入社式では希望に満ちた表情を見せていた新入社員が、わずか数日、あるいは1か月足らずで姿を消す。なぜ、社会人のスタート地点であっさりと会社を見限るのか。
当事者たちの証言から現場のリアルに迫る——。

「入社したばかりであんなことを言うなんて、常識的におかしい。絶対に後々問題になる」

 新海武史さん(仮名)の職場では、ある新入社員に対してそんな声も出ていたという。しかし、まさか現実になるとは……。

かわいい新入社員の登場で職場がざわついた

「絶対に後々問題になる」悪い予感が的中、期待の新入社員が1週...の画像はこちら >>
 新海さんが勤務しているのは、全国に支店を展開する昇降機関連の会社だ。当時、新海さんは山梨県内の支店に所属していた。支店の人数はおよそ15名ほど。比較的アットホームな雰囲気の職場だったという。

 数年前の春、支店に専門学校を卒業したばかりの20歳の女性が新卒として配属されてきた。

「誰もが認めるほどのかわいい子で、その容姿に事務所の空気が少しざわついたのを覚えています」

 入社時には、顔写真付きの「入社の挨拶」メールが社内に一斉送信されるのが慣例だったというが、その写真について他支店でも「あの子すごくかわいいね」と話題になっていた。小さな支店にとって、若くて華やかな新入社員の存在は、それだけで職場の空気を変える力を持っていた。

入社3日目の「お願い」

 ところが、そんな彼女が入社3日目の木曜日に、支店長へある相談を持ちかけた。

「家で飼っている犬が一匹で留守番しているのが心配なので、会社に連れてきてもいいですか?」

 新海さんは当時のことをこう語る。

「普通に考えれば難しい話です。
でも支店長は40代の男性で、彼女にメロメロといった様子。そのお願いを『まあ、いいんじゃないか』とあっさり許可してしまったんです」

 その場で唯一、強く反対したのが40代の女性社員、いわゆる“お局さん”的な存在だった。

「入社したばかりであんなことを言うなんて、常識的におかしい。絶対に後々問題になる」と、かなりはっきりした口調で意見を述べていたという。しかし、支店内は男性社員が多く、彼女のお願いは押し切られる形となった。

翌日、本当に犬が出社してきた

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 そして翌日の金曜日、彼女は本当に犬を連れて出社してきた。

「小型犬で大人しくはあったものの、事務所に犬がいるという異様な光景に、みんなどこか落ち着かない様子でした」

「意外と良いね」という声もある一方で、「本当にこれでいいのか」という空気も確かにあった。ペットを連れてくるという行為は、たとえ上司の許可があったとしても、職場全体の合意なしには成立しにくいもののはず。他の社員への配慮、衛生面、業務への影響——そういった観点から見れば、お局さんの反対意見には十分な根拠があった。

 だが、その金曜日にはまだ誰も、翌週に何が起きるかを知らなかった。

週明け月曜日、彼女は現れなかった

 週が明けた月曜日、なんと彼女は出社してこなかった。

 遅刻か、あるいは体調不良か。そんな話題が社内で出始めたころ、午前中に本人から電話が入った。
その内容は、誰も予想していなかったものだった。

「妊娠が発覚したため、退職します」

 新海さんは「あまりにも突然で、誰もが言葉を失いました」と振り返る。入社からわずか1週間。かわいらしい新入社員が入り、職場が少し華やいだと思った矢先の出来事だった。

 後から思えば、お局さんは犬の件について「後々問題になる」と違和感をあらわにしていたが、結果として的中した形となった。もちろん、妊娠して退職することまで予見していたわけではないだろうが、入社直後に職場のルールを軽々と飛び越えてくるような言動には、何らかのシグナルが含まれていた可能性もある。それは長年の職場経験が培った、ある種の直感だったのかもしれない。

 その後、彼女がどうなったのかは誰も知らない。連絡が取れたという話も、続報が届いたという話も、新海さんの耳には入ってこなかった。

 歓迎ムードに包まれて始まったはずの新入社員受け入れは、まさかの幕切れを迎えた。職場では“珍事”として語り継がれているとか。

<構成/藤山ムツキ>

―[すぐに辞めた新入社員]―

【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。
取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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