惜しくもブラジルに敗れたサッカー日本代表。健闘を称える声が多くあがる一方で、試合前のインタビューで塩貝健人選手が「昔のネイマールでしょ」と発言し、ブラジルが昔ほど強くないと語ったことに対して議論が二分しています。

議論が二分した「昔のネイマールでしょ」発言

 ネット上では、「本当のことを言っただけ」「中田英寿を思い出すビッグマウスだ」と擁護する声がある一方で、「リスペクトに欠ける」「余計なことを言った」との批判も相次ぎ、大炎上する事態になっています。試合後、ブラジルの選手が塩貝選手を激しく煽ったり、握手の際に耳元で一言をささやいたりする動画も拡散されました。

 そこで、改めて塩貝選手の発言について考えたいと思います。

 まず、経緯を振り返ります。発端はスウェーデン戦の翌日、練習後のインタビューで起きました。

 記者団からブラジルについての印象を訊かれた塩貝選手は、「昔は強かったけれど、今はどうなんすか?」と逆質問。それに記者が「日本はネイマールに得点を決められている」と返すと、「昔のネイマールじゃないですか。今は大丈夫だと思います」と語りました。この言葉が切りとられ、ブラジルの選手やサポーターに伝わってしまったというのが一連の流れです。

塩貝選手は間違ったことを言ったのか?

 では、塩貝選手は何か“間違ったこと”を言ったのでしょうか?

 事実関係だけを見れば、これは決して間違っていないと言えます。最後にワールドカップを制覇したのが塩貝選手が生まれる前の24年前の日韓大会であり、優勝以降、自国開催のベスト4を除くとベスト8止まり。近年はヨーロッパの強豪国を相手に苦戦する場面が見受けられることを踏まえれば、塩貝選手の発言の中身そのものは、状況を客観的に把握したうえでの見解であることがわかります。

「昔のネイマールでしょ」塩貝健人の“正論”が招いた最大のミス...の画像はこちら >>
 またネイマール選手についても、代表選出が決まった際にはブラジル国内でも賛否が分かれたほどですから、これも塩貝選手の認識は決して的外れではありません。

 しかしながら、ここに大きな問題が生じます。
「対戦を間近に控えた日本代表の選手として、果たして本当に口にすべきことだったのか?」という点です。

“言ってはいけないホントのこと”が与えた影響

「昔のネイマールでしょ」塩貝健人の“正論”が招いた最大のミスとは。ブラジルを勢いづけた、代表選手として“最悪”なタイミングと言葉
画像:株式会社AbemaTV プレスリリースより
 塩貝選手の発言が“間違っていない”というのは、あくまで部外者である評論家的な視点によるものだということです。試合をする当事者が、このように“言ってはいけないホントのこと”を話すことは、対戦相手にどのような影響を及ぼすでしょうか?

 ご存知の通り、この発言はブラジル代表の選手たちの闘志に火をつけ、「絶対に負けられない」という覚悟を植え付けました。日本に先制された後、“ブラジルらしからぬロングボール”を放り込む戦術を徹底してきたのも、この覚悟と決意がもたらした変身だと言えるでしょう。

 つまり、塩貝選手がブラジル代表とネイマール選手を“正確に”評論してしまったことで、その評価を上回るだけのエネルギーを与えてしまった可能性すらあるのです。

 現場の最前線にいる人間の選択として、塩貝選手の発言は完全に間違っていたと言わざるを得ません。言葉の内容と論理において正確すぎたがゆえに、大局的な戦況を不利に陥らせてしまった。大炎上を受け、塩貝選手は真意とは異なる切りとられ方をしたと訴えていましたが、時すでに遅し。確かに発言の一部分ですが、ブラジル代表の歴史とその象徴的な存在を軽んじたという事実までは訂正できません。

 もちろん、塩貝選手なりにチームを鼓舞したいという思いがあったのかもしれませんが、相手を落とす形の論法は、あまり筋がよくありませんでした。

美味しいキャッチフレーズと決定的な間違い

「だったら、日本のメディアも報じなければここまで大事にならなかったのに」とメディアの責任を問う声もあるでしょう。

 ですが、塩貝選手の「昔のネイマールでしょ」は、それだけキャッチーで、見出しに使えるパワーワードだったのです。こんなに“おいしいキャッチフレーズ”をお蔵入りにしてしまっては、それこそメディアの存在意義が問われます。
報じられるのは必然だったと言えます。

 評論家的なクールな言語感覚を、勝負の現場で使ってしまった。この判断こそが、決定的な間違いでした。塩貝選手の大炎上は、成長著しい日本代表にとって、高くついた想定外のアクシデントだったと言えるでしょう。

文/石黒隆之

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4
編集部おすすめ