今回は、満員電車内での“ひとつの行動”が、その場の空気を変えたという2人のエピソードを紹介する。
立っている人の前で“眠るふり”
平日の朝。通勤時間帯の電車内はすでに混み合い、吊り革につかまる人でぎゅうぎゅうの状態だった。川上亮介さん(仮名・30代)は、車内を見渡したとき、“ある違和感”に気づいたという。4人掛けの座席の端に座る男性の隣には、大きなリュックが置かれていた。
「立っている人が何人もいるのに、堂々と荷物が置かれていました」
男性は目を閉じており、眠っているのか、それとも眠るふりをしているのかはわからなかった。ただ、荷物をどかす様子はなかったようだ。
「トラブルになるのは避けたかったので、声をかけるかどうか迷いました」
それでも、川上さんは勇気を出して声をかけた。
「すみません、荷物を少し詰めていただけますか?」
男性は一瞬、川上さんのほうを見たあと、無言のままリュックを膝の上に移した。
「ありがとうございます」と言われた瞬間
空いた席の前には、“ヘルプマーク”をつけた女性が立っていた、顔色が悪く、吊り革を握る手にも力が入っているように見えたという。川上さんは女性に、「どうぞ」と声をかけた。女性は少し驚いたあと、「ありがとうございます」と言って小さく会釈をして座った。
「声をかけたときは緊張しました。
荷物を座席に置くこと自体が、必ずしも悪いとは思わない。ただし、「周囲の状況を見れば、取るべき行動は変わるはずだ」と川上さんは話した。
通勤電車に現れた“白髪の男”
白髪混じりの男性が手に持った鞄の中には、スマートフォンが入っているのが見えた。そして混雑に紛れて、小学生の女の子の足元へ滑り込ませるような動きをしていたそうだ。
「偶然かなと思いましたが、何度か見て“確信”に変わりました」
松原さんは、同じく通勤していた同期と目配せをしながら、タイミングを伺っていた。
勇気を振り絞って男性の腕を掴み…
そして、その機会は突然訪れる。電車が駅に到着し、ドアが開いた瞬間だった。男性が降りようとしたそのとき、松原さんは「ちょっと待ってください!」と言いながら腕をつかんだのだ。男性は激しく抵抗し、ホームで揉み合いになった。
「怖かったです。でも、ここで離したら後悔すると思いました」
駅員を呼び、男性はその場で確保された。
「被害者のご家族の判断によると聞きました。何もしないほうが楽だったかもしれません。でも、あの日は動いてよかったと思っています。見過ごすことはできませんでした」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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