一般的な家庭で育つも、姉とは深い溝が
――幼少期から書籍が身の回りにある家庭環境だったとか。たまき:そうなんです。父は上場企業勤務の会社員で、母はパートというごく一般的な家庭で、家には図鑑や純文学のたぐいが多くありました。小さい頃、美術館にもよく連れて行ってもらっていて、よく可愛がってもらったと思います。
――お母様との関係が良好な反面、お姉様とは反りが合わないそうですね。
たまき:どちらが一般的かといえば、姉のほうでしょうね。姉がジャニーズや韓流アイドルに熱を上げているとき、私はアングラな本を好んで読んでいました。姉はそんな私が不可解だったようで、しばしば「なんか怖いもの見てる……」とやや蔑んでいるようなところがありました。また、部屋に無断で入って本棚から書籍を抜いていく彼女の癖も許せなくて、自室に鍵を取り付けたこともあります。そんなことがあって、ここ10年はまったく口を利いていません。姉は最近結婚したらしいのですが、それも“伝書鳩”をやってくれる母から聞いたことです。
――自身が好きな世界をバカにされたことで、お姉様との溝が深まった。
たまき:大きなきっかけです。わかり合えないんだなとは、結構前から思っていました。けれども、おそらく母は姉のように“普通”の女性に育ってほしかったんでしょうね。
刺青に気づいた母は泣き崩れ…
――どのようなところからそれを感じますか。たまき:24歳のとき、念願だったBARの開業の話が進んでいました。個人事業主として金融公庫からお金を借りる審査があるのですが、それに落ちてしまったんです。これまで人生において自分で何かを成し遂げた経験がなく、BAR開業に力を入れていただけに、ショックは相当なものでした。私は自死を図り、結果的に助かりました。そのあと、泣きながら母に電話をかけたんです。異変に気づいた母が実家から車で駆けつけてくれたのですが、そこでデコルテまわりに刺青があるのがバレてしまって……。「なんで入れちゃったの」と泣いていましたね。でも私は「これは自分の美学として入れたのであって、お母さんの身体じゃないから」と伝えました。
「150センチ65キロ」から「35キロ」に
――時間軸が戻りますが、小中学生のときはイジメに遭っていたとか。たまき:母がたくさん美味しい料理を作ってくれる人で、「いっぱい食べな」と娘たちに食べさせるので、太っていたんですよね。150センチ65キロくらいあったので、小学生時代は「デブ」と罵られて……。中学生の途中から過度なダイエットに振り切ったら、今度は体重が35キロくらいになってしまって。当然、生理も止まります。拒食症と診断されました。
――太っている自分を変えることでイジメから逃れようとした。
たまき:そうです。イジメは止まったのですが、途端に中学校にいる人たちが有象無象に思えてしまって。きちんと勉強しようと思ったんです。もともと読書も好きで学習環境はあったので、地元ではそこそこの進学校に行くことができました。
――進学校だけれども、大学進学は選ばなかった。
たまき:友人にも恵まれて、とてもいい環境だったんです。校風が比較的自由で、私服だしいろんな表現をする子はいるけれど、基本的に勉強を頑張る子が多かったです。高3で理系のクラスに進学したことで、周囲にいたこれまでの友人がいなくなってしまって、病んでしまったんです。机にも向かえなくなって……本当は美大なども検討していましたが、断念して専門学校に行きました。
刺青に費やした金額は「150万円」
たまき:そうですね。脇腹のあたりに彫ったのが最初です。1つ彫ると、「次はあの場所にこれを彫りたい」というのが次々に浮かんできて……3ヶ月に1回くらいのペースで彫っていましたね。もちろん、その間、母にはバレていません。24歳で自殺未遂をするまでは、隠せていたんです。
――結構なハイペースですが、これまでのトータルの刺青にかけた金額は?
たまき:考えたこともないですね……でも、たぶん150万円はいってますよね。もっとかもしれない。
「刺青=家庭環境がよくない」と一概には言えない
――BAR店員としてキャリアをスタートさせるのは、19歳ですよね。アングラ好きなお客さんが多かったとか。たまき:身体改造の話題で盛り上がることはありましたね。そのなかにひとり、印象的なお客さんがいました。彼は私の「こんなデザイン彫ったよ」「こんな文学作品読んだよ」というのを静かに嬉しそうに聞いてくれる人でした。その彼から「他人がサスペンションをやっているときに、興奮して自分の手首を切っちゃう人とかもいてさ。そういう危険なアングラもあるから、たまきちゃんはどうか楽しみ方を間違えないで」と言われたんです。
――その人の話がいまも生きている。
たまき:幸運にも、そういう危ない経験をせずにアングラを楽しめています。今、その方がどこで何をしているのかわからないけれど、自分が元気でやれていることはいつか伝えられたらいいなと。
――刺青を入れている人を見ると、「家庭環境がよくなかった」と決め打ちする空気もありますが。
たまき:自分が「可愛い」「かっこいい」と思うものを身体に刻んで、それが自らの美意識のなかに焼き込まれているので、あまり関係ないような気もします。
真面目に生きている姿を母に見せたい
――今後のあり方と、特に心配をかけたというお母様への感情を言葉にするとすればどうなりますか。たまき:刺青がある時点で、いわゆる一般社会で働けないことは理解しています。昼職をやっていた時期もありますが、自分には合わないなと感じて辞めました。BARで働く居心地の良さは、私のやや変わった感性を受け入れてくれて、面白がってくれる点でしょうか。4月から、BARの曜日当番のマスターをやらせていただくことになっているので、ぜひこの業界で頑張れたらと思っています。
母は刺青そのものではなく、自立できるかどうかを心配しているのだと思います。私が夜職の世界できちんとお金を稼いで真面目に生きている姿を見せることで、理解はできなくても安心させてあげたいです。
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たまきさんは極めて理性的な女性だ。さらにいえば繊細で、他人の意図や思惑を鋭く見抜いていろんなことを考える。その思考の過程で傷つくことも多いだろう。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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