「平日は寝不足でも、土日にたっぷり寝れば大丈夫」と思っていないか。だが、睡眠は“貯金”できず、寝だめでは脳にたまる“ゴミ”を十分に処理できないという。
認知症や糖尿病、脳梗塞のリスクを高める睡眠習慣の落とし穴を医師が解説する。

寝だめは認知症のリスクを増大させる

「週末の寝だめ」が認知症のリスクを増大させる…睡眠専門医が教...の画像はこちら >>
日本人の睡眠時間は、先進国で最も少ない――。

’21年のOECDの報告によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、加盟33か国中の最下位。平日、仕事に追われて不足しがちな睡眠を補うために、週末の寝だめが習慣という人も多いだろう。

だが、体によかれと行った寝だめが、認知症のリスクを増大させるというのだ。そもそも、なぜ認知症は発症するのか。睡眠専門医の坪田聡氏が解説する。

「アルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質の“ゴミ”が脳に溜まり、長年蓄積されて発症します。この脳のゴミはグリンパティックシステムと呼ばれる機能により、脳脊髄液が脳細胞の間を通ることで洗い流されるのですが、就寝時にこの機能は活性化されるため、寝不足により睡眠時間が短くなると、脳のゴミを洗浄しきれずに溜まっていってしまうのです」

ショートスリーパーは目指してなれるものではない

認知症予防に精通する医師の白澤卓二氏は最新データを用いて、こう付け加えた。

「マサチューセッツ工科大学の研究では、睡眠直後のレム睡眠のときにアミロイドβが多く処理されていることがわかっています。深い睡眠時には徐波といわれる4ヘルツ未満の脳波が出ており、神経細胞の活動の低下が認められる。このときに脳の血流が減り、脳圧が下がることで、細胞に隙間ができ、ゴミを洗い流す脳脊髄液が入っていきやすくなるのです」

睡眠が不足すればこのゴミを洗い流す効果が弱まるのだ。しかも、近年ではネット上にはショートスリーパーを自称する人が次々に現れ、養成講座さえ登場している。前出の坪田氏が続ける。


「個人差があるが、6時間半~7時間半の睡眠を取っている人は生活習慣病などの病気になりにくく、寿命も長い。対して、短いとより病気になりやすく、寿命も短くなります。必要な睡眠時間は遺伝による影響が大きく、ショートスリーパーは人口の1%程度とごく少数。目指してなれるものではありません」

睡眠不足が招く病気は生命リスクが大きいものばかり

「週末の寝だめ」が認知症のリスクを増大させる…睡眠専門医が教える“睡眠負債”の恐怖
アミロイドβというタンパク質のゴミは、睡眠時に処理されるが、寝だめでは睡眠不足を解消できないためゴミが蓄積される
睡眠不足が招く病気は、認知症だけに限らない。ある40代の男性会社員は「仕事が多忙で毎日4~5時間睡眠を数年続けていたが、ある日突然、激しいめまいと痺れに襲われたんです。担ぎ込まれた病院で、脳梗塞と知りました」と体験談を話す。寝不足によって自律神経が乱れ、免疫力も低下。それにより引き起こされる病気は心臓疾患や動脈硬化、糖尿病と、生命リスクが大きいものばかりだ。

また、徹夜も侮ってはいけない。「重大なリスクが隠れている」と、前出の白澤氏は警鐘を鳴らす。

「ハーバード大学の最新の研究によれば、20代の学生がたった一晩徹夜しただけでアミロイドβが2~3%増えていた。一見、些細なことで20~30年後の認知症リスクが高まるのだから怖い話です」

寝だめで寝不足は解消できない

だが、やみくもに長時間の睡眠を取ったからといって、不足した睡眠を取り返せるわけではない。白澤氏が続ける。

「寝だめで寝不足は解消できません。
睡眠は“貯蓄”できないのです。恒常的に長時間の睡眠を取っても、睡眠の質が悪ければ脳のゴミは溜まっていくばかり。睡眠時間だけで睡眠の質は測れません」

確かに、どんなに寝ても頭がボーッとしたり、だるさが抜けないという人は多い。坪田氏が理由を説明する。

「良質な睡眠を十分に取れば、一日分の脳のゴミは洗い流せるでしょう。ただ、ゴミは毎日溜まるので、一日だけでは意味がない。ボーッとしたりするのは、その人に必要な睡眠時間に足りていないから。一日単位では問題なくとも、1週間、1か月単位でのしわ寄せが“睡眠負債”となって積み上がっていく。これを解消するには1~2か月要するので、一日や2日の寝だめでは効果が望めません」

認知症リスクは2倍!寝だめが危ない理由とは

「週末の寝だめ」が認知症のリスクを増大させる…睡眠専門医が教える“睡眠負債”の恐怖
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寝だめに頼ることの健康リスクはほかにもある。

「睡眠時間のムラが大きくなることが寝だめの大きな問題ですが、起きる時刻が遅くなることが輪をかけて体に悪影響を及ぼします。睡眠で大事なのは、毎日十分な量を取り起床時刻を一定にすること。人間の体内時計は、日光を浴びることで毎日リセットされるので、起床時刻のズレは前後2時間以内に収めるのがいい。

また、睡眠の中央時刻を一定にするのも大事です。
午前零時に寝て、朝6時に起きる人の中央時刻は午前3時。この時刻にムラが生じると、“ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)”になる恐れがあります」(坪田氏)

ソーシャル・ジェットラグとは、平日と休日の睡眠リズムのズレによって時差ボケのような不調が生じる状態のこと。不規則で長時間の睡眠は、さまざまな病気リスクを跳ね上げる。ある50代女性が話す。

「平日の睡眠不足を補うために、土日は昼すぎまで寝る活を10年以上続けました。ある日、異様な喉の渇きとだるさで倒れ、即入院。重度の2型糖尿病でした」

短時間の昼寝が効果的

ソーシャル・ジェットラグは、この女性が患った糖尿病のほか、心血管疾患や認知症のリスクを飛躍的に増大させる。ボストン大学の研究では、習慣的に9時間以上の睡眠を取る人は、9時間未満の人に比べて10年以内の認知症発症リスクが2倍に増大することがわかっている。睡眠時間が不足しているなら、寝だめではなくむしろ短時間の昼寝が効果的だ。坪田氏が続ける。

「30分以内の昼寝をする人の認知症リスクは低いことが知られています。人間には眠気のピークが一日に夜と午後の2回ある。昼食後に短時間の睡眠を挟むことで、午後の時間帯をより活動的に過ごすことができ、夜の睡眠が深く良質になりやすい。


一方で1時間以上昼寝すると、目覚めた後、脳や体が十分に覚醒しない睡眠慣性が1時間以上も続き、夜の睡眠の質を下げてしまいます。睡眠は不足しても、多すぎても認知症リスクを高めるのです」

不足も毒、過多でも毒となるのが睡眠。寝だめはその両取りの悪手なのだ。

「認知症リスク大」の睡眠習慣をチェック

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□平日は睡眠不足になりがちな分、週末たくさん寝る

□平日の睡眠時間が6時間を切る日が週3日以上ある

□休日の起床時刻が平日より2時間以上遅い

□就寝・起床時刻がバラバラで一定していない

□習慣的に9時間以上眠る日がある

□1時間以上の昼寝をすることがある

□十分寝ているはずなのに日中ボーッとしたり体がだるい

□眠れないときベッドでスマホを見ながらゴロゴロしている

□月1回以上徹夜や極端な睡眠不足(4~5時間以下)になる

□自分は「ショートスリーパー」だと自覚している

【雨晴クリニック副院長 坪田聡氏】
眠専門医。医学博士。All About睡眠ガイド。『不調・ストレスも撃退! 老けない人の睡眠習慣』(大洋図書)ほか著著多数
「週末の寝だめ」が認知症のリスクを増大させる…睡眠専門医が教える“睡眠負債”の恐怖
雨晴クリニック副院長の坪田聡氏
【お茶の水健康長寿クリニック院長 白澤卓二氏】
医師。国際予防医学協会理事長。近著に『白澤式長寿メソッド 老化三毒抜き』(宝島社)。著書の累計販売部数は500万部超
「週末の寝だめ」が認知症のリスクを増大させる…睡眠専門医が教える“睡眠負債”の恐怖
お茶の水健康長寿クリニック院長の白澤卓二氏
※2026年4月7日・14日合併号より

取材・文/週刊SPA!編集部

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