2月に日本武道館で開催されたあるアイドル系の音楽イベントが、一部で炎上状態となり話題を集めた。
 当該のイベントは、YouTubeのビジネスチャンネル『令和の虎』にて、「日本最大規模のアイドルフェスを開催したい」と志願した元アイドルの女性が出資を勝ち取り、開催されたものだった。


 当日は武道館のステージに15組のアイドルが出演。彼女たちの「武道館のステージに立ちたい」という夢を叶えさせることができた志願者や、アイドルとそのファンにとっては忘れられない一日になったのではないだろうか。

 しかし、炎上を引き起こしてしまったのは、SNSに投稿された画像や動画だった。

 満席にはほど遠い客席や、『令和の虎』サイドでもある林尚弘氏や堀江貴文氏らが楽しそうに武道館のステージでアイドルと歌って踊る動画が拡散され、その状況が「お金を使った道楽」のような解釈で拡散されたのだ。

 そういったSNS上での批判や暴言に対し、主催サイドが反論したあたりから炎上は過熱していった。

 自らもアイドルグループをプロデュースするクロちゃんがフェス当日に<夢の舞台の価値を下げないでほしい>と、このフェスおよび武道館のことを指すと思われる内容をポストしたことも、この炎上を加速させた一因かもしれない。

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規模以上のカリスマ性

 なぜそこまで燃えたのか。それは、「武道館だから」ということに尽きるのではないだろうか。

 現在はアリーナやドーム規模、さらには国立競技場など、武道館よりキャパが大きいコンサート会場は多数存在する。

「武道館の次はドーム、そして国立へ!」といった流れで見れば、今や日本武道館は「通過点」の規模と言えるのかもしれない。

 しかし、日本武道館という会場は、その規模以上のカリスマ性がある。アイドルやアーティストにとっても、ファンにとっても特別な場だ。

 たとえばJuice=Juice主演で2016年にドラマ化もされた朝井リョウの小説『武道館』や、アニメ化もされた人気漫画『推しが武道館いってくれたら死ぬ』といった作品も存在するような場である。


 なぜ日本武道館は、それほどまでに特別視されるのか。『推しがさいたまスーパーアリーナいってくれたら死ぬ』では成立しないのか。

 知っている人も多いかと思うが、日本武道館という建物のありかたを振り返るとともになぜ武道館が特別なのか、あらためて整理していきたい。

武道館をコンサート会場にしたビートルズ

 日本武道館という施設は、1964年に開催された東京オリンピックの柔道の会場として建てられたものである。もともとは江戸城の跡地でもあった。

 その名称の通り、その後は剣道や空手、合気道、なぎなたといったさまざまな「武道」の競技場として現在も幅広く活用されるほか、ダンスやマーチングバンドの競技大会や格闘技の試合会場としても使用されている。

 この武道館が、いわゆるコンサート会場としてはじめて使用されたのはオリンピックから2年後、1966年のこと。

 ザ・ビートルズの来日公演の会場として使用されたのが初とされている(ビートルズ以前にオーケストラ演奏がおこなわれたことはあったそうだが)。

 当時人気絶頂だったビートルズが日本にやってくる。その騒動、加熱ぶりはよく知られているが、それだけの人気者のファンを収容できる会場として、当時国内最大規模だった日本武道館に白羽の矢が立った。

 当時のビートルズという存在は、若者のカリスマである一方で、長髪でエレキギターをかき鳴らす“不良”的イメージも抱かれていたことがひとつある。

 つまり一部には、そんな奴らを武道館に立たせるわけにはいかんという見方もあっただろうというわけだ。

 そんな意見もある中、無事コンサートは開催され大成功をおさめた。


武道館を“伝説”にしたアーティストたち

 その後、さまざまなアーティストが武道館のステージに立ち、数々のいわゆる“伝説のライブ”が開催されたことで、コンサート会場としての「聖地」化がすすんでいく。

 日本人としてはザ・タイガースが、1971年に日本人アーティストとして初の単独公演を解散ライブとして開催。当時ビートルズのコンサートを客席で見ていたメンバーがステージで歌うという夢物語を実現した。

 ソロでは75年に西城秀樹が実現。78年には人気ロックバンド、チープ・トリックの『チープ・トリックat武道館(Cheap Trick at Budokan)』という武道館でのライブを収録したアルバムがヒットしたことも、日本武道館の知名度を世界的に大きくあげた。

 武道館を代表するアーティストの一人といえば、着飾ったファンたちが武道館の客席でいっせいにタオルを放り投げる光景があまりにも有名で、公演回数最多を誇る矢沢永吉だ。

 藤井フミヤが年越し公演を長年にわたって行ったり、RCサクセションや松田聖子なども印象に残る武道館コンサートを開催、そしてBOOWYは、「ライブハウス武道館へようこそ」という曲中で氷室京介が放った名言を残した。

 そのようないくつもの“伝説”とともにライブの聖地化、多くのアーティストやアイドルにとっての憧れの場所化が進んでいった。

 会場内に掲げられた国旗もまた、武道館の神聖さを大きく印象づけているかもしれない。

 日の丸の下のステージで歌う姿は、今でいえば「映える」というか、なんともいえない説得力がある気はする。

実際にステージに立ったアイドルの声

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「カンロヂ」の武道館ライブ画像
 もともと武道会場として設計されているため、音響などについては考慮されていなかったり、前述の通りもっと大きな会場は誕生しているものの、武道館だけがもつ「日本を代表する場」といった特別感は現在も漂う。

 今も多くのバンドやアイドルが「いつかは武道館に」という目標を掲げる。もちろん、その先に「いつかはドームで」といった夢を持つ人も多数いるだろう。


 ともあれ、日本武道館はやはり聖地。そこに実力で立つのは本当に至難のわざで、限られた人だけだ。

 今回話題を集めたイベントも、“選ばれた”アイドルだけがその場に立てたはずである。出演したアイドル自身は、たとえ1組5分といった短い時間でも武道館のステージに立つという夢が叶ったことで、ファンと共に満足していたように見受けられる。

 当日武道館のステージに立ったアイドルグループのひとつ、カンロヂのリーダー、御影コトラさんは、「武道館の品位を下げたとされるご意見については何も言えないです(笑)」としたうえで、イベント当日をこう振り返ってくれた。

「私たちカンロヂにとって、あの日の武道館はファンの皆とメンバーの大切で素敵な思い出です。それ以上でもそれ以下でもありません。自分たちのファンが武道館の客席から声を届けてくれた。本当に幸せな5分間でした。ホリエモンのバックダンサーについてはノリノリで参加してました(笑)」

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御影コトラ
 その5分間こそ、まさに「推し武道」の疑似体験ではなかったのだろうか。

 イベント自体が、志願者の「武道館でアイドルフェスをやりたい」という夢のために出資を募り実現させたものである。

 出演者を含め、その夢自体は純粋なものであるものの、その夢を出資者たちのお金の力で実現させたようなかたちに捉えられたこと、そして出資者サイドもステージで気持ちよさそうに歌う姿は、たしかにそこだけ切り取られたら、前出のコトラさんが言うように「聖地の品位を下げた」と受け止める人も多かったことはよくわかる。


 もしこれが東京ドームや横浜アリーナを借り切ったイベントなら、また別の反応になったのかもしれない。

 そこはやっぱり「武道館だから」、ということに尽きる。日本武道館とは、唯一無二の存在感を放ち続ける場所。そういうことなのだろう。

<取材・文/太田サトル>

【太田サトル】
ライター・編集・インタビュアー・アイドルウォッチャー(男女とも)。ウェブや雑誌などでエンタメ系記事やインタビューなどを主に執筆。
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