―[言論ストロングスタイル]―

 トランプ米大統領の朝令暮改に世界が振り回されている。
 一時はイランの発電所攻撃さえ示唆して脅迫しつつ、直後に「イランの方がディールを求めている」と攻撃延期を表明ーーその一貫性を欠く言動が原油相場や株価を乱高下させ、国際社会は固唾をのむ。
国際社会が「予測不能」と評する中、憲政史研究家・倉山満氏は「本当にブレているのか」を冷静に検証する(以下、憲政史研究家、倉山満氏による寄稿)。

世界を翻弄するトランプ発言 イラン攻撃でも辻褄が合う驚愕シナ...の画像はこちら >>

トランプの発言は本当にブレているのか

 先が見えないアメリカとイスラエルのイラン攻撃。そして毎日のように変わるドナルド・トランプ米国大統領の発言に世界中が振り回されている。ブレブレと評される。

 では、本当にブレているのだろうか。検証した人はいるのだろうか。そう考え、私が理事長兼所長を務める救国シンクタンクでは調査してみることにした。本稿は、その途中経過の発表である。
 アメリカは昨年、12日間戦争でイスラエルとともにイランを攻撃した。その後もイランと核放棄をめぐる交渉を続けてきた。

 そんな2月13日、トランプは空母打撃軍派遣とともに、「体制転換が起きれば最善」と発言した。19日には、「次の10日が節目」と脅迫。

 本気で戦争をする気かとの不安が高まる中、ケイン統合参謀本部議長がトランプに対し、「イランへの軍事作戦は紛争長期化など重大なリスクを伴うと助言した」と報じられた。
これをトランプは全面否定。

27日、トランプはイランの姿勢に不満を示すも、軍事行動は最終決定していないと発言。その直後に攻撃承認(と後日判明)。

28日にイスラエルに続く形で攻撃開始。初動でイラン最高指導者のハメネイ師を殺害。「武器を捨てろ、さもなければ確実な死に直面する」と脅迫しつつ、イラン国民に決起をうながすメッセージを発している。

朝令暮改は日本に対しても「日本はNATOとは違う」

 3月3日、イランの新しい指導者は現体制内から選ぶのが適切だとの考えを表明。「内部から適任者を選ぶのがよい」と語る。

 6日、イランとの合意は「無条件降伏以外はあり得ない」「4~6週間で目標達成」との姿勢。

 この頃には原油価格が高騰、弱気な発言とのブレを指摘され始める。

 8日、イランへの攻撃を停止する判断はイスラエルのネタニヤフ首相と共同での決定になると発信。

 9日、「戦争はほぼ完了していると思う」としつつ、イランが最高指導者にハメネイ氏の次男を選出したことに「失望した」と。

 11日、イランには「事実上、攻撃対象にするものは何も残っていない」と述べたが、「私が終わらせたい時に終わる」と引き続き具体的な時期への言及は避ける。


 14日、イランを「あと2日もあれば完全に壊滅させるだろう」とし、イランの石油輸出拠点のカーグ島について「完全に破壊したが、面白半分であと数回攻撃するかもしれない」と言いつつ、と攻撃を続投。

 15日には、NATOや日本にホルムズ海峡の平和に関して協力を求めてきた。ところが17日には、「必要ない」と修正。そして19日の高市早苗首相との会談後には、「日本はNATOとは違う」と持ち上げる。

 21日、イランが48時間以内にホルムズ海峡を開放しなければ、発電所などのエネルギー施設を標的に攻撃を始めると表明。ちなみに発電所への攻撃は、国際法違反である。

 23日、イランが交渉を持ち掛けてきたとして、発電所への攻撃は延期。現時点では戦闘が継続中だが、停戦交渉が開始されている模様である。

大統領個人の発言は、見事なまでにブレブレ

こうして並べて見ると、色々と見えてくる。

まず、大統領個人の発言は、見事なまでにブレブレである。最初は和戦両様だったのだろうが、イスラエルに引きずられるような形で開戦。体制転覆まで言及するが、空爆だけでそれを望むのは虫が良すぎる。たとえるならば、ローマ教皇を殺害してバチカンを空爆すれば、カトリックを滅ぼせるのか。
千年の恨みを覚悟せねばならないが、イランでは執念深く何百年も恨みを忘れず復讐するのが美徳である。

 そもそもトランプは分かっていないようだが、イランは普通の国民国家ではない。仮にイランを「国民がいて、その代表の政府がいて、領域を統治する」ような国家だと思っていたら、分析不足もはなはだしい。

 イランは、宗教的権威が最高指導者で、宗教勢力が周りを固め、革命防衛隊と称する宗教的信念に凝り固まった武装集団が軍隊と警察を差配し、国民を支配する。そして宗教勢力と革命防衛隊は経済的に結束し、一つのマフィアを形成している。

 トランプは軽く「無条件降伏」と口にするが、それにしてもその降伏文書を誰に署名させる気か。まさか、イランを核攻撃で焦土にし、イラン人全員を殺す訳にはいくまい。

 ただ、「トランプ大統領個人」と「トランプ政権」を分けて考えるべきだろう。本欄でも再三指摘したが、トランプ個人はともかく、トランプ政権は優秀である。

何かイスラエルに弱みでも握られているのか

 今次イラン攻撃で、米国とイスラエルの目的は食い違っている。イスラエルは本気で「イラン抹殺」を狙っている。ネタニヤフ首相は汚職まみれで「戦争を止めたら逮捕される男」と称されるが、保身のためにイラン攻撃を続けているとの見方もある。
ただ、それであったら救いがある。保身を保障すれば戦は止まるので。むしろ、イラン殺戮が自己目的化していたら……。真意がいずれにしても、イスラエルにとってイランは、40年も自分たちを苦しめてきた仇敵であり、「潰せるときに潰せ」は今のイスラエルの総意だ。

 トランプ個人は、何かイスラエルに弱みでも握られているのかと勘繰りたくなる。ベネズエラの戦後処理も終わらない時期に、イランで大戦争を始めるなど正気の沙汰と思えない。陰謀論で色々言われるが、信憑性はある。ただ、今の米国はトランプ個人が最終的に全部決める態勢なので頭が痛いが、仕方ない。

 国務省は最初から投げやりで「イスラエルがやると言うからついていった」と発信している。国防総省も破壊力での優位はともかく、巨大な国土を持つイランを占領などできないし、政権転覆など虫が良いことを前提に作戦を組み立てている

 「トランプ政権」の戦争目的は「イランを殴るだけ殴って、“もういいだろう”とイスラエルを止めること」だとしたら、辻褄が合う。これならアンコントローラブルの大統領が何を言おうが関係ない。

 仮説だが、如何?

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【倉山 満】
皇室史家。
憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本近世史』が2月28日より発売
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