元横綱・若乃花の花田虎上氏が、大相撲夏場所(11日初日、東京・両国国技館)から「ABEMA大相撲」の専属解説者に就任することが9日、分かった。ABEMAではこれまでにも相撲中継のゲスト解説としてたびたび出演してきたが、今回の専属就任をきっかけに、相撲の魅力をさらに多くの視聴者に届けていくこととなる。
花田氏がまず意識しているのは、「初心者でもわかりやすい解説」だ。ABEMAではこれまで相撲を観たことがなかった人々に届く機会も多い。「今日初めて相撲を観る人にも楽しんでもらいたい」と話す。「でも、それだけじゃつまらない。昔から応援してくれている方々にも、『なるほど』と思ってもらえるようにしたい」と付け加え、ベテランファンと新規視聴者のどちらにも響く解説を目指す。
3月の春場所では、筋肉芸人としても知られる、なかやまきんに君と共演し、ユニークなコンビ解説も話題を呼んだ。「きんに君さんは筋肉に詳しい方だから、相撲に必要な身体の使い方という視点でもいい質問が飛んでくる。それをわかりやすく伝える、という意味では、相撲ファン以外にも響く配信になったと思います」と振り返る。
NHK中継とは一線を画したスタイルもABEMAならではの魅力がある。「NHKのように正統派な解説も大事だけど、ABEMAではそれとは違う、『面白い切り口』で伝えたい」と語った。「いっしょに解説している“ABEMA所属の士”(タレントの)あかつさんと(笑)、楽しくわかりやすく伝えていけたら」と笑顔を見せる。
現役引退後は角界を離れて一般社会での経験も積んだ。それが現在の解説業にどう生きているのか質問すると、「別の世界で学んできたことが、こうして評価されてるのかなと思います。ABEMAでの活動も気づけば5年ほど。やっと新弟子検査に合格したような感覚ですね(笑)」と冗談交じりに語ってくれた。
新しい文化やツールに飛び込むにあたって最初は戸惑いもあった。「サイバーエージェントさんは若い世代の集まりという印象で、自分みたいな“昭和を背負ったおじさん”が入っていくには勇気がいりました。でも、価値観を柔軟にして、自分から順応していこうと決めたことで、今では本当にいい経験になっています」。
話す力は、芸能界で鍛えられたという。タレント業とスポーツキャスターを兼ねる中で、トークを求められる環境に長く身を置いてきた。「タレントとしては『話すこと』を軸に活動してきましたが、バラエティの世界は毎日が勝負。自分にはあまり向いてなかったのかもしれませんね。でも、その経験が今の解説にも活きていると思います」。
中でも影響を受けた人物として名前を挙げたのが、上沼恵美子さんだ。「9か月ほど一緒にお仕事をさせていただいたことがあって。当時は“背中を見て学べ”みたいな時代でしたが、上沼さんは言葉でしっかり引き上げてくれる方でした。ほかにも、(タレントの)明石家さんまさんの番組では多くを学ばせてもらいました」
ネット配信という新しい枠組みで活動する中、視聴者の反応から手応えを感じることもしばしばある。「NHKとは違う魅力を感じるという声もいただくようになりました。大変だけど、ちゃんと観てくれる人がいる。だからこそやりがいがありますね」
ABEMAならではのライブ感やSNSとの連動施策についても「おじさん世代としては、新しいツールに慣れるのは正直大変でした(笑)」と率直に語る。「昔は一方的に意見や情報を受け取るだけの時代でしたが、今は自分からもファンに伝えられる。そういう意味でも、本当に良い時代になったなと思います」。
最後に、視聴者へのメッセージを聞くと「楽しんで観てもらえたら、それが一番」と笑顔で答えた。「はじめは太った人たちがぶつかってるだけに見えるかもしれないけど、実はすごく高度な技術と駆け引きがあるんです。その面白さを少しずつでも知ってもらえたら嬉しい。
◇花田虎上(はなだ・まさる)。本名は花田勝。1971年1月20日、東京・中野区出身。88年春場所、弟の光司(元横綱・貴乃花)とともに、父(元大関・貴ノ花)が師匠の藤島部屋(当時)に入門。90年秋場所、新入幕。93年名古屋場所後、大関に昇進。98年夏場所後、横綱に昇進した。2000年春場所限りで引退し、同年12月、日本相撲協会を退職。現在はタレント、スポーツキャスターなどで活躍中。優勝5回。幕内通算487勝250敗124休。