健康のために始めたウォーキングが、逆に膝を壊す原因になることがある――。運動不足のまま「1日1万歩」を目標に歩き続けた結果、変形性膝関節症と診断された男性を取材。
専門医に、中高年や肥満体形の人が歩く前に知るべき注意点を聞いた。

膝が壊れた原因は…

「ある朝、起きたら膝が曲がらなくなって…」1日1万歩のウォー...の画像はこちら >>
「健康のために、ただ毎日歩いただけ。それなのに膝を壊し、医者から人工関節が必要だと言われるなんて……。こんな手術、スポーツ選手とかがするものじゃないんですか?」

そううなだれるのは、後藤信也さん(仮名・48歳)だ。病名は「変形性膝関節症」。彼の膝が壊れた原因は、皮肉なことに“健康法の代名詞”である一日1万歩のウォーキングだった。

「IT企業に勤めて25年。長年のデスクワークに暴飲暴食が重なり、体重は入社時と比べたら30㎏以上も増えてしまった状態です。健康診断で糖尿病の疑いを指摘され、ダイエットしようと一念発起。とはいえ、こんな太め体形でジムに行くのも恥ずかしいので、まずは歩くことから始めようと思ったんです」

毎日2時間近くストイックに歩き続けた結果

「ある朝、起きたら膝が曲がらなくなって…」1日1万歩のウォーキングに励んだ48歳男性を襲った“残酷な末路”
「暇を見つけては歩いていた。まさか裏目に出るとは……」とうなだれる後藤さん
後藤さんは電車を一駅前で降りるなどして、毎日2時間近くストイックに歩き続けた。階段や坂道が入り組んだ古い住宅地に住んでいたこともあり、起伏のある道をあえて選んで歩くこともあったという。だが、これが裏目に出た。

「ウォーキングを始めて数週間ほどたつと、膝の中に砂が入っているような、何かが擦れるような感覚が出てきました。ちょっとした痛みとともに膝が軋む音まで鳴るようになって。
そしてある朝、起きたら膝が固まって曲がらなくなってしまった。

大慌てで病院に辿り着くと、症状は想像よりはるかに深刻でした。膝の軟骨がすり減って骨と骨が直接ぶつかり合っているようで、医師からは『一度なくなった軟骨は二度と戻せない』とも言われて……。『将来的に人工関節になる』と医者は言うんです。まともに歩けもしないのに、どうやって痩せろと言うんですか」

「運動不足の人が1万歩」は超危険

「ある朝、起きたら膝が曲がらなくなって…」1日1万歩のウォーキングに励んだ48歳男性を襲った“残酷な末路”
後藤さんのウォーキングは一日平均1.5万歩を記録した週も
1万歩の歩行にはメタボリックシンドロームの予防効果があるとされ、厚生労働省も長年推奨してきた目標値でもある。しかし、後藤さんのように膝を壊してしまっては元も子もない。

「足の耐用年数は50年。中高年になるとただでさえ足のトラブルが増えるのに、運動不足の人がいきなり一日1万歩はリスクがあります」

そう話すのは、これまで5万人以上の足を診てきた専門医で、日本初の足の総合病院院長も務めた菊池守氏だ。

「足は『第二の心臓』として血流を支え、全身のバランスを司ることから臓器と同じくらい繊細に扱うべき器官です。肥満の方は『臓器に多大な負荷をかけている』と日ごろから考えるべきです。特に膝は体重による負荷がかかる場所で、耐え切れなくなると半月板が傷み、軟骨がすり減ります。これが進むと骨が変形し、変形性膝関節症になるんです。

日本人工関節学会の発表では、人工膝関節手術は年間約10万件に上るというデータもあるほど。
そのほかにもアキレス腱が傷んだり、歩くたびにズキッとする足底腱膜炎になったりと、足の至るところに悪影響が出てます」

理想はダイエットしてから走ることだが…

足が健康でなければ運動そのものができないが、動けば足が壊れ、動かなければ命に関わる――。菊池氏は、こうしたジレンマに処方箋を示す。

「理想はダイエットしてから走ることですが、実際はダイエットするために走るわけで、両立は難しい。本来、肥満の方は水泳や自転車が望ましいのですが、最近はジムで筋トレばかりしてしまう人も多いですよね。そして、バランス悪く筋肉がつきすぎるのも関節にとっては問題で、障害の原因になることもあります。メンテナンスで大事なのはまずストレッチ。歩いたり走ったりするにはしっかり蹴り出せるだけの柔軟性が必要です」

寝たきり予防には一日2000歩、最低限の日常生活には3000~5000歩が目安とされる。足に不安がある人がすべき最初の一歩目は何か。菊池氏が勧めるのが「足踏み」だ。

「お腹、太もも、内ももなど歩行に必要な筋肉を幅広く鍛えられます。15分ほどしっかり行えば散歩と同等の運動効果があり、ウォーキングほどの負荷もありません。家事をしながら、テレビを見ながらでも、家で無理なく続けられます。運動習慣がゼロの人や、高齢の方などは、イスに座った足踏みでも十分効果がありますよ」

無視できないほど深刻な「靴の弊害」

「ある朝、起きたら膝が曲がらなくなって…」1日1万歩のウォーキングに励んだ48歳男性を襲った“残酷な末路”
人類学や栄養学に精通する作家の金森重樹氏
足踏みで筋肉を鍛え、ストレッチで柔軟性を保っても、歩き方そのものが間違っていては意味がない。人類学や栄養学に精通する作家の金森重樹氏は、とりわけ「靴」が体に及ぼす問題を指摘する。


「足裏は、地面の硬さや傾斜、凹凸を感じ取る体のバランスセンサーです。ところが靴を履くとその情報が遮断されてしまいます。それに、人間は本来つま先から着地する生き物。現代のかかと先行の歩き方は、人類学的には実は不自然なんです。

かかと着地は膝や腰への衝撃が大きく、慢性的な障害に繫がるケースもあるでしょうね。靴が足の筋肉や腱の働きを代替することで足本来の強さも失われ、扁平足や足底筋膜炎を招きやすくなることも見過ごせない。これはハーバード大学のリーバーマン教授も指摘しており、肥満体では特に顕著です」

健康のために歩く前にやるべきこと

こうした弊害に対抗するために金森氏が活用しているのが、ソックスタイプのベアフットシューズ「スキナーズ」と、南米の先住民タラウマラ族の履物を現代風にアレンジしたサンダル「ワラーチ」だ。

薄底で足裏の感覚を残しながらも、最低限の保護機能を備えたこれらの履物は、かかとではなく足指から着地する人間本来の歩行を自然と促してくれるという。

「本当は裸足で大地を摑むように歩くのがいいのですが、現代の舗装道路で完全な裸足歩行は現実的ではありません。ただし、時には芝生の上などに出て、裸足で足指を意識するように歩いてみましょう。それだけでも足裏の神経は活性化し、失われた機能は少しずつ取り戻せるはずです」

健康のために歩く前に、「歩ける足」をつくる。その順番を間違えないことが、遠回りのようで最も確かな近道だ。


「ある朝、起きたら膝が曲がらなくなって…」1日1万歩のウォーキングに励んだ48歳男性を襲った“残酷な末路”
耐摩耗性の特殊ポリマーを使用したソールで、しっかりと大地を感じられるスキナーズ。「つま先とかかとの高低差がなく人本来の歩行が可能となる逸品です」(金森氏)
【足病医療・形成外科医 菊池守氏】
「RiCarna Clinic」院長。足の専門医として、日本初の足の総合病院「下北沢病院」院長を務める。著書に『1日3000歩 歩きたいのに歩けない人のための すごい足踏み』(アスコム)など
「ある朝、起きたら膝が曲がらなくなって…」1日1万歩のウォーキングに励んだ48歳男性を襲った“残酷な末路”
足病医療・形成外科医の菊池守氏
「ある朝、起きたら膝が曲がらなくなって…」1日1万歩のウォーキングに励んだ48歳男性を襲った“残酷な末路”
不健康になる!危険習慣
【作家・ビジネスプロデューサー 金森重樹氏】
東京大学法学部卒。作家、監訳者、ビジネスプロデューサー。「旧石器時代になるべく近い生活様式を現代で再現する」ことをモットーに、食事、サプリメント、歩行、睡眠などの研究にも余念がない。近著に『なぜヒトは脂質で痩せるのか』。’26年現在、バヌアツ共和国で暮らす

「ある朝、起きたら膝が曲がらなくなって…」1日1万歩のウォーキングに励んだ48歳男性を襲った“残酷な末路”
なぜヒトは脂質で痩せるのか
※2026年4月7日・14日合併号より

取材・文/週刊SPA!編集部

―[不健康になる!危険習慣]―
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