櫻井かすみさん(37)の著書「母が子に伝えたい大切なお金と社会の話」(Gakken、1760円)は、子どものときからの金融教育の大切さを説く手引書だ。櫻井さん自身は、離婚、無職、貯金ゼロ2回、投資詐欺被害などを経て、今では純資産1億円を達成した紆余(うよ)曲折の経験の持ち主。
「お金の知識って、年齢問わず生きていくことに欠かせないものなんです」
櫻井さんはそう言って、幼少期からの金融教育の大切さを説いた。
「いま成人向けに株のスクールを経営してますが、みんな口をそろえて言うことは『もっと早くお金を知っておけば良かった』。子どもの頃からお金について知るだけで、人生の選択の幅が広がるのです」
本書には、生きるために必要なお金の知識を親と子で話し合う大切さが書かれている。一方で子どもにお金を教えることにアレルギーがある家庭も多い。
「今の親世代の多くは、子どもの時にお金の勉強をしてこなかった。育てる側は『お金が大事なのは分かっているけど、子どもたちにどう伝えればいいか分からない』状態だと思うんですよ」
金融教育が日本に本格導入されたのは2022年。
「高校の家庭科の授業でやることになったのですが、まだまだ日は浅い。米英では幼い頃から学校でグループディスカッションするところも多くて、海外に比べれば意識は低いのかなと」
日本の戦後から取り巻く状況も、金融教育が遅れた原因だ。
「日本は高金利の時代が長かった。あえて株式・金融投資しなくても、元本保証でお金が増えていた時代があったんですよ。つまり、銀行に預けるのが安心で、リスクを取らずにお金が勝手に増えていた。
投資を考えるための前段階として、子どもの時からお金を学ぶことが大事だという。
「投資は、小さな失敗を繰り返すことも大切。子どものうちからお金に接して小さい失敗をすれば、自分で考えて行動でき、大人になって大きい失敗を未然に防ぐことができます。でも、大人になってお金の使い方を分からなければ『過去の私』みたいに投資詐欺にあったり貯金ゼロになってしまったりする」
過去の私…。櫻井さんの投資哲学には、これまでの経験が色濃く反映されている。
「大学卒業後に製薬会社で働いていましたが、20代半ばで結婚して寿退社しました。ところが1年足らずで離婚。貯金が0になって一人暮らしができずに実家でニート生活。ふさぎ込んで鬱々(うつうつ)としていました」
このままじゃいけない。一念発起し、さまざまなバイトを経験した。
「派遣社員やパートをした後、外資系製薬会社の営業として正社員で中途採用されました。
当初の投資は地獄の連続だった。
「仕事で300万円ためることができたんですけど、つぎ込んだ投資がことごとく詐欺案件。全額なくなっちゃいました」
どういうダマされ方を?
「海外の未公開株ですね。公開されて2~3年で10倍になるよと。あとは海外の未公開社債とか。そういうのに計3件、100万円単位でつぎ込んでそれが全部投資詐欺。“主犯”の方たちが続々と海外逃亡という、絵に描いたようなパターンでした。今なら一番やっちゃけない案件だって分かるんですけど…」
2度目の貯金ゼロ経験。どん底で学んだ。
「私の人生、すべてが他責思考だった。
勉強のために投資スクールへ入学。当初学んだのは、デイトレードだった。
「ハイリスク・ハイリターンのカテゴリー。学ぶまでは良かったのですが、デイトレード投資に夢中になりすぎました。寝不足になり、業務に集中できず。会社で倒れて救急車で運ばれました。それも2回」
高度なスキルと時間が必要なデイトレードは、負担が大きすぎた。
「命削って収支はトントン。どかんと儲(もう)かるけどマイナスもすごくて、こんなに精神をすり減らしても全然増えない。やり方が間違っていたことに気づきました」
物事は何事も順番が大事。
「最初からハイリスクは良くない。土台を作る堅実な資産運用をやらないといけなかった。そこから別のスクールに入り直し、イチから米国株・日本株・投資信託を学んでいきました。27歳くらいの時です」
土台からコツコツ。
「守るところは守って、だけどリスクを取るときは破産しないパーセンテージ―私の場合は全体の2~3割―の範囲でやっていく。無理をしない手法で、少しずつ資産を増やしていきました」
その結果、30代半ばで純資産1億円を達成。働いていた会社も辞め、今は自分自身が投資スクールを設立している。
「利潤を増やすだけを求めたら、1億のあとは2億だ3億だーって、永遠に追い求め続けちゃう。私の経験上、数字増やしゲームは幸せになりにくいと思うんですよ。使い切れないほどお金はあるのに使えない、なぜならお金を増やさなきゃいけないから…みたいな。お金は一つのツール。その先の、お金を使ってモノやサービスを得て、どう幸せになるかが一番重要でしょう?」
お金の量と幸せの量は必ずしも比例しない。
◆櫻井 かすみ(さくらい・かすみ)生年月日非公表。37歳。大学卒業後、新卒で製薬会社に入社。結婚を機に退職するも1年で離婚を経験し、その後は外資系製薬会社に8年勤務。SNSで投資系インフルエンサーとして活動しながら、23年から「投資の学び舎スクール」を立ち上げ、代表取締役就任。24年から株式会社トウシナビを設立した。
◆櫻井さんが選ぶ おすすめの一冊
◆「きみのお金は誰のため」田内学(東洋経済新報社)
今さら聞けない現代の「お金の不安や疑問」を物語で楽しく解説する本です。私が今回の著書を書こうと思えたきっかけを作ってくれた本ですね。
お金と社会のつながりというか、お金の先には必ず人がいるんだよっていうのが分かって、ハッとなってしまいました。読んだのは2023年の秋くらいです。