別れは辛いものです。どちらか一方に理由があったとしても、関係が終わる瞬間には、納得・悲しみ・怒り・後悔など、さまざまな感情が入り混じります。

 そして、時にはどちらかの感情が爆発し、取り返しのつかない事件や事故に発展するなど、恋愛というものは、紙一重で様々な修羅場を迎えることがあります。

 そんな中、ある痛ましい事件がきっかけとなり、2000年に『ストーカー規制法』が制定されました。その後も、時代の変化や凶悪事件の発生事例に合わせて幾度となく改正されています。

 今回ご紹介する事例は、異常な執拗さを持つ恋人に別れを告げたものの、AIを悪用した前代未聞のリベンジに恐怖し、最終的に警察の力を借りて解決へと導いた男性のエピソードです。

 またもや法改正が予測されそうなこの展開、決して他人事ではないような気がします。

幸せな社内恋愛が一転、エスカレートする執拗な束縛

 都内のIT企業に勤務する加藤さん(仮名・23歳)は、学生時代のインターン期から現在の彼女と意気投合していたといいます。そのまま二人はその会社に入社し、同じ部署に。やがて自然な流れで正式に付き合うようになったそうです。

「最初はすべてが順調だと思っていました。彼女は見た目も完全に私の好みで、公私ともに最高のパートナーを見つけたとはしゃいでいたんです」

 しかし、幸福な時間は長くは続きませんでした。

 交際から数ヶ月が経った頃、加藤さんは彼女の言動に強い違和感を覚え始めたと語ります。その原因は、彼女の度を越した「執拗な束縛」でした。

「とにかく離れている時の監視の目が異常でした。
仕事が終わって一歩でも離れると、ひんぱんに『今何してる?』『何食べた?』『どんな気持ち?』といったLINEが何十件も送られてくるんです。すぐに返信しないと激しく責め立てられました」

 このままでは私生活の平穏が保てないばかりか、同じ部署での仕事にも重大な支障が出てしまうと危機感を抱いた加藤さん。

 精神的にも追い詰められ、ある日、勇気を出して彼女に別れを告げる決意を固めました。

ChatGPTのアドバイスを胸に別れを告げた

 ある日の会社終わり、加藤さんは彼女をオフィスの近くにある公園へ呼び出し、これまで溜め込んできた胸の内を赤裸々に語ったといいます。

「別れを告げる時は、曖昧な言葉でお茶を濁すより、はっきりと冷徹に伝えた方が効果的だということを、ChatGPTのアドバイスで読んでいたんです。だから、あえて少しキツ目な言葉を並べたんです」

 LINEも完全にブロックしたその翌日、彼女はショックからか会社を欠勤したようですが、その後はまた今まで通りに何事もなかったかのように出社するようになりました。

 社内で顔を合わせても取り乱す様子はなく、加藤さんも「ようやく別れを受け入れてくれたのだ」と胸を撫で下ろしていました。

 ところが、別れから1週間ほどが経過したある日、唯一この失恋の経緯を相談していた会社の親友から、驚愕のLINEが舞い込んできたのです。

「『おい、お前彼女と別れたんじゃなかったのか? この前ディズニーランドに行ってるじゃん』って、1本のURLと一緒にメッセージが届いたんです」

投稿されていた生成AIを悪用したフェイク画像

「恐る恐る送られてきたリンクを開いて、目を疑いました。そこには彼女の公開SNSアカウントがあり、シンデレラ城をバックに、私と彼女が親しげに肩を組んで笑顔で写っている写真がアップされていたんです」

 よく見ると、それは紛れもなく加藤さん自身の顔でした。しかし、撮影された記憶はどこにもありません。

「すぐに、それが生成AIを使って精巧に作られたフェイク画像だと確信しました。社内で盗み撮りされた私の顔写真か、過去の写真を素材にして、AIで『私と彼女がデートしている画像』を捏造していたんです」

 彼女の異常行動はそれだけに留まりませんでした。

 LINEをブロックされ、現実世界で拒絶された腹いせなのか、その後も彼女のSNSには『週末にドライブデート』『カフェで仲良くランチ』など、ありもしない加藤さんのプライベート画像が次々と投稿されていったそうです。


警察の介入で形勢逆転。完全終結した二人の関係

 精神的な限界を感じた加藤さんは、これ以上の放置は危険だと判断し、警察署の生活安全課へ相談に駆け込みました。

 対応した警察の担当者は、集められた証拠画像を確認すると、非常に真剣な面持ちでこうアドバイスをくれたそうです。

「『これは立派なストーカー行為にあたります。さらに肖像権の侵害や名誉毀損にもなり得るため、絶対に放置してはいけません』と言ってくれました。

 警察側から、これ以上投稿を続けるなら法的措置をとるという警告の一報を彼女に入れると約束してくれたんです」

 警察への相談後も、彼女が自発的に狂気の投稿を止める気配は一切なかったため、予告通り警察から彼女の元へ厳重な通達が入ることとなりました。国家権力からの突然の警告は、元カノにとって絶大な効果を発揮したようです。

「警察から直接指導が入った途端、あれほど頻繁に更新されていた彼女のSNSはピタッと途絶えました。フェイク画像もすべて削除され、ネット上の『バーチャル彼氏』はようやく消滅したんです」

 さらに驚くべきことに、警察沙汰になったことで観念したのか、彼女はそれから数日もしないうちに、会社を依願退職していったとのことです。

 ようやく訪れた本当の平穏に安堵の表情を浮かべていました。元恋人への執着から一線を越え、AIを悪用してまで現実逃避を試みたストーカー女性には、警察の介入という最も手痛い社会的お仕置きが下されたそうです。

ストーカー規制法の改正に思うこと

『ストーカー行為等の規制等に関する法律』という法律は2000年5月24日に制定され、同年11月24日に施行されました。


 すでに26年の年月が経過しており、今日に至るまで内容の改正が随時行われています。

 それは、主にテクノロジーの進化に追従するもので、『SNSメッセージへの執拗な書き込み』や『紛失防止タグ』の悪用など、本来は日常生活の利便性を向上させる目的でこの世に送り込まれたツールに対する規制が制定されているという有様です。

 総務省は、AI技術を使って実在しない画像や動画を生成し、本人が実際にはしていない行動や発言を本物のように見せる手法について、社会的な混乱や権利侵害につながるリスクを指摘するなど、これらもまた規制の対象なることは時間の問題ではないでしょうか。

 男女の問題は、時として悲しい事件を巻き起こすことが少なくありません。だからこそ、便利なツールだけに頼らず、誠意をもった接し方が要求されるのではないでしょうか。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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