令和の日本人にとっては寝過ぎどころか、極端な寝不足や睡眠の乱れこそが大きな問題である。経済協力開発機構(OECD)の2021年データによると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で先進33カ国中最低。上位のアメリカや中国などに比べ、実に1時間半ほども短い。ましてや春シーズンは昼夜割合の急変や気候の寒暖差、新年度&新生活がストレス要因となり、睡眠にも悪影響が出がちだ。
そこで今回は医療法人社団藤和東光会 藤保クリニックの院長・飯島康弘氏に話を伺い、「新年度・春シーズンの睡眠トラブル」をテーマに、寝るうえでNGな生活習慣などを紹介する。当記事を参考として、読者がこれから少しでも枕を高くして寝られれば幸いである。
春期のストレスがホルモン分泌と睡眠を乱す
新年度早々から不調に陥った状態として「五月病」はよく知られている。4月の環境変化に適応できず、無気力や食欲不振等が表れている様子のことだが、この時に睡眠面ではどのような変化が出るのか。「4月は様々な要因で自律神経への負荷が一気に押し寄せてくる時期です。多くの人は『新年度だから頑張ろう!』と気を引き締めますが、そのせいで疲労やストレスが表に出にくくなり、その無理が、5月のGW明けなど、気が緩むタイミングで表面化しやすくなります。とりわけ睡眠面では、布団に入っても頭が働き続けて眠れない『入眠困難』と、長く寝ても疲れが取れない『倦怠感』、そして『日中の眠気』が問題ですね」
これらは意志の弱さでなく、ストレスや睡眠リズムの乱れが背景にあると飯島院長は語る。そこには自律神経の乱れに加え、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌リズムの崩れも関わっているそうだ。
「コルチゾールは副腎(左右の腎臓に付属する小さな器官)から分泌されるホルモンで、本来は朝に分泌量を増やして体を起動させ、夜には分泌が下がることで身体を休息モードに入りやすくする、時計のような役目を果たしています。しかし、春先に強いストレスや睡眠不足が続くと分泌リズムが乱れ、夜になっても心身の緊張が抜けず入眠しにくくなったり、朝にすっきり起きられなくなったりするのです」
この睡眠とホルモンの関係は一方通行ではない。ストレスが睡眠を乱し、睡眠の乱れがホルモンバランスを崩して、それがさらに睡眠を乱すなど双方向的なものだ。その影響は食欲・血糖値・体重など様々な箇所に表れるので要注意である。但し、睡眠の乱れが全てホルモン起因とは限らないので、睡眠の不調がある時はホルモン以外にも複数要因を確かめる必要があるとのことだ。
春の宴会シーズンは「お酒」にご注意!
「歓送迎会や花見のシーズンは飲酒機会が多いですが、それ以外でも『遅い帰宅で寝る直前にガッツリ食べる』パターンは要注意です。就寝前に高脂肪・高糖質を食べると、胃腸が休まらず、寝つきや睡眠の質を下げてしまいます。逆流性食道炎などがある方は、さらに悪化しやすいので注意です」
酒を飲んだ方が眠りやすいと「寝酒」の良さを主張する人も多い。これについて実情を聞いてみた。
「半分正解、半分誤解ですね。アルコールは鎮静作用があり、確かに飲酒直後は眠気が出やすく、寝つきが早まることもあるのですが……。
「寝る時間を毎日固定」で享受できるメリット
就寝前の入浴や、筋トレやストレッチといった運動についても気になるところだ。飯島院長いわく、どちらも基本的には睡眠の質向上にプラスなのだが、熱めの入浴や激しい運動を就寝直前に行ってしまうと、交感神経を刺激して逆効果にもなりえるそうだ。「タイミングに気をつけてみましょう。入浴であれば就寝60~90分前に38~40℃程度のぬるめの湯に入ると、身体の深部体温が一度上がってから後ゆるやかに下がり、眠りに入りやすくなります。運動は軽いストレッチやヨガにとどめ、強度の高い運動は日中~夕方に回すのが無難です」
これらに加えて、寝る時間をあらかじめ決めておくことも飯島院長は推奨している。
「起きる時間は仕事や学校で固定されがちですが、寝る時間なら自分で調整できる余地は大きいですよね。例えば『23時に寝る』と決めれば、逆算で『22時までに入浴』『21時までに夕食』と行動を整理しやすくなります。寝る時間を固定すると、睡眠に影響する生活習慣を前倒しで片づけやすくなりますよ」
スマホは「光」と「中身」が睡眠の大敵
夜は日中の仕事が一段落した後の余暇時間でもある。趣味に費やしたり、SNSで友人らと交流したりする人も多いが、この時の注意点はどのようなものか。「メールやSNS、チャットツールを寝る直前まで見続けたり、ゲームや動画を『あと少しだけ』と続けたりするのは推奨できません。脳が仕事中(興奮)モードのままになり、寝つきが悪くなってしまいます。
とりわけ飯島院長が睡眠への悪影響を指摘しているのが、就寝前のスマートフォン利用だ。しかも、その理由は一つではない。
「まずは画面の光そのもの。スマホの明るい光は体内時計やメラトニン分泌に影響し、寝つきを悪くすることが実際に確認されています。次に、スマホで見ている内容による「脳の興奮」も影響大です。SNS・ショート動画・ゲーム・ニュースの連続閲覧は、次々に新しい刺激が入ってきて脳の休まる暇がありません。SNSやゲームは『次に何か面白いものが来るかも』という予測不能さで関心を惹くので、止めたいのに止められない状態となり、結果として就寝時刻自体が遅くなってしまいます」
つまり、スマホは「光だけ」でも「内容だけ」でもなく、両方が重なって睡眠の時間と質を大きく削ってしまうのだ。ついダラダラとスマホにかじり付く状況を避けるために、どのような工夫があるだろうか。
「実践的なコツとして、まずは『寝室にスマホを持ち込まない』ことです。充電はリビングで行い、目覚ましはアプリでなく別の時計を使い、物理的に距離を置くのが最も有効でしょう。
このほか、飯島院長は「終わりのタイミングがあり刺激の少ないもの(電子書籍、音声コンテンツ、穏やかな音楽など)を楽しむ」「画面の明るさを落とし、ナイトモードを使う」といったことも有効だと話した。寝る1時間前からSNSの通知を切るだけでも、少なからず効果は表れるそうなので、気になるなら試して損はない。
早起きが三文の「損」になってしまうケースも?
記事冒頭の「春眠暁を覚えず」以外にも、「寝る子は育つ」など睡眠について触れたことわざや故事は多い。その一つで有名なものが「早起きは三文の徳」だ。早起きすれば多少は良いことがあるはずとの例えだが、飯島院長が言うには、早起きが必ずしも健康や生活習慣につながるとは限らないようだ。「人には生まれつき『朝型』『夜型』『中間型』という遺伝的な体内時計の個人差、いわゆる『クロノタイプ』があります。例えば、夜型の人が無理に朝型生活を続けると、慢性的な睡眠不足や集中力低下につながりかねません。単なる根性論で『朝が苦手なのは怠けだ!』などと決めつけず、自分のクロノタイプに合わせることが大切です」
また、「平日は早起き、休日は何時間も寝坊」といった生活を繰り返すと、平日と休日とで睡眠リズムがズレてしまい、毎週末ごとに時差ぼけのような症状や、月曜朝の不調やだるさが発生する。このリズムのズレは「ソーシャル・ジェットラグ」と呼ばれており、これも睡眠不調の原因を探るうえで重要だと飯島院長は語っている。
「クロノタイプやソーシャル・ジェットラグを探るうえで比較的簡単なのは、休みの日に目覚ましを使わず、自然に起きた時刻を数日記録してみることです。とりわけ連休前半は睡眠不足の“返済”で長寝することがあるので、後半の数日を見るほうが自分本来のリズムをつかみやすくなります。Apple Watchなどのウェアラブルデバイスも、自分の傾向を知る道具として有効ですね」
二度寝は目覚めを悪くする
ただし、これらの自己診断は医療用検査ほど正確ではないので、あくまで「傾向把握」に留めた方が無難である。「この時間に寝ると翌朝が楽」「休日に寝坊しすぎた後は月曜がつらい」といった自己パターンを確かめ、「睡眠の取扱説明書」を作ってみるとよいだろう。「ちなみに、『二度寝は健康に良くない』とは時折言われますが、これは条件付きで本当です。目覚ましスヌーズを何度も繰り返して細切れに眠るパターンは目覚めを悪くしやすく、睡眠慣性(起床後の強いだるさ)を長引かせることもあるので注意しましょう。朝に何度も寝直したくなるなら、まず見直すべきは睡眠時間の確保と就寝時刻です」
自分の睡眠を知ることと、地道な生活改善が大事
記事の最初で触れたように、日本人の平均睡眠時間は先進国内でも最低の水準であり、自己責任のレベルを越え、社会問題として捉えるべき面が大きい。長時間労働、通勤時間の長さ、夜遅い社会活動、「寝ていないのが頑張り、寝るのは怠惰」のような同調圧力が、個人努力だけでは改善しにくい睡眠不足の土壌となっていることも考えられる。「この影響は、実は経済面でも小さくありません。RAND Europe(欧州の非営利・非党派の政策研究機関)が2016年に公表した試算によると、日本の睡眠不足による経済損失はGDP比2.92%。試算当時の為替水準では約20兆円規模にも相当します。睡眠は贅沢ではなく、健康と生産性を支えるインフラだと考えるべきです」
ただ、現状を改善する動きも進行中だ。大きな流れは「睡眠の可視化」「CBT-I(※不眠症に対する認知行動療法)の普及」の2つあると、飯島院長は説明する。
「1つ目の睡眠可視化については先に述べたとおり、スマートウォッチやアプリによって睡眠傾向を自主把握しやすくなりました。もちろん病院でのポリソムノグラフィー(※身体にセンサーを付けて就寝することで睡眠障害を確認する精密検査)ほどの精度はありませんが、『寝不足続き』『中途覚醒が多い』などの傾向を見つけるきっかけとして有用です」
2つ目のCBT-Iとは、思考や信念など「心理的要因」と生活習慣などの「行動要因」に向き合い、ケアをすることで薬を用いずに不眠を改善する方法だ。特に慢性不眠症に対しては海外の医学会で第一選択として位置づけられており、対面療法のほかデジタル・オンラインの支援も広がっているという。
「厚生労働省の医道審議会が2026年3月6日付で提出した意見書では、『睡眠障害』を既存の診療科名と組み合わせて標榜可能な用語に追加することが適当とされました。今後は日本の制度面でも、より進んだ睡眠医療の普及が期待されます」
「睡眠は、血糖、ホルモン、免疫、メンタルを支える土台です。眠れないことは恥ずかしいことではありません。困ったときは、早めに専門家へ相談してください」
最後に、飯島院長は「睡眠の問題を『自己責任』だけで片づけないでほしい」と語っていた。不眠の原因は自分の管理不行届だと思ってしまう人は多いが、上記のとおり睡眠には社会背景も深く関わっている。自分を責めたり追い込んだりせず、就寝時間やスマホの扱いなど、地道な改善の積み重ねをしていこう。
<取材・文/デヤブロウ>
【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2~3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。好きなエリアは浅草~上野近辺、池袋周辺、中野~高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw
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