多くのメディアはトランプ大統領の「パールハーバー」発言に、高市首相は息を飲み、顔から笑みが消えたと報じている。しかし、映像をよく見ると、高市首相が少し深い息をしたのは「パールハーバー」という単語が出る前のことで、メディアの指摘は少々、まゆつばものであることがわかる。「パールハーバー」発言のポイントは外交の「礼儀」をわきまえないトランプ大統領の日本に対する「無礼」と、日本人としての立場を明確に述べなかった高市首相の「失策」にある。
高市首相の「反応」をめぐる報道と実際のズレ
「パールハーバー」発言に対する高市首相の様子については、ワシントン・ポストは「目を大きく見開き、椅子に深く座り、顔から笑みが消えた」と報じた。ニューヨーク・タイムズも「目を見開き、深く息を深く吸い込んだようだった」と記している。日本のメディアも「目を見開いたものの反論はせず、受け流した」(時事)、「一言も発さず、目を大きく見開いていた」(共同)と報じ、高市首相が「パールハーバー」という言葉に反応したかのように伝えている。本当にそうだったのか。ホワイトハウスがインターネット上にアップしている映像をよく見てもらいたい。開始から24分06秒でトランプ大統領は「日本ほど奇襲を熟知している国はないだろう」と話し始めている。その部分が終わるころ高市首相は軽く深呼吸をし、同時に目が少し大きく開いている。単純に深呼吸に伴う目の動きのように見える。なぜなら、まだ「パールハーバー」という言葉が出ていないからだ。
トランプ大統領の「なぜパールハーバーを教えてくれなかったのか(Why didn’t you tell me about Pearl Harbor? )」という言葉は、英語では「パールハーバー」という単語が最後に出てくる。その「パールハーバー」という単語が飛び出す前に、すでに高市首相は深い息をし、目を大きく開けている。
アメリカ側からトランプ大統領が「パールハーバーの話をするぞ」と高市首相に伝えていない限り、「パールハーバー」という言葉が出て来なければ、これが真珠湾攻撃の話かどうかはわからないはずで、その前の変化は別な要因としか思えない。
トランプ大統領が記者の質問にアドリブで答えた場面でもあり、大統領が「パールハーバー」を持ち出すことを事前に聞いていたという話は官邸周辺からも聞かない。
アメリカの自由なトークを聞き流した高市首相
「パールハーバー」発言はなぜ、これほどまでに内外のメディアの注目を集めたのか。真珠湾攻撃とは1941年12月8日(現地時間7日)、日本海軍の特別攻撃機がハワイにあるアメリカ軍真珠湾基地を奇襲攻撃したことだ。攻撃が日本の「宣戦布告」よりも約1時間前に行われたことから、アメリカ側は「だまし討ち」だと日本を強く非難した。これによりアメリカは日本に「宣戦布告」し、太平洋戦争に突入した。
アメリカ社会の怒りは日系移民にも向けられ、「敵性外国人」として罪もない12万人以上の日系人が強制収容所に送られ、迫害を受けた。
真珠湾攻撃は85年たった現在でも、アメリカで語り継がれている。12月の「パールハーバーの日」が近づくと、三大ネットワークのテレビニュースでも「パールハーバー」にまつわるニュースが特集される。ニューヨークのハドソン川に退役空母「イントレピッド」の船体を利用した「イントレピッド海上航空博物館」という観光名所があるが、入館して早々に真珠湾攻撃にまつわる展示があり、アメリカの真珠湾攻撃への「怨念」がまじまじと伝わってくる。
日本人としては、いつまでも「パールハーバー」を非難されるのには納得がいかない。そもそも戦争などというものはフェアなものではなく、奇襲はつきものである。「だまし討ち」ぐらいのことを非難するのならば、原爆投下や東京大空襲を実行したアメリカのほうが、よほど人の道に反している。そういう思いは、日本人ならば当然のように強く持っているはずだ。
日本人ジャーナリストとして全米を取材しているが、アメリカで「パールハーバー」の話題が出るたびに、「日米両国民は完全に分かり合えないだろう」と絶望感にさいなまれる。それほど「パールハーバー」は日本人とアメリカ人の双方の考え方に違いがある問題なのだ。
このため日本とアメリカの外交の席で、アメリカの大統領が「パールハーバー」という言葉を使うことは今までなかった。歴史認識の違いを表に立たせるだけで、外交には何の得もないからだ。複雑な過去を持つ日米外交のアメリカ側の「礼儀」のようなもので、今回トランプ大統領が「パールハーバー」を口にしたことは、外交の「礼儀」をわきまえない、日本に対する「非礼」な行為といってもいい。
日本への「非礼」に高市首相は、目の前に本人がいながら一言も反応しなかった。アメリカ側が自由なトークで日本をたたいたのだから「日本は多くの犠牲をはらって平和国家として歩み続けている」ぐらいの発信をしておかないといけなかったのだ。
「パールハーバー」発言は、アメリカから非難されっぱなしで、結果的に中国がほくそ笑むこととなった。
【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
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