ただ挨拶しただけなのに……。何げない会話を好意と思い込み、「人生最後の恋」に全力を注ぐ高齢男性たち。
今、そんな「老人ストーカー」による被害が増えているという。なぜ、彼らは暴走してしまうのか。被害者の証言から、その恐るべき実態に迫る。

暇もカネもある老人が昼夜を問わずつきまとう

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 篠田美香さん(仮名・64歳)は、1年前に遭ったストーカー被害をこう振り返った。

「主人と死別後、健康のために地域のデイサービスでやっている体操に週1回参加してました。新しく70代の男性が入ってきたのですが、なかなかなじめず、気の毒に思って、時折、声をかけるようになったんです。その後、散歩の途中や行きつけのスーパーでよく顔を合わすようになり、挨拶程度はしてました。1か月ほど後、『お茶でもどうですか?』と誘われ、断るのも悪いので行ったら、道すがら突然、抱きしめてきて、『あなたも寂しいでしょう』って……。気持ち悪くて、はねのけて家に帰りました」

ただの挨拶が「人生最後の恋」に…コンビニの接客を“好意”と勘違い、24時間つきまとう“老人ストーカー”の恐怖
※写真はイメージです(画像生成にAIを利用しています)
 だが、執拗なストーカー行為は続く。

「デイサービスのお友達に番号を聞いたらしく、多いときは一日に10回以上電話がかかってきて、無視していたら自宅に押しかけてきた……。警察に通報すると、『オレはストーカーなんかじゃない!』『交際相手を心配して家を訪ねただけだ』などと言っていたようです」

 犯罪心理学者の越智啓太氏は、こう明言する。

「日本の犯罪は減少しているが、高齢者(65歳以上)の犯罪だけが増加しており、性犯罪やストーカー事案も増えてます。背景には少子高齢化によるシニアの増加があるが、人口比率以上に犯罪が増えている。
つまり、単なる人口増では説明できない高齢者特有の要因があるのです」

リスク要素フルコンボ。70代が最も危険な理由

ただの挨拶が「人生最後の恋」に…コンビニの接客を“好意”と勘違い、24時間つきまとう“老人ストーカー”の恐怖
孤独とプライドをこじらせた70代男性は、ストーカー化のリスク要因を全て満たしているという ※写真はイメージです(画像生成にAIを利用しています)
『犯罪白書』(法務省)によれば、刑法犯全体に占める高齢者の割合は30年前には3.9%だったが、’24年には21.4%と5倍増となった。今や、検挙数の5人に1人が高齢者だ。越智氏が続ける。

「特に、70代の男性はストーカーになりやすい傾向が顕著です。会社を退職して地位や肩書を全て失っても現役の頃のプライドを引きずり、かつてのように周囲から尊敬されることのない現実にフラストレーションを溜める人も多く、そもそも暴走しやすい。また、仕事一筋で夫婦仲が悪いうえ、会社以外の人間関係がない人が多い。地域のコミュニティに加わろうにも、プライドが邪魔をしてできない。孤独は怒りを増幅させます。ストーカーは四六時中、監視し、つきまとうのでお金も時間も必要ですが、この世代は両方持っている人も多い。プライド、孤独、カネと時間というストーカー化のリスク要因の全てを満たしているのが、70代男性なのです」

 関東のリゾートでカフェバーを経営するシングルマザーの浅川恵さん(仮名・34歳)も、被害者の一人だ。

「ここら辺はリタイアして購入したリゾートマンションで暮らす裕福な高齢者が少なくない。
ウチは観光客向けの店ですが、そんな地元のおじいちゃん客にストーカーされたんです。単なる接客を好意があると勘違いされて、初めは週1だったのが、次第に来店が増えて、ついには毎日来て長時間居座るようになった」

ただの挨拶が「人生最後の恋」に…コンビニの接客を“好意”と勘違い、24時間つきまとう“老人ストーカー”の恐怖
「山崎12年をオーダーしてくれるし、大人しい良客と思っていたんですが……」(浅川さん)
 ただ、その頃はまだマシだったという。

「新たに来店したおじいちゃんも、ストーカーになったんです。毎日のように同じ客2人がずっと店にいて、牽制しあっているので、他の客が寄りつかない。『昨日、駅前で男と何を話していたの?』と聞いてきたり、どこにいても監視されてるようで気味が悪かった。迷惑だからやめてくれと何度言っても、『君が心配なんだよ』とニヤニヤして意に介さない。そのうち一人が『息子の運動会を応援しに行く』と言い出したときは本当に怖くて、仕方なくしばらく店を閉めました」

老人ストーカーの被害者は20代に多い!?

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彼らは若い女性の接客を好意と勘違いし、拒まれても高揚感を得てストーカー行為がやめられない ※写真はイメージです(画像生成にAIを利用しています)
 老人ストーカーの不可解なメンタリティを、前出の越智氏が解説する。

「実は、老人ストーカーの被害者は20代の女性が多い。行きつけの喫茶店やコンビニで女性店員とちょっと言葉を交わしただけなのに、『自分だけに声をかけている』『オレに気がある』と、認知の歪みから都合よく考える。リタイアした高齢男性は社会的影響力を失い、自分を『いてもいなくても同じ』と考えがち。相手の女性に拒まれてもストーカーをやめないのは、『自分が相手に影響力を及ぼしている』と受け取り、むしろ高揚感を得ているからです」

 ストーカーが高齢者だからと、甘く見てはいけない。

「加害者が現役世代なら昼間は仕事があるので、被害者は日中に安心できる。
ところが、シニアは暇もカネもあるので昼夜を問わずつきまとうので、被害者は片時も心が休まらない。また、高齢ゆえに『人生最後の恋』と考える老人ストーカーは非常に多く、『最後』だからこそ全資源を投入する。被害者にすれば、全力でストーカーされているに等しい。“無敵の人”たるゆえんです」

 寺田未来さん(仮名・22歳)は、3年前、アルバイトしていたコンビニの常連客がストーカーになったという。

「70代半ばくらいのお客様が毎日、朝食を買いに来ていたので、自然と挨拶を交わすようになりました。1か月後くらいからレジで『頑張ってるね』とコーヒーやお菓子をプレゼントしてくるようになり、1週間ほど断り続けていたら、『なぜ、(オレの気持ちが)わからないんだ!』と大声で怒り始めたんです」

 客は出禁、寺田さんはバイト先を替えたのだが……。

「大学でダンスをやっていたので、TikTokなどのSNSにショート動画を投稿していたのですが、熱心なコメントやいいね!がつくようになって、初めは喜んでいたんです。でも、ある日、大学の友達と飲んでる写真をアップしたら、即座に『そんな若造のどこがいいんだ!』とコメントが来て、コンビニのストーカー客だと直感しました。それ以降、いつどこから見られているか常に不安で、メンタルに不調をきたして、引っ越しを余儀なくされました」

 SNS全盛の現代ネット社会では、ストーカーが相手女性の誹謗中傷を拡散したり、事実無根の書き込みが半永久的に残るデジタルタトゥーになるなど、リアル以外にもリスクが増大している。

「一般に高齢者はネットに疎いが、『人生最後の恋』に全力を注ぐ老人ストーカーはネットの勉強を一生懸命やって、扱えるようになってしまう。被害者のアカウントを探し出し、たとえ現実社会で制止されても、ネット上でストーカーを続けるのです」

 日本の高齢者人口がピークを迎える’43年まで、老人ストーカーは増え続けるだろう。

法政大学教授
越智啓太
犯罪心理学者。
臨床心理士。警視庁科学捜査研究所などを経て現職。専門はプロファイリングなど。ストーカーの危険性に精通する

<取材・撮影/山本和幸、取材・文/齊藤武宏>
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