19日に開幕した第98回選抜高等学校野球大会(以下、センバツ)は、大会9日目を終えて、4強が出そろった。
 試合終盤まで手に汗握る熱戦が目立つ今大会。
思わぬ形で注目を集めたのが、春夏合わせて準優勝を3度経験している青森の八戸学院光星だった。

 これまで巨人の坂本勇人やロッテの田村龍弘など、多くのプロ野球選手を輩出。東北の強豪校として名高い八戸学院光星は、昨秋の東北大会で準優勝を飾り、2年ぶり12回目のセンバツ出場を果たした。

 1回戦は崇徳(広島)と延長にもつれ込む接戦の末、10回表に一挙9点を挙げ勝利。2回戦は滋賀学園戦を5-4で退け、春夏通算10度目の8強入りを果たした。

 しかし、優勝候補の呼び声が高い中京大中京(愛知)と対戦した準々決勝は、最終スコアこそ2-1だったが、3回1死から相手投手陣に完璧に封じ込まれた。これで八戸学院光星の全国制覇はまたもお預け。選手たちは夏に向けて、甲子園を後にした。

物議を醸した八戸学院光星のクラウドファンディング

 高校野球ファンにはもはやお馴染みの八戸学院光星だが、準々決勝を前に同校を巡るある出来事が物議を醸していた。

 それが、『CAMPFIRE』というクラウドファンディングのサイトに掲載された同校の応援プロジェクトだ。

「カネがないなら辞退すべき」甲子園クラファンで賛否…1試合2...の画像はこちら >>
「甲子園が最も遠く感じる県・青森からの挑戦を応援してください! | 八戸学院光星」と題した同プロジェクト。八戸学院光星の硬式野球部は、「本州最北端の青森県から甲子園に出場するのに発生する費用は1試合あたり約2,000万円」と実情を明かし、「皆様からのご支援が球児たちの夢の大きな支えになります。白球を追いかける球児たちが悔いなく全力を尽くせるように。
この夢を、共に支えていただけませんか?」と呼びかけた。

 サイトに掲載された同プロジェクトの説明文によると、「応援に駆けつける生徒たちにも多くの費用がかかります」と切り出し、「200名を超える応援団のひとりひとりにかかるコストは、1試合あたり約5万円」と具体的な金額を示した上で、「それでも経費を抑えるため、選手たちを後押しする応援団は、0泊3日をかけて車中泊をしながら青森と甲子園を往復しています」と、往復2000キロ以上にも及ぶ距離を強行軍で移動している切実な胸の内を明かした。

クラファンは無事成功したが、様々な議論を呼ぶ形に…

 また「昨今の物価上昇の煽りを受け、例年以上に資金面での大きな壁に向き合わざるを得ない状況」もあって、「クラウドファンディングに挑戦することを決意しました」と、その目的を記した。

 残念ながら八戸学院光星は準々決勝で甲子園を去ることになったが、27日15時時点で200人以上が支援し、その総額は目標金額の200万円を大きく上回る298万円に達している。

 このプロジェクトはセンバツが開幕する1か月以上前に立ち上げられていたが、実は2年前のセンバツでもほぼ同じ内容の呼びかけをし、約100万円の支援を受けていた。今回はXなどで高校野球ファン以外にも広く伝わり、議論を呼ぶ形となった。

「支援は自由」「金がないなら辞退すべき」SNSで賛否が真っ二つに

 SNSでは、「応援したい人が応援する。それでいいじゃないか。執拗に光星を批判したがる人はなんなんだ」、「支援をお願いしているだけ。別に強制もしてないのだから外野は静かに見守れば良いのに」など、冷静に同校の応援プロジェクトに理解を示す声がある一方で、「縁もゆかりもない人たちにお願いするのは間違っている。金がなくて厳しいなら最悪辞退すべき」「応援団まで賄ってくれって言っているならおかしいし、選手の遠征費なら親が出せばいい」といった反対意見も多く見られた。

 たしかに甲子園大会はあくまでも高校生にとって部活の一つであり、建前上は、“教育の一貫”である。ただ、春と夏の甲子園大会は全国で生中継され、他の部活とは規模も注目度も桁違い。特に強豪と呼ばれるような一部の私立高校は、甲子園に出場することで知名度も上がり、生徒集めに直結するだけに力の入れ方も段違いだ。


甲子園出場の裏側で続く“寄付頼み”の不透明な実態

「カネがないなら辞退すべき」甲子園クラファンで賛否…1試合2000万円と“不透明な寄付金の行方”
クラウドファンディングの説明文は「野球だけで甲子園は辿り着けない」という熱いメッセージから始まっている
 ただ、学校単位の応援には“お金”がかかるのも現実。甲子園出場を決めた高校は、野球部のOBや在校生の保護者などに寄付を呼び掛けることが慣例となっている。

 30年以上前に、関西地方の某強豪校で甲子園を目指していたというA氏に話を聞くと、母校が甲子園に出場するたびに学校から募金のお願いがあるという。「もちろんOBとして喜んで寄付している」と話すが、1回戦で敗退したときは「寄付金が必要経費を上回ったため、練習場の改修費用に寄付金の一部が充てられたといううわさもあった」という。つまり、集められた寄付金の使い道がオープンではない高校も少なからずあるのだろう。

 全校生徒が800人以上いて、野球部OBも数多くいる八戸学院光星なら、大会前にかなり寄付金を集めているはず。それでも不足してしまうのが、現実なのかもしれない。

高校野球は教育かビジネスか…資金問題が突きつける課題

“教育の一貫”と謳いながらも、現実には“巨大なビジネス”と化している高校野球。今後は学校単位で、クラウドファンディングとは違う形での資金集めも模索する時期にきているのではないだろうか。

 例えば、高校サッカーには10年ほど前からビジネスの波が押し寄せている。強豪と呼ばれる高校のユニホームに企業のロゴがあしらわれていることも珍しくない。用具提供などを支援する企業であることがほとんどだが、高校サッカー界には着実にその波音が聞こえている。

 とはいえ、インターハイや高校サッカー選手権など、高体連主催の公式大会は“教育の一貫”という建前もあり、今もスポンサーの掲出は認められていない。
それでも今後、資金繰りに苦しむ高校が増えるようならサッカーだけでなく、他の部活にも波及していく可能性はあるだろう。

 1試合2000万円という規模の大小はともかく、八戸学院光星のプロジェクトが呼んだ議論をきっかけに高校野球に留まらず、高校スポーツ全体のお金の問題にも注目が集まっている。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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