信州大学特任教授の山口真由氏は事故後の報道について「大きな構造を指摘する前に、小さな事実を積み重ねるべき場合もある」と警鐘を鳴らす。(以下、山口氏の寄稿)。
辺野古沖転覆事故で置き去りにされる「小さな事実」
大きな構造を指摘する前に、小さな事実を積み重ねるべき場合もある。こういうオピニオンとジャーナリズムの峻別は、今ますます難しくなっている。辺野古沖転覆事故をめぐり、論争の主戦場は、修学旅行の安全管理の問題から平和学習の内容に移りつつある。確かに、両者の関係は切り離せない。転覆したうちの1隻を所有する金井牧師は、’07年から週3回のペースで船長を務めるなど辺野古移設に反対する海上阻止運動で重要な役割を果たしてきた。この牧師と、キリスト教主義を掲げる高校の神学系の教師との間につながりがあって、平時は抗議に使われる船を使って、海上から辺野古を視察するプログラムができあがったという。つまり、金井牧師の左派的活動に引っ張られる形で、安全上のリスクの高い小型船に生徒を乗せることになったわけだ。ここで、「平和学習」の名を借りた偏向教育を従前から糾弾してきた右派ジャーナリズムは、自らのオピニオンを強化しようと勢いづく。ところで、平和学習における「多角的視点」の確保などについて文部科学省が検証を開始したと産経が報じるに至り、少し違和感を覚える。
イデオロギーに引っ張られず事実の精査を
例えば、基地関係者の証言も聞く機会を設けていれば、今回の事故は起こらなかったのか。実際、従来のメディアは、3月17日の学校側の会見において、事実の詳細や亡くなった女子生徒の横顔を多く質問していた。だがその抑制的な姿勢を、左派に忖度する“オールド・メディア”と切って捨て、辺野古の大多数が基地に賛成している事実を生徒に伝えたかと詰め寄る記者のほうが、ネットでは称賛される。
その批判は聞くに値する。ただ、平和学習の中身に引っ張られて安全管理がなおざりになったと批判するならば、事実の精査の前に左派批判というイデオロギーに引っ張られるべきではない。左派は主観と客観を区別していないとの非難は、ブーメランのように自らも切りつけるのだから。
【山口真由】
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。
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