みなさんは、勉強が好きでしょうか?
恐らく、ほとんどの方は嫌いと答えるでしょう。私たちは、小さなころから「勉強=嫌なモノ」と刷り込まれ続けてきました。
有名マンガ・アニメ作品である『ドラえもん』ののび太、『サザエさん』のカツオなど、様々なキャラクターたちは、みんな口をそろえて「机に向かいたくない!宿題もやりたくない!遊んでいる方が楽しい!」と嫌いを口にして憚りません。
勉強ばかりができる人を馬鹿にする「ガリ勉」なんて言葉もあります。
そもそも、説教をしてくる割には、勉強熱心な大人なんて早々見かけるものでもありません。本音は、いつまでたってもみんな勉強なんてしたくないのでしょうか。
そういった思想が垣間見えるのが、教育ママ・教育パパによる「管理教育」の体制です。
子どもの勉強スケジュールや進捗、成績などを全て手帳やエクセル上で管理して、一切の遅れを許さない。
教育熱心で有名な佐藤ママなどは、東大理Ⅲに子どもを4人いれた”成果”を出していますが、「目を離すと勉強しないから18歳まで個室を与えない」など、やはり徹底的な監視体制を敷いていたようでした。
まるで工場のように規則正しく行われる教育ぶりからは、「子どもが進んで勉強なんてするはずがない」という設計思想が垣間見えます。
そうして手塩にかけた子どもが東大に入れば、親は嬉しいでしょう。では、子どもの側はどうでしょうか。今回は、現役東大生たちに話を聞きながら「教育ママ・教育パパの歪み」について考察します。
「過干渉は自己管理能力を奪う」東大理三の主張
話を聞くにあたって、まず現役東大医学部5年生のKさんに伺いました。東大の中でも異端扱いを受ける受験の最高峰・東大理Ⅲに受かった彼女ですが、意外にも管理教育体制には大反対だそう。
「私は勉強が楽しいからやっていましたし、楽しいと思えるようになってから、成績が急上昇しました。小学生の頃などは、確かに親の目が合ったほうが勉強するようになるでしょうが、やらされないと勉強しない人が理Ⅲにたどり着けるでしょうか。
中高生にもなれば、普通は勉強の必要性を意識し始めます。やるときはやる、息抜きもしっかりやる。
この過程で自己管理能力を身に付けていきます。親に全部やってもらっているような人が、他大学の2倍近い速度で座学が進む東大医学部の勉強についていけるかといえば……。
とはいえ、最初は勉強が楽しいと思えない人がほとんどでしょう。親のサポートは必要だと感じますが、ずっと親の目の届くところで監視するとか、成績をエクセルで管理するとか、そういったことはやりすぎでしょう。
中学以降は、親や自分よりも友達との順位、差異を気にするようになっていくわけですから、そもそも親自体が眼中にないケースもあるかもしれません」(Kさん)
たしかに、東大生たちは、勉強しなさいと言われたことが無い人ばかり。だからこそ、こういった異常な教育体制には反対かとばかり考えていました。
それが合っている家庭もあるはず
しかし、東大教育学部3年生のDさんは、世の親の”熱心さ”について苦笑交じりに「そういうのもありなんじゃないか」と答えます。「まず、私個人としては、管理教育体制には反対です。もし、私がそういった親御さんのもとに生まれて、一から十まで管理されていたならば、きっと東京大学を目指すどころか、どこかでひねくれて勉強自体やらなくなってしまうかもしれない。
ただ、それが合っているご家庭も、どこかにはあるでしょう。
監視されないと頑張れない子どもと、監視していたい親。そのコンビがお互いの了承の上で頑張っているなら、そういうスタイルもアリなんじゃないかと思います。
とはいえ、これは特殊な例でしょう。佐藤ママの例ばかりが持て囃されているようですが、あれは佐藤ママのスキルがあったから成功しただけであり、子どもの特性を省みないままでメソッドを猿真似すると、大やけどをしてしまいます」(Dさん)
彼自身、地方公立トップ校から一浪の末に東大へ進学した経験を持ちますが、時たま「今度の模試で、第一志望に○判定とらないと、親がうるさくて……」とこぼしてくる同級生もいたのだとか。
ですが、恐ろしいのは、そういった親御さんに限って、一見すると全くヒステリックな一面が見えないこと。
「え!? あのお母さんが、そんなに騒ぐの?」と意外な驚きを隠しきれなかったそう。
「東大生には自分から勉強する子が多いから、親が勉強しなさいという必要がないといわれますが、それは自分で人生の優先順位がわかっているからです。
今は受験勉強に打ち込んだほうが、数年後にトータルで得をするだろうとか、いまは勉強より大事にしたいことがあるとか、そういった判断が自分で行える人が多い。
大学進学後に勉強しなくなる人もいますが、そういった方は大抵学業以外に打ち込むべきことを見つけているんです。教育熱心であればこそ、子ども自身が価値判断を早いうちからできるようにすべきなのかもしれませんね」(Dさん)
監視カメラに怯える日々を過ごした東大生
「うちは、親が佐藤ママの熱烈なフォロワーで、私の勉強机の横には常に監視カメラが置いてありました。少しでも寝たりサボったりすると、カメラ越しに『勉強しなさい』と飛んでくるんです。
思えば、勉強のみならず、様々な環境を親が整えてくれて、その結果として東大に合格できました。だからでしょうか、”東大に受かった”というよりも”東大合格を与えられた”感覚の方が強いんです。
私は、今まで自分で自分の好きなようにモノを選んだことがありません。
服にしても、小物にしても、常に『お母さんが気に入るかな』と母の影がちらつく。私一人だけでは、食べるものも着る服も、何も決められないんです。もしもそれで、相手の機嫌を損ねたらと不安になってしまう。きっと、私は死ぬまで母の影に付きまとわれるんだと思います」(Mさん)
親の弱さがにじみ出た教育体制
「○○大合格」の華々しい経歴。大人になればこそわかるその学歴のありがたみは、大人たちを教育代理戦争に駆り立ててやまない理由があるのでしょう。しかしながら、その結果として得られるものがあるように、失われるものもあります。安定的な成功を提供する裏で、挑戦の機会をひとつずつ毟り取っている自覚は、果たして教育ママ・教育パパにあるのでしょうか?
自分より拙い人生経験でもがき、時には失敗に向かって猛進する子どもの姿は、どうしても危うく見えてしまうでしょう。
だからこそ、恐ろしくて、ついつい声をかける。手を伸ばす。姿勢を正させる。一つ一つに口を出す。
本当に弱いのは子どもたちよりも、影に徹することができない親の方なのかもしれません。
<取材・文/布施川天馬>
―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―
【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。
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