電車の中で、目の前に立った人に席を譲るかどうか。声をかけるまでに、少し迷うことがあります。

「アンタじゃねぇよ!」満員電車で妊婦に席を譲ったら…座った“...の画像はこちら >>
内閣府が2020年に行った「公共交通機関利用時の配慮に関する世論調査」で、優先席に座っているときに、高齢者や障害者、妊産婦など優先席を必要とする人が近くにいると気づいたら席を譲ろうと思うか聞いたところ、「譲ろうと思う」は57.7%でした。「どちらかといえば譲ろうと思う」を合わせると、72.0%になります。

今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、電車で席を譲った男性2人の話。満員電車で妊婦さんのために立ち上がったときと、斜め前に立った女性に「どうぞ」と声をかけたとき。どちらも、思ってもみない展開が待っていて…。

記事の後半では、席を譲るのをためらうのはどんなときなのかを調べてみました。

*  *  *

①妊婦に譲った席を横取りされ…


「アンタじゃねぇよ!」満員電車で妊婦に席を譲ったら…座った“まさかの人物”に絶句/席を譲るのをためらうのはどんなときか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
 テレワークが普及する以前、今よりも通勤ラッシュがずっと過酷だった頃のこと。中川浩二さん(仮名・40代)は、第一子が生まれたばかりだった。

 中川さんは、毎朝確実に座れる電車を選び通勤していたという。

 ある朝、肩が触れ合うほどの混雑だった。そこへ、妊婦が乗り込み、中川さんの斜め前の吊り革をつかみ、わずかに息を整えていた。

「妻が、出産直前まで働いていたときの姿が重なりました」

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 中川さんは反射的に立ち上がり、空けた席を指して妊婦に声をかけた。

「妊婦さんは驚いて一度は首を振ったのですが、再び声をかけました」

 そして、妊婦が「ありがとう」と言いかけた次の瞬間……。


「アンタじゃねぇよ」と一喝


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 ドスッという鈍い音とともに「ふぅぅぅ」というため息が聞こえてきた。視線を向けると、サラリーマン風の男性がヤレヤレといった表情で、その席に座ったのだ。

「アンタじゃねぇよ!」

「自分でも驚くほどハッキリした声で言っていました」

 男性はポカンと口を開け、しばらく沈黙してから間の抜けた声で、「そうなの?」と返していたという。その“なにが悪いの?”とでも言いたげな態度に、中川さんは吊り革を握ったまま顔を近づけた。

「当たり前だ!」

 男性はようやく立ち上がろうとしたが、その動きはもたつき、中川さんの苛立ちはさらに募ったそうだ。

 ようやく席が空き、妊婦が座ったことで一件落着したのだが……。

「妊婦さんにも不快な思いをさせたのではないか……と、ずっと考えていました」

 降車駅で下車する際、妊婦が軽く会釈をしてくれた。その一瞬が、中川さんにとって唯一の救いだったようだ。

②席を譲った瞬間、返ってきたのは感謝の言葉ではなく…


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 東京メトロを利用していた川原圭介さん(仮名・30代)。午後5時過ぎ、混み始める前の時間帯だったため、問題なく席を確保できた。スマートフォンを見ながら車内でくつろいでいたが、2駅ほど過ぎると徐々に人が増え、座席はすべて埋まり、吊り革につかまる人も多くなってきたという。

「ふと顔を上げたら、斜め前に女性が立っていたんです。“65歳くらいかな”と思いましたね」

 髪型や服装はきちんとしていて上品そうな雰囲気の女性だった。「高齢者」という意識はなかったが、子どもの頃から“目上の人には席を譲る”という習慣が反射的に動き、川原さんは立ち上がった。


「どうぞ」

 そう伝えた次の瞬間、女性は眉間にシワを寄せ口元を締めた。

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「結構です。そんなに老けて見えますか?」

 その場にそぐわない大きな声が車内に響き、空気がピリついた。近くの乗客たちの視線が一斉に川原さんに集まったそうだ。

今後、高齢者に席を譲れるのか…

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「恥ずかしさと申し訳なさで、いたたまれなかったです」

 幸い電車が止まったため、降りる駅はまだ先だったが、逃げるようにホームに降りた。電車が走り出し、川原さんがいた場所を振り返ると、譲った席は空いたまま、女性はまっすぐに川原さんを見ていたという。

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「次第に恥ずかしさよりも、怒りが込み上げてきました。私は席を譲っただけなのに、感謝どころか逆ギレされるとは思いもしませんでした」

 次に、“本当に席を譲るべき高齢者”が目の前に現れたとき、素直に行動に移せるのか……。川原さんは、不安を抱えたまま自宅の駅へと向かった。

<取材・文/chimi86>

*  *  *

■席を譲るのをためらうのは、どんなとき?

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冒頭でご紹介した内閣府の調査では、「どちらかといえば譲ろうと思う」などと答えた308人に、譲ろうと思わないのはどんな場合かも聞いています。

いちばん多かったのは「譲ることが相手に失礼になる可能性がある場合」で、46.4%でした。「声をかけるのが恥ずかしい場合」を挙げた人も26.9%いました。

この調査は、優先席に座っているときのことを聞いたもので、2020年の10月から11月に行われました。ふつうの座席で譲る場面とは、気持ちが違うこともありそうです。


■「どうぞ」と言うまでの数秒

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席を譲るのは、ほんの数秒のやりとりです。ただ、その数秒のあいだに、相手が受けてくれるか、失礼にならないか、周りにどう見られるかまで考えてしまう。調査の数字からは、譲りたい気持ちはあっても、そこで立ち止まってしまう人がいることがうかがえます。

反対に、迷わず「どうぞ」と言えたときでも、思ったとおりに受け取ってもらえるとはかぎりません。

目の前に誰かが立ったとき、すっと立ち上がれるかどうか。次に電車に乗ったら、少しだけ考えてしまうかもしれません。

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<再構成/日刊SPA!編集部>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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