「最高齢は85歳の患者さんです」
これは女性器の手術を希望して来院した患者の年齢だという。

目や鼻などの美容整形は近年、敷居が下がったように思う。
そんななかで、“女性器の整形”に踏み切る人もいる。しかも10~20代の若者だけではなく、更年期以降の高齢年代で相談に来る人も少なくないという。いったい、なぜ?

産婦人科と美容外科の専門性を併せ持つ女性器専門クリニックである「銀座あゆみクリニック」の増田あゆみ院長に話を聞いた。

快感や見栄え目的だけじゃない、「女性器の整形」をする様々な理由

「夫の喜ぶ顔が忘れられない」85歳の患者も…“女性器の手術”...の画像はこちら >>
どんな悩みを抱えた人たちが来院するのか。「女性器の整形」と聞けば、水商売関係の女性やセクシー女優などが行うものとイメージされるかもしれない。「たしかにそういう方も多いです」と増田院長。

施術費用は数十万円から百万円を超えるケースも多いが、来院するのはお金を持っている「プロ」ばかりかといえば、そうではないという。

「20代から80代まで幅広く、若い方は女性器の見た目について悩んで来院されるケースが多いです。最近はVIO脱毛をされる方が増えているので、その結果、女性器の形状がよく見えるようになって、『自分の性器の形は変なのではないか』と悩んだり、パートナーに『ちょっと変だから直してきた方がいいよ』と言われたという方もいます。

女性もクリトリスが皮をかぶった“包茎”の方がいるのですが、快楽を得るために、そして清潔感のためにも、その余剰の皮膚を取り除く施術もあります」(増田院長、以下同)

見た目について悩むのは多感な若年層に多い傾向にあるが、幅広い年齢層において、快楽を得るためにと来院する患者も多くなりつつある。

「概ね、快楽を得る目的でいらっしゃるのは、最近の傾向として、海外の方と付き合っている人が多いかもしれません。海外では性交渉についてオープンにトークする人が多く、『もっとこうしたらどうか』などとパートナー同士でアクティブにディスカッションされるようです」

では、高年齢層では、どんな悩みを抱えて来院するのか。

「更年期以降に女性ホルモンが低下すると、女性器周り、膣内、卵巣、子宮など、女性器全体の老化・劣化が加速する。
特に、膣内においては乾きやすくなり、性交時に痛みが生じやすくなる。

慢性炎症が継続することにより、膣璧が硬く脆くなる。また、神経過敏の状態に陥り、少し指を挿入するだけでも飛び上がるほどに痛みを感じる状態になることがあります。さらに進行すると、膣全体が固く萎縮する『萎縮性膣炎』へと進む方もいらっしゃいます。特に膣の入り口も小指も入らないほどに萎縮してしまうため、性交渉自体が不可能になられる方も多くいらっしゃいます」

更年期以降に性交渉の予定がなければ、気づく機会が無く、問題にならない場合もあるが、今の時代、アプリなど出会いの機会も多くなっている状況において、年齢を重ねても素敵なパートナーに巡り合い、思いがけず性交渉に挑む機会が出てくることも……。

そんなとき、「萎縮性膣炎」によりパートナーとのコミュニケーションができず、思い悩んだ末に来院される方もいる。

80歳を過ぎて再婚、性交渉ができた際の「夫の喜ぶ顔が忘れられない」

増田院長の患者で最高齢はなんと85歳の女性だ。

「その方はご主人を亡くされて10年ほど経った頃に、お子さんから勧められてマッチングアプリを試してみたところ、当時60代の男性と知り合ったそうです」

今は高齢者でもスマホを使う時代。子どもたちからの「お父さんのことはもういいよ。10年間も1人で暮らしていたんだから、お母さん自身がそろそろ幸せになって」という後押しも大きかったそうだ。

「相性も良かったのか、その男性と結婚することになったんだそうです。しかし、やがて性交渉をしようとしたら『入らない』と。自分の指で確認したら、どうも膣の穴がふさがっている……。
女性は諦めようとしたらしいのですが、新しいご主人が諦めきれず、インターネットで色々と検索した結果、私のところに辿り着いたそうです」

その女性に対しては、狭くなった膣を手術で広げ、元の形に戻し、さらに再生医療を足して、痛みや壁の硬さをなくす若返り治療も実施したところ、無事に性交渉をすることができた。「まさに、特に旦那様の愛情と執念みたいなものを感じました」と増田院長は微笑む。

「その女性は、『手を繋ぐだけでもワクワクしたし、久しぶりに唇を合わせるだけでもドキドキしたので、それだけでも私は十分でした。でも性交渉ができたときの夫の喜ぶ顔が忘れられません』とお手紙をくださったんです。さらにお二人でも直接お礼を言いに来てくれました。ご主人は嬉しさで号泣されていて……私の中で最も印象に残る患者さんでしたね」

高齢になってから性交渉を望むことに、疑問を抱く人もいるかもしれない。しかし増田院長は「コミュニケーションの最たるものが性交渉である人も多いのです。男女にとってすごく重要な部分なので、できるかできないかで関係性が変わってくることもある」と話す。

「現代ではマッチングアプリのようなツールも登場し、子どもたちが親の再婚を応援するくらい、人々の考え方も変わってきています。体は老化していきますが、そんな環境の進歩に、医療が追いついていない部分があるのです。この夫婦は、無事に結婚式を挙げられました。本当に心から良かったなと思います。
人生は一度きりではない、二度目の人生が輝くお手伝いをさせていただき、本当に嬉しく思います」

40代で再会した元カレの誘いを“自信を持った状態”で断るため

「夫の喜ぶ顔が忘れられない」85歳の患者も…“女性器の手術”に踏み切った中高年女性の本音
夕暮れの海べで佇む中高年のカップル
もう一例、先の女性とは異なる印象的なエピソードも教えてもらった。

「その女性は20~30代の頃にお付き合いをしていた男性と、1度別れたけれど、40代で再会したのだそうです。お別れした理由は、相手の男性がモテる方で、常に女性の影がチラついていたことに耐えられなかったと。再会した際に身体を求められたといいます」

しかし、当時その女性は萎縮性腟炎により女性器への挿入が不可能な状態。痛みがあり、とても性交渉ができる状態ではなかった。

「彼に対して『加齢による老化・劣化で性交渉は無理』とは言いたくなかったのだそうで……自分ができないことが理由で相手から愛想をつかされるのは嫌だと感じたんでしょうね。その時は、あえて焦らすような言い方をして『クリスマスまで待って』と数か月お預けにしたそうです」

その後、クリニックを受診して性交渉ができるようになったその女性。早速、待たせていた男性と性交渉を行ったのかと思いきや……?

「性交渉ができる状態になったタイミングで、関係を断ったんだそうです。自分に自信がない状態で終わらせるのではなく、“いつでもできるけど、その上であなたとは付き合わない”という状態で別れることが、その方にとってのプライドだったのでしょう。重要だったんですね。そういう過去との決別のために手術を受ける方もいました」

時代が進化、年齢を重ねて初めて”性の悩み”に直面することも

クリニックにはさまざまな悩みを抱えた患者が日々訪れる。女性器の形成をはじめ、再生医療や幹細胞治療まで、医療と美容を横断した高度な治療を提供しているのは珍しい。

「私はもともと大学病院の産婦人科にいたこともあり、毎日のように緊急帝王切開などを行っていました。
”とにかく命優先”なので、まるで戦場のような現場です。ただ、お産を終えたあと、多くの女性が抱える悩みのケアまではなかなか手が回らず、アフターケアは難しい状況でした。

日本の周産期医療は世界的に見ても非常にレベルが高く、赤ちゃんが無事に生まれるまでのケアは手厚い。一方、お産が終わった後のケアは、どうしてもおざなりにされてしまっていました。女性としては、その後も長く悩みを抱え続けます。産後のダメージは全治8ヶ月くらいの交通事故の後遺症に例えられることがあるくらいです。

保険診療ではカバーできない、そうした女性たちの悩みに応えたい。それが、私が自由診療でこのクリニックを開いた大きな理由です。現時点では自由診療ではありますが、今後は保健適応がされていくと良いなと思っています」

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年齢を重ねれば性や身体の悩みは「仕方がないもの」と片づけられてきた。しかし、世の中の価値観が変化し、パートナーとの出会いも増えた今、高齢になってから直面する悩みも出てきている。

そこで性器の治療や整形を選ぶ人たちの背景には、「性交渉がしたい」という単純な欲求だけではなく、誰かともう一度向き合いたい、関係を築きたいという思いもある。年齢を重ねても人生は最後まで続いていくのだ。


<取材・文/松本果歩、編集/藤井厚年>

【松本果歩】
インタビュー・食レポ・レビュー記事・イベントレポートなどジャンルを問わず活動するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり店長を務めた経験あり。X(旧Twitter):@KA_HO_MA
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