「グラングリーン大阪」「渋谷サクラステージ」“ガラガラ”と言われてもオフィスは?
最近、とくにSNS上で「一等地なのに空いている!」と話題になった場所といえば、JR大阪駅北側に2025年3月に開業した複合再開発ビル「グラングリーン大阪南館」だ。また、東京都心ではJR渋谷駅南側に2024年7月に開業した複合再開発ビル「渋谷サクラステージ」も「渋谷駅直結とは思えないくらい空いている」とたびたびSNSを賑わせている。両施設ともに日本を代表するターミナル駅に直結した“超一等地”の複合再開発施設だ。それゆえ、従来の駅前商業施設の感覚で見ると、確かに「空いている」と感じることもあるだろう。
一方で、この2施設には大きな共通点がある。それは、両施設ともに下層階に商業施設を備えるが、建物全体の主役となっているのは大規模な賃貸オフィス。つまり「オフィス主導型の複合再開発」であるという点だ。
複合再開発の主目的は“集客”にあらず
こうした都心の新しい高機能ビルへのオフィス集約は、従業員に対する福利厚生にも繋がるものであり、人材獲得競争のなかでは必須項目の1つとなりつつある。もちろん、梅田や渋谷という「アジア有数の大都市の一等地に本社オフィスを構える」ということ自体に価値を見出す企業も多い。
つまり、これら2つの複合再開発は「商業施設による集客」を主目的としたものではなく、再開発街区全体、ひいては「都市機能全体の価値向上」、さらには「国内大手企業の価値向上」をも目指した一大プロジェクトであり、施設全体を見ると「再開発の成功例」であるともいえる。
都心の複合再開発、なぜ「ガラガラ」と言われるのか?
それでは、この両施設はなぜ「ガラガラだ」と言われやすいのだろうか。一番に挙げられる理由は、オフィス主体施設ならではともいえる「“余白”を重視する設計思想」だ。
従来の商業施設主体の再開発では「できるだけ多くの来館者を滞留させること」が重視される。一方、今回取り上げたようなオフィス主体の施設では、「勤務者の快適性」が最も重要となる。そのため、平日のピーク時であっても、「長蛇の列ができない」「座席に余裕がある」「通路をスムーズに歩ける」程度の“余白”ともいうべきものを確保することが施設の価値向上につながる。
また、オフィス主体の施設は、一般的な商業施設が最も賑わう「休日昼間」に相対的に人が少なくなりやすい。そのため、「周辺は混雑しているのにここだけ空いている!」という光景は、SNS上では強いインパクトを持って拡散されやすいのであろう。
そしてもう1つの理由として、「賑わう時間帯の分散化」も挙げられる。
たとえば、グラングリーン大阪南館の地下にあるフードコート型の飲食ゾーン「タイムアウトマーケット大阪」は一般的な飲食ゾーンとは異なり、平日のオフィス勤務者などの需要よりも、インバウンドも含めた「観光客需要」「ナイトタイムエコノミー」を強く意識した施設。同館の高層階には高級ホテルもあり、宿泊者の利用も見込んでいる。そして、渋谷サクラステージも、平日昼間に多く利用されるカフェやクリニックモールと、バーや居酒屋といった夜間需要を意識した飲食店エリアが分かれている。
つまり「平日昼間に賑わう場所」「夜間や週末に賑わう場所」「観光客が多い時期・時間帯に賑わう場所」がそれぞれ施設内で分散しているのである。その結果、施設全体として常時「人で溢れる」状態には見えにくいのだ。
「移動の途中で利用する」ことが前提に
グラングリーン大阪は「まちと公園をつなぐ地域のハブ」を掲げ、大阪駅(地下ホーム)や福島エリアから再開発が進むうめきたエリアへと人を流す“都市の通路”としての役割を担っている。
また、渋谷サクラステージも、坂道や路地が多かった桜丘エリアを再編した再開発であり、渋谷駅から桜丘方面への“都市の通路”の1つとすべく、館内には高さが違う土地の往来を便利にするための立体的動線「アーバン・コア」が設けられている。
つまり、両施設とも「滞留型ショッピング施設」とは異なり、「街と街を繋ぐ機能」を強く持つ施設なのだ。そのため、下層階の商業エリアは「館内で立ち止まって長時間過ごす」よりも、「移動の途中で利用する」ことが前提となっている街区が少なくない。
最後に、個人的に挙げたい理由が、ここ最近の「都市部の混雑化による感覚マヒ」だ。
近年の都心エリア――渋谷や新宿、また梅田や心斎橋・道頓堀などは、つねに「超高密度」であることが当たり前だ。
それゆえ、都心の駅チカ一等地で「少し余裕がある」「座席が空いている」「通路を快適に歩くことができる」場所を見かけると「ガラガラだ!」という風に思えてしまうのではないだろうか。
混雑によるストレスを無くせ!――複合再開発の新常識は「余白の価値化」
近年の大型再開発において重視されているのは、単なる来館者数のみではなく、
・街との回遊性・親和性
・地域ブランド向上・地域環境への配慮
・オフィスとしての価値・機能性
・滞在の快適さ
・多様な場面・時間帯への対応
・ダイバーシティ&インクルージョン
・災害への備え
などといった、多角的な視点による「街区・都市機能全体の向上」である。
今回紹介した2つの大型複合施設は、商業施設単体として見れば、必ずしも大きな賑わいを見せているわけではないかも知れない。しかし、再開発の最大の目的は「商業施設単独で人を集めること」ではなく、「再開発街区全体」、さらには「地域全体・都市機能全体の価値の最大化」にある。商業ゾーンは、いわば魅力を高めるための「舞台装置の1つ」なのだ。
・混雑しすぎない
・快適に移動できる
・座って休憩する場所がある
・トイレに待たずに入れる
など、滞在する際に「混雑によるストレスが少ない」こと自体が、都市空間における大きな価値になりつつある。
震災やコロナ禍などさまざまな経験を経て、都市には「効率」だけでなく、「余白」や「安全性」が求められるようになった。そう考えれば、「空いている=失敗」だと単純に結論づけるのは早計だろう。
グラングリーン大阪を含む「うめきた2期」再開発は2028年春、そして渋谷サクラステージに直結する渋谷駅周辺の再開発は2034年度に全面完成する予定だ。数年後、それぞれの街が成熟したとき、この両施設はどういった姿を見せ、そして人々はこの“余白のある都市空間”をどのように評価するのだろうか。<取材・文/若杉優貴(都市商業研究所)>
【若杉優貴(都市商業研究所)】
『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitter:@toshouken
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