「妻のほうが仕事に前向きなら、僕が家事をメインで担えばいい」。そう語る吉岡茂樹さんは、家事・育児をメインで担う「フリーランス兼主夫」だ。
夫婦がそれぞれ互いの能力を最大限に発揮する「家庭の全体最適」という観点から、妻をサポートすることを決めたという吉岡さん。後編では、
- ・「男が稼ぐ」という思い込みを捨てる
- ・働き方に理解のある取引先を見つける
- ・「売上目標のみを追う仕事」は受けない
- ・自身が目指す地点に立ち返る
など、主夫業と仕事の両立に向けた「譲れないポリシー」について掘り下げる。
「男が稼ぐ」という思い込みを捨てる
28歳で妻の妊娠が発覚、育休を機に自身の価値観を見直しフリーランスへと転身した吉岡さん。退職前は広告関係の仕事につき、収入も一般水準よりは高めだったという。「イクメン」というと聞こえはいいが、仕事から家事優先の生活への切り替えにあたり、初めの頃は葛藤があったと明かす。
「出産の時期には退職の意思はほぼ固まっていましたが、どんな形であれ、仕事を辞めるのは『逃げ』のようにも思いました。自分自身、『男なのに稼がないのはどうなんだ』という気持ちも強くて……。ですが、NPOの運営など会社員時代はできなかった経験ができているという実感が重なり、『この判断は間違っていなかった』と1年ぐらいかけて徐々に思えるようになっていきました」
働き方に理解のある取引先を見つける
「家事・育児のメイン担当になる」という明確な意思を持ってフリーランスに転身したという経緯から、最も大切にしているのは、自身の働き方に理解のある取引先を見つけることだという。「コアワークタイムは『10~17時』と決め、ほかの時間帯には基本的に仕事は入れません。たとえば保育園のお迎えなどで早い時間に仕事を引き上げなければいけない場合は、あらかじめそれを取引先に伝えるようにもしています」
「会社を辞めたときは正直何のあてもなく、『とにかく一度、自分の直感を信じてみよう』と一旦フリーランスになった状態でした。それが会社を辞めたと知ってから、知り合いが『障害者事業をやりませんか?』と声をかけてくれたり、前職の取引先が共創施設の組織開発の仕事に誘ってくれたりした。
「売上目標のみを追う仕事」は受けない
「働き方の理解」が最優先項目にある以上、仕事内容に特別なこだわりはない。ただし、極端な成果主義の案件はなるべく避けるようにしているという。「たとえば企業の伴走支援のような仕事は目に見える形で成果が表れにくく、過去の仕事のスキルがそのまま適用できるわけでもない。成果が出せるかどうかわからないのに『出せます!』と言い切るのは、自分にとって何だか不誠実な感じがしてしまうんです。なので、『広告でこのくらいの数字が出せます』というように売上目標のみを追う仕事は極力避けるようにしています」
自身が目指す地点に立ち返る
「仕事や収入を増やすことにはあまり重きは置いていません。それよりも重視しているのは、新しいこと、面白いことができるかどうか。たとえば障害者支援に関する仕事で、障害者向け事業を行う方から話を聞くと、『組織作り』に関するヒントが得られ、NPOの運営にも活かされる場面があったりする。受けている仕事同士のバランスをうまく取りつつ、ユニークな仕事はどんどん積極的に引き受けて、経験の『幕の内弁当』を作りに行こうとしているようなところがあります」
夫の年収は下がっても、世帯年収はむしろ上がった
とはいえ現実問題、収入なしに生活を続けていくことは難しい。特に子どもがいる場合はなおさらだ。吉岡さんの場合は事前に夫婦で話し合いを重ね、たとえ自身の収入が一時的に減っても、妻の収入があれば最低限の生活には困らないという見通しを立てて退職を決断した。その判断は結果として、家庭全体の収入状況にとっても良い影響を与えたという。「僕がフリーランスに転身した後で妻は転職し、そのときに年収も上がりました。
現在は「家事優先」の原則は守りつつも、「助けたい人を助ける」という自身の目指す地点に沿った働き方ができている。「運と縁が重なったこともありますが、自分としてはいまのほうがやりたいことをやれている実感があります」と話す。
会社員からフリーランスへと転身するのも、仕事より家事を優先するのも、男性の選択として決して一般的ではない。それでも自身の目指す地点が明確であったからこそ、吉岡さんは一歩を踏み出し、新たな地平を見出した。「フリーランス」とは単にスタイルに留まらず、固定的な性別役割を見直す働き方でもあるのかもしれない。
【吉岡 茂樹】
大阪教育大学総合学習専攻卒業。大学卒業後、広告代理店にてWEBマーケティング支援に従事。2022年より事業会社にて、企業向け研修のプログラム設計やマーケティングを担当。現在は障がい者雇用事業の立ち上げや特定非営利活動法人の運営支援など、社会課題領域を中心に経営企画・組織開発などの伴走支援を行っている。
<取材・文/松岡瑛理>
―[フリーランスも知らないフリーランスの稼ぎ方]―
【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。
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