昔から勉強を苦にしたことはない
――桜蔭学園といえば相当な才媛だと思いますが、片栗さんは昔から勉強が得意だったのでしょうか。片栗:そうですね、昔から勉強を苦にしたことはないかもしれません。というのも、父が塾講師で、非常に教育熱心だったんですね。また、母は地元で最難関の高校に行ったにもかかわらずさまざまな事情で大学進学を断念した経緯がありました。そんなわけで、母もまた教育には理解があったと思います。幼稚園の頃からパズル、漢字ドリル、計算ドリルをやっていた記憶があります。やらされていたというよりも、日常のルーティーンに組み込まれていて。できるようになると楽しいからまたやる――というような好循環ですよね。ただ、その父も私が3歳のときに病気で亡くなってしまうのですが。
――それはショックですよね。
片栗:しょうもないことしか覚えてないんですよね。ビデオを見ながら私が踊っていたら、父が入ってきたのですが、それを追い出したりとか(笑)。あ、でも私の誕生日が1日なので、毎月1日になると、父が必ずケーキを買ってきてくれるのは覚えていますね。
経済的に不自由した記憶がない
――大切な思い出だと思います。その後、お父様がいなくなると経済的にも苦しくなるのかなと思うのですが……。片栗:それが、ありがたいことに経済的に不自由した記憶がないんです。というのも、父の死後、私と母は祖母と一緒に住むことになりました。比較的経済的に恵まれていた祖母から援助してもらい、また母自身も働きに出てはいなかったものの株式投資などで少額を貯めていたようで。小学校は私立に進学することができました。
――私立の小学校! レベルが高い子が多そうです。
片栗:高いですね、灘や筑駒(筑波大附属駒場)に行く子もいたので、彼らの神童エピソードに比べると、本当に私は平凡です。彼らは小学生で微分積分を楽にやっていたので……。
桜蔭入学時は「学年で真ん中くらいの成績」
片栗:小学校時代はそんなに勉強に集中していたわけでもなくて、いつもノートの端っこに絵を描いているような子でした。それでも試験では9割を切らないし、小学校でも学年で1、2番争いを演じていたので、確かに素質がなくはなかったかもしれません。
でもそんな飛び抜けたエピソードもなくて……ただ少々変わった子ではあったみたいですよ。母に聞くと、たとえばディズニーの本を読んでいて「ミッキーどこ?」と聞くと、表紙などにデカデカ描いてあるミッキーを指差すことはなくて、奥付にちょこっと描いてある小さいミッキーの形を指さしたりしていたようです。
――着眼点が変わってますね。そんな片栗さんも桜蔭に入学すると、やはり周囲のレベルの高さに驚くものですか。
片栗:そうですね、レベルはとても高かったです。基本的にみんな各学校で浮いてたような子たちばかりなので、他校にありがちな校内のヒエラルキーとか深刻ないじめがあまりないのが特徴かもしれません。入学したときは自分の好きな教科しか勉強していなかったので、学年でも真ん中くらいだったと思います。
模試で全国19位になるも…徐々にひずみが
――それもすごいですけどね。その後、本気で勉強のスイッチが入る。片栗:はい、中3から高1にかけて、平日も1日平均5時間は勉強していたと思います。
高校生になると、東進の全国統一高校生テスト(模試)を受けた子たちのなかで成績優秀者はiPadをもらえるキャンペーンをやっていて。高2で受けてみたら全国19位だったので、無事にiPadを手にできました。その模試の成績優秀者は、費用を東進で持つので海外の有名名門大学の授業を受けられるという触れ込みがありました。そのためにはSATというアメリカ版のセンター試験のようなものを受ける必要があり、猛勉強をする日々が始まりました。
――しかし、途中で心が疲れてしまう。
片栗:そうなんです。一応、高1で英検準1級は合格していたものの、ぜんぜん知らない単語がたくさん出てきて。活字を読んでいても文字として入ってくるだけで意味が飲み込めなくなり、「これはまずいな」と思いました。悩んだ末に、留学コースを辞めることにしたんです。
――初めての挫折ですね。
片栗:はい。当初、東大志望だったのをやめて、私立に切り替えようと思いました。高3の1学期はほぼ勉強が手につきませんでした。ただ予備校には足を運ぶだけの日々で。そんななかで、京大出身の講師が「京大受ければ」と何度もしつこく誘ってきて(笑)。「受かっても行きません」とずっと言っていたのですが、最終的に「受けるだけ受けます」となって、現役で合格できたという感じです。
自身の“意外な弱点”に気づいてしまう
片栗:そうなんです。私が京大に入学したときは、コロナ禍でした。そのため授業などすべてリモートでやっていたんです。当時は家にこもって勉強をすればよく、成績表もAまたはA+だけで、上位だったと思います。そんななかで「公認会計士になろう」と考えて勉強を開始したんです。
――大学に通うのが物理的に疲れてしまう。
片栗:驚くべきことに、それまでの私は自分がここまで体力がないことに気づいていなかったんです。でも思い返すと、実家にいるときは「学校に遅れるよ」「朝食を食べなさい」となんでも母がお膳立てをしてくれていたんですよね。朝も超絶に弱いので、起きても通学路をまっすぐに歩けなくて。満員電車で誰かによりかかって寝る……みたいな生活でした。何度か保健室で寝たこともあります。ところが京都で独り暮らしをしてみると、生活のすべてを自分でやらないといけないので、疲れるんです。実家にいたときのように大学の勉強をして、公認会計士の勉強もして……となると、キャパオーバーになるんだなというのがだんだんわかってきました。
――会計士試験を諦めるという道もあったのでは……。
片栗:自分で決めた勝負なので、絶対に降りたくなかったんですよね。それもあって、今は専業受験生をしています。
――ストイックだと余計に疲れてしまいそうですが、今後の展望は。
片栗:突き詰めるところまでやったら自分の体力が限界を迎える点を考慮して、何事も及第点でいいと思えるようになりました。前よりは、生きるのがうまくなったかと。理想を追い求めて人生を潰すのではなく、やや理想に届かなくても長く自分が続けていけることのほうが大切だと考えられるようになりました。
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スポーツに比べて学業は絵面が地味で、わかりづらい。だがその高みで闘う者たちのしのぎ合いは苛烈で、ややもすると精神を摘み取りかねない。片栗さんの鬼気迫る学業への執念がいつか実り、その聡明さが多くの人々の役に立つ日がきっと来る。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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