったんです。それからは「法律で問題を解決する」ということを念頭に置きつつ、「適切な条文を探し出して、結論を出す」という作業の本質をどの科目でも実践していた。司法試験に関しても「本質」に重きを置いたら、全体が一気に整理されたんですよね。

芸人の本質は、「作品」を作ること

──では、芸人という仕事にとっての「本質」って何だと思う?

こたけ:人によっていろんな考え方があるとは思うんですけど、僕自身は「作品」を作ることだと思っています。知名度や人気もある程度は必要ですが、僕自身は、基本的には作品作りを軸に据えて芸人の活動がしたい。


──「弁論」もその一つなん?

こたけ:そうですね。もともと『R-1グランプリ』や(※4)『ABCお笑いグランプリ』などの賞レースは、フリップネタや映像を使ったネタをしていたんです。ピン芸は短い時間で大きい笑いにするのが難しいので、コンビのネタに見劣りしないよう派手な演出で補っていました。でも、それが「その場でウケるためだけのネタ」のように感じて、むなしくなってきちゃって。例えば落語のように、技術を積み重ねていく芸をやらないと、将来的に活動を続けていけなくなるぞって思ったんです。

──「弁論」は社会派漫談のように言われることが多いけど、自分としてはどう思う?

こたけ:弁護士バッジをつけた人間が言うのも何ですけど、正直、芸人の仕事をする上で「弁護士」の肩書には重きを置いていないんです。「弁論」では生活保護や(※5)いのちのとりで裁判といった時事的なテーマも扱いますが、あれもあくまで「芸人」としてのチャレンジです。お笑いってテーマ設定が難しいほど評価されるようなところがある。今さら、僕がコンビニやファミレスの設定でウケるネタを作っても仕方ない。「社会的なメッセージを発信しよう」でなく、「このテーマで爆笑を取るの、すごくない?」という感覚なんです。

──私は’24年、’25年と「弁論」を見させてもらったけど、確かにどんどん面白くなっているよね。「ネタ」と言わず「作品」と表現するのは、作ったものに普遍性を帯びさせたいという意図があってのこと?

こたけ:そうですね。
「弁論」のように、あるテーマについて身一つでしゃべるというシンプルなスタイルほど、自分の中にノウハウや芸が溜まっていく感じがあるんですよ。

──「長く芸人をやる」ことにそこまでしてこだわるのはどうしてなん?

こたけ:舞台でネタをやり続けたいからです。例えばベテランになってなおネタ作りを怠らない爆笑問題さんはやっぱりかっこいいし、自分もああなりたいという気持ちがあります。

一時的な「バズり」には、惑わされたくない

──自分にとっての「本質」を守り抜くため、こたけくんが心がけていることってある?

こたけ:「隣の芸人のやっていることを安易にマネない」は自分に課しています。今は知名度がなくても、TikTokでバズったり、モノマネでいっときの注目を浴びてテレビに出られることもあります。でも、それが5年後10年後の芸人人生にプラスになるかって言われたら、必ずしもそうとは言い切れない。一見おいしそうに見える仕事があったとしても、その先を見てすぐに食らいつかないようにしています。

──自分の理想に一番近い芸人さんはいるの?

こたけ:(※6)ハサン・ミンハジっていう海外のコメディアンが、毎回いろんな社会問題を20分ほどのスタンダップ形式で鋭く斬るNetflixの番組が面白いですね。僕もああいうのをテレビでやれたらいいなとは思ってますね。

「司法試験も芸人も、目指す感覚は一緒」。弁護士芸人・こたけ正義感が語る、高いハードルを越え続けるための“合理的思考”
エッジな人々
──同世代の芸人さんのコンテンツで面白いなと思うのは?

こたけ:元ゾフィーの(※7)上田航平さんが、「東京スケッチャーズ」というユニットで、若手芸人を引き連れてアメリカで全編英語のコントライブをやってるのとか。あとはかが屋さんが、本物の居酒屋でお客さんが普通に食事をしている前でコントする「かが屋の屋根」というライブとか。ダウ90000の公演も、演劇とお笑いの融合みたいなことをやっていて、すごく面白いなと思います。


──将来的に出てみたい番組ってある?

こたけ:ピン芸人として、コメディに軸を置いたスタンスは保っていくつもりです。今、自分がやってるラジオ、ライブ、YоuTubeの3つを拡大した活動をしていきたい。会いたい人はいます。タモリさんとかとんねるずさんとか。

──タモリさんとどういう番組がやりたい?

こたけ:何でもやりたいです。トークもしてみたいですし、『ブラタモリ』のように、一緒に散歩もできれば嬉しいです!

──そういうの、もっと周りに言っていったほうがいいよ。

こたけ:そうですね。目標としてはかなり高い地点にありますが、絶対にやりたいので、言っていきます!

【Seigikan Kotake】
1986年、京都府生まれ。芸人・弁護士。香川大学、立命館大学法科大学院を経て’12年に弁護士登録。法律事務所勤務の傍ら養成所へ通い芸人デビュー。『R-1グランプリ2023』決勝進出など、現役弁護士の視点を生かしたリーガルネタや漫談で人気を博す

(※1)生活保護
’25年「弁論」では、生活保護の受給を「甘え」と断じる偏見に対し、「いつかのあなたを守るための正当な権利」と説いた

(※2)ロースクール(法科大学院)
司法試験の受験資格が得られる専門職大学院。法学の知識がある人向けの「既修者コース(2年制)」と、ゼロから学ぶ人向けの「未修者コース(3年制)」に分かれる

(※3)三輪記子氏
1976年、京都府生まれ。弁護士。東京大学法学部、立命館大学法科大学院を経て、’09年に8度目の挑戦で司法試験合格。現在は多数の情報番組に出演

(※4)ABCお笑いグランプリ
デビュー10年以内を対象としたお笑い賞レース。こたけは’23年大会で、スキマスイッチの楽曲の歌詞を弁護士の視点で「リーガルチェック」するネタを披露

(※5)いのちのとりで裁判
生活保護基準の引き下げの違憲性を問う全国訴訟。’25年「弁論」では、複数の地裁の判決文で共通の誤字が見つかった「コピペ判決」の疑惑に触れた

(※6)ハサン・ミンハジ
インド系移民2世の米コメディアン。巨大IT企業の独占や移民法などを鋭く解説。’19年『タイム』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた

(※7)上田航平
1984年生まれ。お笑いコンビ「ゾフィー」結成後、『キングオブコント』決勝に2回進出。同コンビ解散を経て、現在はドラマ・舞台の脚本執筆などを行う

取材・文/堤美佳子 撮影/植田真紗美

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