値下げが導いたV字回復
幸楽苑はラーメンチェーンの中でもコロナ禍からの回復が遅れていました。2021年3月期から3期連続の営業赤字。一方、競合で日高屋を運営するハイデイ日高は2023年2月期には黒字転換を果たし、このときに6億円以上の営業利益を出しています。日高屋は2022年ごろから段階的に値上げを実施しました。しかし、幸楽苑はインフレ真っ只中の2023年に「プレミアム醤油」や「みそバターコーンらーめん」を70円引き下げるなど、まさかの値下げに動いたのです。
値下げをした2024年3月期に3300万円の営業利益を出し、黒字転換を果たします。そしてここから怒涛のV字回復が始まるのでした。2025年3月期も営業黒字を拡大し、2026年3月期は営業利益15億1500万円となりました。この年の営業利益率は5.2%で、コロナ前の2019年3月期の4.0%を上回っています。
客単価を抑えて客数で稼ぐビジネスモデルにファミリーレストランのサイゼリヤがありますが、幸楽苑はそのビジネスモデルを踏襲して成功した数少ないラーメンチェーンの一つと言えるでしょう。
客数減少の課題に直面する餃子の王将
足元でやや苦戦しているのが餃子の王将ホールディングス。2026年5月の既存店客数は前年同月比で1.6%減少しました。売上は3.3%減っています。2025年度の年間客数は0.8%の減少。一方で、客単価は5.3%伸びており、売上は4.4%増加していました。高価格帯へとシフトした店は、客数減を単価で補って成長しています。しかし、餃子の王将は2026年4月と5月の売上が2カ月連続で前年割れ。値上げで稼ぐモデルは価格改定効果が一服し、客数の減少が止まらないと売上が伸び悩む傾向にあります。餃子の王将は正にその踊り場に差し掛かっているように見えます。
高価格帯と低価格帯の2極化が進行するラーメン店ですが、どちらのカテゴリーにいるかで今後の注力ポイント変わってくるでしょう。高価格は集客、特にリピーターの獲得に力を入れるものと考えられます。
泥臭いオペレーションで集客力を高める狙い
餃子の王将は、客数と売上減の対策として、顧客のタイムパフォーマンスの向上を実感してもらう店舗づくりを進めるといいます。具体的には、調理工程の見直し、仕込み作業の効率化、ウェイティング時の先行注文、会計動線の見直しなどです。これはつまり、美味しい料理を迅速に提供、顧客がストレスなく会計までをスムーズに済ませられるようにし、満足度向上を図るということ。
客数減に陥った際の常套句として、マーケティング施策の強化、DX化による顧客体験の向上などという美辞麗句で、その場をやり過ごそうとするケースを稀に見かけます。結局は具体的な手を打てずに時間だけが経過してしまうこともあります。餃子の王将は正確に課題認識をし、集客力を高めようという強い意気込みも感じとることができます。
餃子の王将は客数が好調だったころ、「ぎょうざ倶楽部」という会員サービスがメディアで取り沙汰されました。しかし、今になって客数減に悩まされているのです。マーケティング施策は一定の効果はありますが、顧客体験の向上がリピーター作りの本質。餃子の王将に限らず、高価格帯へと移行したラーメンチェーンは店舗オペレーションの改善など、見えづらい領域のブラッシュアップが必要な時代に入るでしょう。
自動調理ロボットが変える店舗運営
低価格帯のラーメン店は、少ない人材で店舗を高稼働させる体制づくりが欠かせなくなります。優れた人材を獲得して定着率を高め、スペシャリスト人材を育成。一方で、店舗の徹底的な省人化を図らなければなりません。特に低単価の店舗は、多くの客を捌かなけないために多忙で、スタッフ定着率が低くなりがち。利益が出づらいこともあって、賃金水準も低く従業員の士気が上がらないということもあり得ます。
しかし、幸楽苑は一般職からエリアマネージャークラスの平均賃金を5.1%引き上げ、新店舗やリニューアル店舗の店長へのインセンティブ制度を導入しました。改善提案などを行なった従業員に対してもレポートインセンティブを支給するなど、従業員のモチベーションを高める施策を強化しています。
こうした取り組みが奏功し、離職率は7.6%。業界の平均的な水準は25%程度であり、低く抑えることに成功しています。幸楽苑の離職率はかつて業界平均と近いところにあり、強化策が効果を発揮しているようです。
オペレーション改善に向け、自動調理ロボット「I-Robo2」も導入。このロボットはチャーハンや野菜炒めなどを自動で行うもので、直感的な操作で運用することができます。レジの自動化や配膳ロボットは多くの店舗ですでに導入されています。今後は調理などのオペレーションの自動化が進むでしょう。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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