2026年の野球シーズンがスタートし、アメリカの野球ファンはそわそわしている。ニューヨークでは、ヤンキースタジアムでの初戦が行われた4月3日にはヤンキースのユニフォームを着たファンの姿が市内のあちらこちらに見られ、街にシーズンの到来を告げた。
日本選手に目を向ければ大谷翔平(ドジャース)をはじめ、アメリカでの初めてのシーズンを迎えた岡本和真(ブルージェイズ)や村上宗隆(ホワイトソックス)らが好調な滑り出しで、日本の野球のレベルの高さをアメリカのファンに見せつけた。
アメリカに住む日本人として、この上なくうれしいことだが、日本人の活躍を素直に喜ぶ気にはなれない。日本人選手が、人気低迷にあえぐアメリカプロ野球界の穴埋めに使われているようにしか見えないからだ。

「好きなスポーツ」で野球は10%……長期の人気低迷にあえぐ米野球

大リーグを含めたアメリカの野球は、長期の人気低迷にあえいでいる。調査会社ギャラップは1937年以降、不定期でアメリカ人の最も好きなスポーツについての調査を続けている。野球は’60年代まで、アメリカを代表するスポーツとして圧倒的な人気を博していたものの、’72年の調査でアメリカンフットボールに首位を奪われ、その後、人気低迷の一途をたどった。’90年には「万年3位」といわれたバスケットボールとほぼ同じぐらいの人気度にまで落ち込み、その後は団子状態で2位争いを続けている。最新の’23年の調査では、「好きなスポーツ」で野球を選んだアメリカ人は10%にまで落ち込み、41%のアメリカンフットボールは雲の上の存在となっている。

米大リーグ機構(MLB)の人気度を示す指標で最もわかりやすいのは、アメリカンリーグとナショナルリーグの優勝チームが激突する「ワールドシリーズ」の視聴率だ。’25年は第7戦までもつれ込むかつてない盛り上がりを見せたにもかかわらず、視聴率は歴代ワースト5に入るレベルだった。

観客動員数もさえない。MLBは昨シーズン終了後、3シーズン連続で観客動員数が増加したと胸を張って報道発表したが、過去最高となった’07年の7948万人には遠く及ばない7141万人にとどまった。

「野球離れ」を食い止めるために使われる日本人選手

そんな中、大谷らが所属するドジャースはMLB史上初めて、球団の総収益が10億ドル(約1590億円)を突破した。パートナー企業76社のうち20社が日本企業で、放映権も高く売れ、ジャパンマネーが高収益の原動力となった。


村上を迎え入れたホワイトソックスのブルックス・ボイヤー副社長はアメリカメディアのインタビューに「日本企業と提携して、日本のファンに村上がプレーする姿を見てもらいたい。日本のファンが応援したくなるような野球を提供できれば、スポンサー獲得や知名度の向上につながるだろう」と語り、日本に大きな期待を寄せた。

日本人が買い求める大リーググッズもばかにはできない。’25年のドジャースの開幕戦は日本で行われたが「東京シリーズ」と名付けられたカブスとの公式戦ではグッズ売り上げは59億円にものぼった。円安をものともせずに、アメリカに大リーグ観戦に来る日本人は多い。シーズンを通じ日本人にいかにグッズを売り込むかは、MLBの重要な経営課題だ。

現在のMLBは、自国アメリカでの野球離れを食い止められず、その穴を日本人選手の活躍と、それを見る日本人で埋め、そこから生まれるジャパンマネーに活路を見出そうとしている。

スマホの普及で「ゲームが長く、かったるい」と敬遠される野球

なぜここまで、大リーグの人気が低迷しているのか。よく指摘されるのは、「ゲームが長い」ことだ。スマートフォンの普及で、最近は身近なエンターテインメントが増えた。日々、新しい楽しみが手に入る時代に、9回まで対戦して勝敗を決める野球のリズムが合わなくなったといわれる。МLBは投球間隔を短くするなど、試合時間を短くするため強引ともいえるルール改正をしているが、若いアメリカ人は「野球はかったるい」と敬遠する。


「試合数が多い」ことも、ファンを遠ざける要因だ。大リーグ30球団は1チームあたり1シーズンに162試合を戦う。試合数が多い分、1試合あたりの重要性は低くなり、長いシーズンを通じてファンをつなぎとめることができなくなっているという。

プロフットボール(NFL)やプロバスケット(NBA)に比べ、家族全員で応援できる選手が少なくなったこともMLBの悩みだった。スポーツ選手の有名ランキングで大リーグの選手が上位に入るのは数少ない。野球少年がそのまま大人になったような大谷は家族全員で応援できる選手で、MLBの救世主となった。

これだけ日本人選手が活躍している中で気になることがあった。
以前、MLBの職員採用担当者と話す機会があった。日本人選手のグッズ販売に携わる人材を探していた。日本人選手が活躍すれば、日本のファンが選手のキャラクターグッズをこぞって買い求めるので、販売量を増やすための態勢強化だった。
ただ、その求人は働く期間がシーズン中だけという限定的な契約だった。日本ではシーズンが終わっても大谷らへの注目度は高く、通年でグッズ販売に取り組んだほうが売上増につながるのではないか、と質問したところ「シーズン中だけでいい。
選手の成績は水物だし、グッズの販売量もそれに合わせて変動するから。オフシーズンのことまで考える必要はない」と答えた。
長期的な戦略についての話をこの担当者に向けても、まったく乗ってこなかった。あくまでいち職員の見解であるにせよ、MLBにとって日本選手と日本のマーケットというのはその程度のものなのか、と半ばあきれた。

MLBが場当たり的な考え方で日本人選手を見ているとしたら、選手はあまりにも不幸である。スポーツとはいえビジネスなので結果がすべてではあるが、都合にいいときだけ利用するというのはスポーツマンシップにもとる。いつまでも野球人気を復活させることができない。アメリカ在住の日本人として、MLBに一抹の不安を覚えている。

【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
編集部おすすめ