◆明治安田J1リーグ ▽第17節 町田3―0柏(17日・Gスタ)

 町田はホームで柏に3―1で快勝した。前半4分にDF林幸多郎が先制弾、同16分にFWオセフンが追加点を決めて、開始20分もたたないうちに2点のリードを奪う。

さらに、前半アディショナルタイム(AT)にはFWナサンホがPKを決めて、今季最多の3得点を前半だけで奪った。

 守っても前線からの積極的なプレスと球際の強度で柏を圧倒。黒田剛監督が試合後の会見も「昨年までやっていた町田の良さを、しっかりと彼らの気持ちともに前面に押し出してくれた。今日のサッカーが町田のサッカー」と絶賛するほどの好ゲームを見せて、第8節G大阪戦(1〇0)以来9試合ぶりのクリーンシート(無失点)を達成した。

*  *  *

 特別な思いで試合に臨んでいる選手が町田にはいた。主将の元日本代表DF昌子源だ。なぜ期する思いがあったのか。それは前節の清水戦(2△2)まで遡る。

 清水戦前までチームは2連敗。特にホームで臨んだ京都戦(1●2)は先制しながらも後半に追いつかれ、後半ATに逆転負け。その前には黒田剛監督就任以降初の3連敗も経験するなど、チームとして苦しい状況が続いた。当然、責任感の強い昌子も危機感を募らせていた。

 そんな中、アウェーの清水戦で町田は一度追いつかれるも、電光石火の攻撃で後半22分にDF林幸多郎がゴールを決めて、再びリードを奪った。この試合は勝てるのでは、という空気も流れる中、同39分に清水のMFカピシャーバが上げた左クロスは昌子がマークにつくFWドウグラス・タンキのもとへ。昌子の必死のディフェンスもむなしく、同点弾を沈められた。

 課題に挙がっていたクロスの対応、さらに試合終盤での失点。そのどちらも遂行されなかった。試合後、昌子は肩を落とし、険しい表情で取材エリアに現れた。試合の振り返りを問われると、「試合の内容はちょっとあまりしゃべれる状況じゃないかな。最後僕のマークだったので、ちょっと考えることがいっぱいあって」と言及しなかった。その代わりに、「チームを勝たせられないキャプテンは必要ない」、「このままだと自分の、町田のキャプテンとしての存在意義がない」などと、自身の“主将”としての姿を強く非難。自身で責任を一身に背負い、自らを鼓舞した。質問に答える形式ではなく、昌子がジャスト2分間、1人で話し続けた。現場で取材していた私は取材が終わり次第、最優先で昌子のコメントを記事にした。

*  *  *

 清水戦を終えた町田は14日、東京・町田市内の練習場で柏戦へ向けた公開練習を行った。公開練習後にはファンサービスが行われるが、そこで昌子は女性ファン2人からそれぞれ手紙をもらったという。自身の清水戦後の発言について「自分がキャプテンに向いていないと言ったつもりは、もちろんない。このままじゃ、キャプテンとしての僕の中での存在意義がないと(いう意味)。だから次の試合はキャプテンとして、チームを勝たせるプレーをしたい」と意図を説明すると、2通の手紙が与えた影響を語った。

 「どう思ってくれたかは分からないですけど、僕がキャプテンに向いていないって自分を責めたように捉えたかもしれないですけど、すごくありがたい2通の手紙をいただきました。自分の中でぐっとくるものがあったので、その手紙を大事に取っている。(普段は)手紙なんてもらわない。(期待に)応えないという思いがあった。『絶対今日俺はやってやる』と、周りに言っていたわけではないですけど、今日は絶対に自分の存在を前面に押し出さないといけないなと。チームを助けないといけないなと思っていたので、良かったです」

 柏戦後の取材エリアで一度は一言のみで終わらせようとしたが、テレビ取材の後、報道陣の要望に応えて自身の思いの丈を語った。言葉の通り、とにかく気合を前面に出したプレーを終始行い、主将としての姿を見せつけた。

*  *  *

 町田の大黒柱として、チームにチャレンジャー精神の必要性を説くなど、常にチームのために尽くしてきた。練習での取材、試合後の取材でも自然と昌子のもとに報道陣の輪は広がる。町田の担当になってから、まだ私は半年足らずしか取材していない。短い期間ではあるが、常に自分で責任を背負うこと、そして常に誰かの期待に応えようとする昌子の魅力的な姿を何度も見てきた。柏戦を終えた後も「これを続けないと意味が無い。次、僕が大きなミスをしたら、それこそ存在意義がない。このパフォーマンスを続けられるように頑張って行きたい」と決して満足はしていない。

 GK谷晃生、DF中山雄太、FW西村拓真、FW相馬勇紀ら、現役の代表クラスが町田にはそろっている。昌子も自身のリーダーシップを問われると、常々他の選手の名前を挙げ、自身ではなく彼らを称賛する。それほど信頼しているからだ。しかし、どれだけ他の選手が優れていようとも、本人の意思が続く限り、町田の主将は「昌子源」しかありえない。清水戦からの1週間を経て、改めてそう感じた。

(町田担当・浅岡 諒祐)

編集部おすすめ