深刻な人手不足が続く昨今、企業が新入社員に気を遣う場面も増えているという。しかし、そんな売り手市場を「自分の実力」と勘違いし、信じられないほど上から目線で接してくるモンスター新人が現れることもあるようだ。

 そんな体験談を語ってくれたのは、都内のIT企業でWebディレクターとして働く松本祐樹さん(仮名・30代)。松本さん曰く「悪夢を見るほど手を焼いた」という新卒社員の成瀬さん(仮名)は、誰もが知る有名私立大学を優秀な成績で卒業した新入社員だった。

先輩のノウハウを「古い」と一蹴する高学歴新入社員。自信満々で...の画像はこちら >>

いきなりの無礼発言に面食らう

「自分は成瀬のメンターになったんですが、入社してまだ間もない頃に行った1on1ミーティングで、耳を疑う言葉を投げかけられました。『自分のキャリアプランでは、ここで2年間ディレクションを学んで、3年目には外資系のインハウスのディレクターとして転職するつもりです。なので、ここで成長できないと判断したら、早々に『損切り』させてもらうので、そのつもりでいてください』と言うんです」

 これから仕事を教わる立場の人間とは思えない発言に衝撃を受けたという。

「自信があるのはいいことですが、教える側の私に対して『自分にメリットがある環境を提供しろ』と要求してきたわけですから。『すごいのが入ってきた』と社内でもすぐに噂になりましたね」

 入社早々からかましてきた成瀬さんだったが、研修が進んでもその勢いは止まらなかった。

「研修中に、先輩社員たちが培ってきたWebマーケティングのノウハウを教えていると、『それ、効率悪すぎませんか? まだそんな古い手法を使ってるんですか? 僕が本で読んだ最新のノウハウだと、今はこうするのが常識ですよ』と鼻で笑われたんです」

不遜な態度がなぜか評価されてしまう

 実戦経験ゼロの新人が、先輩たちが苦労して試行錯誤を重ねて獲得してきたノウハウを「時代遅れ」と評価し、逆に講義を始めてしまう。

「当の成瀬は『自分は絶対的に正しい』というスタンスを崩しませんでした。さらに厄介なことに、現場の疲弊を把握していないマネージャーが『今時、あんな骨のある奴は珍しい』と彼を評価してしまったんです。人づてにそれを聞いた成瀬は、さらに増長することになりました」

 松本さんの案件の打ち合わせに、成瀬さんが同行した時のこと。

「自分がクライアントに提案をしているときに、成瀬が突然、自分で考えたという案を先方に披露し始めたんです。先方はそのアイデアを面白がっていましたが、成瀬のプランは予算を大幅に無視した、実現不可能な夢物語でした」

 成瀬さんの案に乗り気になってしまったクライアントをなだめるために、その後、事態の収拾に追われることに……。

「打ち合わせを終えて疲弊しきった自分に対して、成瀬が『この会社に僕がいられる期間は、1年もないかもしれませんね』と見下した表情で言い放ったんです。
もう怒りを通り越して、呆気に取られたという感じでした」

肝いりの企画は「AIが生成したような…」

 本人の強い希望もあり、成瀬さんは異例の速さで独り立ちすることになった。最初に担当した案件は、深刻な若手不足に悩む地方の老舗建設会社の採用コンテンツの制作だった。

「現場の熱量や、プロジェクトを成功させるために関係会社を含めて一丸となって取り組むチームワークの良さなど、仕事の魅力を丁寧に取材し、求職者の心に響くコンテンツを作る。それがディレクターの腕の見せ所となる仕事でした。ですが、成瀬が提出したのは、AIが生成したような味気ないテンプレ通りの構成案でした」

 無論、松本さんは「現場の声をもっと引き出して作らないと誰の心にも刺さらない。構成案を変えた方がいい」と伝えたのだが……。

「成瀬は『そんな感情論、今の時代には通用しませんよ』と鼻で笑い、聞き入れようとはしませんでした。忠告も聞かずに先方に提出してしまい、それが通ってしまったんです。結果は残酷でした。公開されたサイトの滞在時間は極端に短く、応募数はまさかの『ゼロ』。激怒したクライアントの社長から、『うちの良さが1ミリも伝わってこない! プロに頼んだのに、なんだあの薄っぺらい内容は! うちを舐めているのか!』と会社に直接電話が入ってしまったんです」

反省の色は見えず。そして……

 先方の担当者も経験が浅く、成瀬さんの「これが今の時代の採用コンテンツです」という言葉に乗ってOKを出したものの、結果を聞いた社長の目は誤魔化せなかった。
 
「電話越しに隣にいた自分にも聞こえてくるぐらいの怒号でした。
あれほど自信満々だった成瀬の顔から、みるみる血の気が引いていきました。とはいえ、成瀬のことなので『自分のプランはあの会社には早過ぎました』とか強がるんだろう。それでも、少しは現実を知る機会になればと思ったんですが……」

 成瀬さんは、松本さんの予想を裏切る行動に出た。

「1週間後、成瀬はあっさりと辞職を申し出てきたんです。『この業界は僕のような先端的な人間の能力は活かせないことが分かりました。もっと自分にふさわしい、ハイレベルな業界で活躍することにします』と言い残して退社していったんです」

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 入社から半年も経たずに業界・会社・先輩などあらゆるものを批判して去っていった成瀬さん。伝説の新人としていまだに語り継がれているという。

<TEXT/和泉太郎>

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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