「あのまま会社にいれば良かった」――そう振り返る人は、意外と少なくないのかもしれません。ただ、その理由が「うまくいかなかったから」ではなく、「うまくいっていたのに、思わぬ落とし穴にはまったから」だとしたら、どうでしょう。

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東京商工リサーチによれば、2025年に早期・希望退職を募集した上場企業は43社、その人数は1万7,875人にのぼり、前年から約8割も増えました。会社に残るか、外に出るか――中高年がその選択を迫られる場面は増えてきているようです。

今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードのなかから、53歳で早期退職し、フリーの技術者として独立した男性の話。腕にも人脈にも自信があり、実際に独立当初は順調そのものだったといいます。それでも彼は「会社に残るべきだった」と後悔することになりました。

記事後半では、独立した中高年が“落とし穴”にはまりやすい、ちょっと意外な理由もお伝えします。

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順調に出世するも管理職は肌に合わず…

53歳で早期退職した男性が「会社に残るべきだった」と心底後悔した理由。独立当初は順調だったが、思わぬ落とし穴が…/脳血管疾患の平均入院日数は68.9日。フリーランスが直面する現実
※画像は生成AIによるイメージです
仕事をするなかで実力をつけ、フリーランスとして活動する人は珍しくない。荒川敏行さん(仮名・50代)もその1人だ。ただ、一寸先は闇。思いもよらぬ理由で独立を後悔する羽目になったのだという。

学生時代からパソコンが好きで、システムエンジニアになる夢を抱いていた荒川さん。新卒時の就活はまさに氷河期を迎えていた世代だが、無事第一志望のIT会社から内定をもらえたそうだ。

「入社後はプログラミングに熱中し、トントン拍子に出世することができたんです。
新しい技術を得ることが楽しく、長時間の作業も全く苦にならなかった。気がつくと会社では1番の技術者と言われるようになり、45歳で部長に。昇進後は、マネージメント業が中心となったんですが、これが肌に合わなくて……。言うことを聞かない、技術力が低い、仕事のメンバーをまとめられないといった、部下の指導法に頭を悩ませる日々でした。これ以上の出世も望めず、『もう一度好きなプログラミングがやりたい』と思うようになったんです。そこで会社の設立を念頭に入れ、フリーで活動することを決意。妻も理解してくれたため、早期退職することにしました」

激務をこなすうちに脳梗塞で入院

53歳で早期退職した男性が「会社に残るべきだった」と心底後悔した理由。独立当初は順調だったが、思わぬ落とし穴が…/脳血管疾患の平均入院日数は68.9日。フリーランスが直面する現実
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53歳で晴れて独立を果たした荒川さん。当初は極めて順調にことが進んだという。

「得意先に退職の挨拶をしたところ、前の会社でお世話になった人々から仕事の依頼が複数入りまして。『全て自分でやらなければいけない』というプレッシャーはあったものの、滞りなく納品を続けられました。ありがたいことに良い条件で『うちに来ないか?』と言ってくれる会社もあって。前職と変わらないくらい稼げていたので、早期退職して良かったなと心から思っていました」

フリーの技術者として充実した日々を送っていた荒川さんに、突然不幸が襲いかかった。

53歳で早期退職した男性が「会社に残るべきだった」と心底後悔した理由。独立当初は順調だったが、思わぬ落とし穴が…/脳血管疾患の平均入院日数は68.9日。フリーランスが直面する現実
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53歳で早期退職した男性が「会社に残るべきだった」と心底後悔した理由。独立当初は順調だったが、思わぬ落とし穴が…/脳血管疾患の平均入院日数は68.9日。フリーランスが直面する現実
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「ある日意識がプツっと切れ、気がついたら病院のベッドで……。
私は仕事のことが気がかりで、妻に聞くと『そんなことは気にしないで。脳梗塞で死ぬ寸前だったのよ』と告げられました。納期が迫っていた仕事もあったので、こうしてはいられないと思い、『すぐに仕事をしなきゃ』と起き上がろうとしたのですが、どうにもこうにも動けないんです。後遺症が残ると、SEの仕事ができなくなるかもしれないし、会社員ではないので働いていない間は収入も入ってこないし……。命は助かったけれど、仕事という生きがいを取られたような気がして、絶望的な気分になりました」

体力の衰えや病気までは予想できなかった

その後、残念ながら仕事に戻ることはできなかったという。その時の後悔をこう語る。

「私は這ってでも働きたいという気持ちだったのですが、身体が言うことを聞いてくれない。医師からはリハビリで最低3週間程度は入院が必要と言われて、頭が真っ白になりました。思えば部長としてのマネージメント生活から一変、現役SEとして、納期厳守で深夜まで作業することも多く、老体にムチを打って仕事をしていた。いろいろと無理がたたって、病に倒れてしまったんだろうと思いました。

53歳で早期退職した男性が「会社に残るべきだった」と心底後悔した理由。独立当初は順調だったが、思わぬ落とし穴が…/脳血管疾患の平均入院日数は68.9日。フリーランスが直面する現実
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病院で過ごすうちに、自分の命を心配してくれる妻の存在がありがたいと感じるようになりました。思えばフリーになってからは私が仕事最優先で、妻と旅行に出かけることはもちろん、顔を合わせて会話をすることもなかった。本来なら離婚されてもおかしくないのに世話をしてくれるわけで……。
一度は死んだ身ですし、家族を大事にすることにして、会社の設立も諦めることにしました。

早期退職をしていなければ、脳梗塞にならなかったかもしれないという後悔はあります。自分の技術力や人脈には自信があったし、実際上手く行っていたけれど、体力の衰えや病気までは予想できなかった。会社員のままなら、休職という手段もあって、収入ゼロにはならなかっただろうし……。後の祭りですね。とりあえずしばらくゆっくりして、この状態でもできる仕事を探してみるつもりです」

早期退職にはさまざまなリスクがつきまとう。とくに高齢でフリーに転身する場合は、体調や身体の衰えも考慮する必要がありそうだ。

53歳で早期退職した男性が「会社に残るべきだった」と心底後悔した理由。独立当初は順調だったが、思わぬ落とし穴が…/脳血管疾患の平均入院日数は68.9日。フリーランスが直面する現実
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<TEXT/佐藤俊治>

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■もし1か月以上、働けなくなったら

荒川さんの話、少しゾッとした方もいらっしゃるかもしれません。腕も人脈もあった人が、たった一度の入院で人生設計を組み直すことになる――。読んでいて、決して他人事とは思えない、という方も多いのではないでしょうか。

厚生労働省の「患者調査」(令和5年)によると、退院した患者さんの平均在院日数は、全傷病で28.4日。ところが脳血管疾患に限ると68.9日と、2倍以上に跳ね上がります。
荒川さんが医師から告げられた「最低3週間」は、あくまで最短の見積もり。平均で見れば、その倍以上の期間、収入ゼロの日々が続く計算になります。

しかも、会社員なら健康保険から「傷病手当金」が支給されますが、自営業やフリーランスの多くが加入する市町村の国民健康保険には、原則としてこの仕組みがありません(コロナ禍の特例など、一部例外はあります)。同じ病気で倒れても、会社員とフリーランスでは、“働けない間の景色”がずいぶん違って見えるのです。

独立を考えるとき、私たちはつい技術力や人脈、貯金の額ばかりを気にしてしまいます。でも、「倒れた月の生活費は、どこから来るのか」まで確かめている人は、意外と少ないのかもしれません。荒川さんの後悔がそっと教えてくれるのは、たぶん、そういう当たり前のことなのでしょう。

53歳で早期退職した男性が「会社に残るべきだった」と心底後悔した理由。独立当初は順調だったが、思わぬ落とし穴が…/脳血管疾患の平均入院日数は68.9日。フリーランスが直面する現実
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<再構成/日刊SPA!編集部>

【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など
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