“日本の麦茶を変えると言っているのに原材料が外国産なのはどうか”とか、“他のメーカーの麦茶を下げるような表現はよろしくない”との意見からも、視聴者の共感が得られていない状況がうかがえます。
「常識を覆す」ド派手な演出と、ごく平凡な中身のギャップ
では、今回HIKAKINはどんな手法で麦茶を売り込もうとしているのでしょうか?4月5日公開の動画では、40分近くにわたって「ONICHA」の紹介がされています。
野外ロケでの爆破シーンや、シャンパンタワーのように麦茶をグラスに注ぐシーンなどからは、これまでの常識を覆す形で麦茶を売り出していることがわかります。
肝心のお味はというと、大麦以外の余計なものは一切使わず、「まるで家で淹れたような自然で優しい味わい」が売りとのこと。そうじゃない麦茶はあるのかとツッコみたくなりますが……。
<娘が大きくなった時に、「お父さんが麦茶を変えたんだよ」って胸を張って言いたい。その覚悟で作りました>との言葉を証明することができるのか。4月21日、全国のセブンイレブンでの発売に注目が集まります。
麦茶を手段にした「射幸心」を煽る手法
しかし、本題はここからです。果たして、HIKAKINにとって「ONICHA」とは、そもそも麦茶を売る、よりよい質の麦茶を作る目的のためにあるのだろうかという疑問です。麦茶としての「ONICHA」はカフェインゼロでミネラルを含んでいる。大麦だけで丁寧に淹れた優しい味を売りにしています。こうした情報から分かることは、どこまでも当たり前の麦茶にすぎないからです。「日本の麦茶を変える」というコンセプトとは程遠いと言わざるを得ないからです。
では、「ONICHA」の何が異様なのか。人々の反感を買ってしまった要素はどこにあるのか。それは、射幸心のえげつない煽り方にあるのだと思います。
HIKAKINが動画で最も力を入れて訴えていたのが2大キャンペーンです。XやTikTokなどの公式SNSをフォローしてコメントをすると、総額1500万円分のアマゾンギフトカードが抽選で300名に当たるキャンペーン。そして、それに先立つ形で発売前の4月19日にお台場で「ONICHA」を無料配布するイベントです。
無料配布イベントに至っては、参加権すらも抽選制とのこと。見事当選し無料配布イベントに参加することができた人は、「ONICHA」のキャラクターシールをもらえたり、HIKAKINとのディナーに同席する権利が当たる抽選会に参加できたりするという仕組みになっています。
こうして、麦茶という日常的かつ平和な飲み物を手段にして、人々の劣情を露骨に刺激していく。アマゾンギフトカードという実用性と、自分のネームバリューを最大限に活用した希少性。この両輪で、人の心を揺さぶっていく。
麦茶を踏み台にする「生々しさ」への拒否反応
このようなイベントは麦茶でなくても成立します。いずれにせよ、日本人にとって日常的かつ平和なイメージの麦茶という極めて公共性の高い飲み物を踏み台に生々しいネットビジネスが展開されていくことに対して、拒否反応が示されているわけです。
もちろん、HIKAKINのビジネスに違法性はおろか、脱法性も全くありません。その意味では、全く批判される筋合いはない。
しかしながら、このような手法が美しいかどうかと訊かれたらどう答えるでしょうか?
その意味において、「ONICHA」は多くの疑問点を抱えているのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4
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