データ分析で守備と走塁を整え、磨かれた感性で打順を動かす。勝負どころでは奇策を厭わず、固定観念を打ち破る采配で選手の可能性を引き出した。若手には舞台を与え、ベテランにも競争を課す。勝つことより、挑み続けることを選んだ3年間が、球団の空気を変えた。
派手な演出の裏には、理論と観察の積み重ねがある。ハイライトの一手は衝動ではなく、準備と対話の延長線上にある。その「理論で磨かれた感性」の新庄流マネジメントを読み解く。
※本記事は『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社)より適宜抜粋したものです。
大胆さと緻密さの融合で導く采配哲学
24年の飛躍を受けて契約延長となり、優勝を目指した25年。開幕から好調を維持し、球団2位タイ記録となる83勝を積み上げた。対戦相手や状況に応じて柔軟にオーダーを組み替える方針は引き続き健在で、落合博満から「打順も固定されていないんだ。これは監督の考え方一つ。オレにそういう野球をやれるかって言ったら、オレはとてもじゃないけどできない。
4月には試合当日の練習内容で先発出場選手を決めるという異例の采配を試み、ベンチ前に「スタメン、練習内容で決まります!」と掲示して選手の競争心に火をつけている。
「状態の良い選手を使うのは当たり前」と語り、その日の調子や相手投手とのマッチアップを最優先にオーダーを組む姿勢を一貫している。「6番・投手 山﨑福也」という前代未聞のオーダーを組み、山﨑に先制タイムリーを放たせた試合もあった。
ただし、極端なオーダーが常に機能するわけではなく、モイネロ対策打線を敷いた試合では無得点に終わるなど、結果が伴わないこともあった。また、野村を開幕4番に据えて怪我で離脱するまで一定の成功を収めるなど、明確な役割の付与による選手育成も続けている。
進化を遂げた独自の投手運用
投手運用はさらなる進化を遂げ、リーグ随一の安定感を誇った。シーズン当初より先発投手を8~9人で回す拡大型ローテーションを採用。登板後すぐ登録を抹消し十分に休養させる「投げ抹消」を駆使し、通常より長い登板間隔を確保した結果、前半戦だけでチーム完投数19と12球団トップの数字に。先発に無理をさせず長いイニングを任せる運用が際立った。新庄は開幕前に投手コーチ陣へ「先発メンバーを8人で回してほしい」と要望を伝えており、前半戦は計画通りにできたと語った。
特に達は開幕から無傷の7連勝、うち2試合完投でプロ野球記録を更新する快投を見せ、伊藤大海も前年に引き続き安定感抜群で、沢村賞を獲得。先発陣に関しては、近年で最高峰の陣営だっただろう。
リリーフ陣は、人選が目まぐるしく変化した。田中が交流戦前後に調子を落とすと無理に固定せず二軍調整を挟み、代役として若手の柳川大晟を抜擢。さらに8月に柳川を休ませたことでシーズン終盤とCSでは齋藤友貴哉・田中のダブルストッパー体制に。加えて前年のセットアッパー河野が不調の中で生田目や玉井大翔、上原健太、山本、池田、金村が機能し、中継ぎ全体の負担分散にも成功した。
シーズン途中には宮西がNPB史上4人目の通算900試合登板を達成するなど、経験豊富な投手も健在だった。新庄は投手についても打者と同様、固定メンバーより調子の良い選手を次々起用する方針を貫き、誰かの調子が落ちれば別の投手をすぐ補充して結果を出すサイクルを維持した。これが前年に続く優勝争いの原動力となった。
また、高卒新人の柴田獅子を後半戦の開幕投手に指名するなど、恒例の「大抜擢」も見られた。
短期決戦で体現した新庄流の編成
CSではファーストステージでオリックスに順当に勝利。さらに、CSベンチ外の宮西を臨時コーチとして帯同させ、継投プランを一任。新庄ならではの異例の抜擢には、「抹消中でもチーム一丸という形でミッションを与えてくれた。ボス(新庄)じゃないと絶対できない経験」と、宮西本人も驚いた。この判断が功を奏し、初戦は伊藤、田中、齋藤の完封リレーで勝利した。
ファイナルステージは前年に続いてソフトバンクとの戦いに。下馬評ではソフトバンク有利とされる中、新庄は過去の対戦データや直近の状態を綿密に分析し、相手の弱点を突く戦略を遂行した。モイネロへの対策として相性の良い打者を上位に起用したことや、ソフトバンクの中継ぎ陣に球数を放らせた戦術が象徴的だ。第3~5戦では継投策のハマり具合が各所で「新庄マジック」と称賛された。
第2戦終了時点で突破率0%と予測されるが、そこから怒涛の3連勝。データ分析で相手のウイークポイントを突いただけでなく、数字で可視化されない勢いや執念、結束力も大きな要因だった。最終的に第6戦で力尽きはしたものの、対戦成績3勝3敗まで持ち込んだ戦いぶりは、ソフトバンクの小久保監督も認めるほどだった。
新庄はシリーズ後「めちゃくちゃいいファイナルだったし、めちゃくちゃいいシーズン。シーズンを通して頂点をとったソフトバンクさんが日本シリーズに。1位同士が行くのが日本シリーズなので、僕たちが行くべきじゃないと。でも、来年はまだまだ強くなるので。断トツに優勝して日本シリーズに行く準備はします」と語り、ソフトバンクにも敬意を表している。
新庄が就任当初から積み上げてきた改革は、確実に実を結びつつある。選手の成長、チームの一体感、ファンとの距離感。それらすべてが噛み合って迎える2026年は、彼にとっても、チームにとっても一つの節目となりそうだ。
20年前の06年は最後の“新庄劇場”で日本一を掴み、10年前の16年は大谷翔平の二刀流で日本一を掴んだ。10年の時を経て、歴史が再び動く予感がある。
<TEXT/ゴジキ>
【ゴジキ】
野球評論家・著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)・『アンチデータベースボール』(カンゼン)・『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などを出版。
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