日本民営鉄道協会の最新調査「2025年度 迷惑行為ランキング」では、2位に「座席の座り方(詰めない・足を伸ばす等)」が31.9%という高い割合でランクイン。さらに、14位の「混雑した車内での飲食(7.5%)」や、6位の「強い香り(21.5%)」など、目に見えないマナーへの不満も根強く存在しています。
限られたスペースを共有しなければならない公共交通機関において、なぜ「自分さえ良ければいい」という振る舞いが絶えないのでしょうか。
今回は、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、足を広げて座席を独占していた男性が迎えたシュールな結末や、車内で堂々と肉まんを食べ始めた女性への意外すぎる「ツッコミ」をお届けします。周囲が沈黙する中で訪れた、予想外の「決着」の瞬間とは。記事後半では迷惑行為ランキングを過去5年分振り返り、移り変わりも紹介します。
【ケース1】足を広げて座席を独占
田中大輔さん(仮名・30代)は、仕事帰りに満員電車へ乗り込んだ。「空席はないと思ったら、3人掛けの座席が空いて見えたんです。急いで向かったら、真ん中に男性が“どかっ”と座っていました」
足を大きく広げ、左右のスペースを完全にふさいでいたのだ。
「両側には誰も座れなくて、立っている人は“少し詰めてくれ”っていう無言の圧を出していました。でも、誰もなにも言えませんでした」
車内の空気が不穏になりかけたそのとき、思わぬ展開が待っていた。
「次の駅で、大柄な外国人男性2人が陽気に話しながら乗ってきました。そして、そのわずかな隙間に無理やり体を押し込んだんです」
両側から押され縮こまる男性
突然の圧に、男性は素早く姿勢を変えたという。「さっきまで広げ放題だった足を閉じ、両側を外国人に挟まれて小さくなっていました」
「声がどんどん大きくなって、身振りも激しくなっていきました。その手や腕が、ときどき男性の体に当たっていたんです」
男性は下を向き、寝たふりをしながらじっと耐えていたそうで……。
「なにも言えずに小さくなっている姿が、なんだか気の毒でした。でも正直ちょっとだけ笑ってしまいました」
「そこに残ったのは、きっちりと足を閉じて座る男性です。数分前とは別人みたいでしたね」
【ケース2】車内に広がる濃厚なニオイ
中村浩一さん(仮名・40代)は、仕事帰りの電車内で思わぬ光景に遭遇した。「夜10時を過ぎていて、もう空腹と疲労でヘトヘトでした。やっと座れたと思ったら、独特なニオイが漂ってきたんです」
ニオイの正体は、蒸したての“肉まん”。中年女性が、肉まんの入った紙袋を膝の上に乗せていたという。
「最初は、“袋に入っているだけかな”と思って我慢してたんです。でも、車両を包み込むぐらい濃厚なニオイでした」
「目の前で堂々と箱を開けて、食べはじめたんです!」
遠くからは舌打ちも聞こえ、車内の空気は一変した。しかし、女性はお構いないに“むしゃむしゃ”と食べ続けたそうだ。
“別の意味”で「納得がいかない(笑)」
中村さんは食欲を刺激されつつも、“別の意味”で怒りを覚えたという。「実は、肉まんが大好きなんです。だからニオイ自体は我慢できました。でも、どうしても許せないのが……“からし”をまったく使わなかったことなんです(笑)」
肉まんには必ずといっていいほど“からし”がついてくる。それをつけてこそ本来の味が引き立つと信じる中村さんにとって、女性の食べ方には納得できなかったようだ。
「からしの小袋は箱のなかに入っているのに、見向きもしません。『なんで使わないんだ』って心のなかで叫んでいました」
食べ方にムカついた中村さんだが、翌日は家族と一緒に、からしをたっぷりつけて肉まんを味わったという。
「もう、そのときは余計においしかったですね」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
■ 数字が語る「マナー問題」と私たちができること
公共の場での譲り合いが、一人の身勝手な振る舞いで踏みにじられてしまう。そんな車内の光景は、今の時代、決して他人事ではありません。①年々深刻化する「ニオイ」と不動の「座り方」問題
日本民営鉄道協会の過去の調査を振り返ると、車内マナーに対する人々の意識の変化と、変わらない根深さが見えてきます。
今回のエピソードにある「座席の座り方」は、まさにマナー問題の「本丸」です。過去のデータを見ると、2021年度(2位・37.4%)、2022年度(1位・34.3%)、2023年度(1位・37.1%)、2024年度(2位・31.9%)、そして最新の2025年度(2位・31.9%)と、5年以上にわたり常にトップ2以内を独占しています。これほど多くの人が、長年「詰めない・足を伸ばす」といった行為にストレスを感じ続けているのです。
一方で、肉まんのような「強い香り(ニオイ)」への意識は近年急激に高まっています。2021年度にはトップ10圏外だったこの項目ですが、2023年度に7位(17.0%)、2024年度には4位(26.3%)と急上昇しました。以前は「飲食」というマナーの枠内で語られていた問題が、今や周囲の空間を侵食する「香り(ニオイ)」の問題として、より厳しく捉えられるようになっていることがわかります。
②殺伐とした車内を「ちょっとした余裕」で乗り切る
今回のエピソードで、足を広げて座席を独占していた男性が、大柄な外国人に挟まれて縮こまった姿は、どこかシュールで「明日は我が身」と思わせる教訓を含んでいました。
誰もが仕事で疲れ果て、心に余裕をなくしがちな現代社会。満員電車という過酷な空間にいれば、つい「自分くらいは楽をしたい」という気持ちが芽生えてしまうのも、ある意味では人間らしい本音かもしれません。
すべてをルールで縛り、お互いを監視し合うのは息苦しいものです。だからこそ、ほんの少しだけ「隣の人も自分と同じように疲れているんだな」と想像してみる。そのささやかな思いやりが、殺伐とした車内の空気をふっと軽くしてくれるはずです。
ストレスの多い毎日ですが、ほんの少しだけ、隣の人の疲れを想像してみる。そのささやかな配慮が連鎖して、殺伐とした車内がふっと和らぐ瞬間。そんな少しだけ優しい光景が、明日からの通勤路のどこかに、そっと広がっていることを願っています。
<取材・文/chimi86 再構成/日刊SPA!編集部>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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