◆明治安田J1リーグ ▽第17節 町田3―0柏(17日・Gスタ)

 【町田&柏担当・浅岡諒祐】雨がこの試合の命運を分けた。そんな試合展開だった。

町田は前半4分にDF林幸多郎がゴール前の混戦から押し込み幸先良く先制すると、同16分にはFWオセフンが追加点を押し込む。前半アディショナルタイム(AT)にはFWナサンホがPKを決めて、今季最多の3点目。守備でも前線からの積極的なプレスと球際への強度の高さがさえわたり、試合を支配した。

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 町田の黒田剛監督には明確な狙いがあった。雨の降る野津田。雨でぬれている芝。黒田監督はある光景を見た。「ベンチからピッチに向かって右側に水たまりがいくつか見られた。そこで、おそらくディフェンスラインからのビルドアップに多少難しさが出てくるんじゃないだろうか」。天気予報では後半になれば雨が止み、ピッチ状況も良くなるはず。前半のうちに優位な試合展開に持ち込めば、そこでたたみかけることが出来る。そう考えた黒田監督は、したたかに勝利への道筋を立てた。

前半はホームのゴール裏へ向かって攻め、後半にアウェーのゴール裏に攻めるという、通常とは逆のピッチの使い方をしよう、と。

 どちら側に攻めるかは、試合前のコイントスで決める。これは完全に運。指揮官はDF昌子源にプレッシャーをかけた。昌子は「コイントスは仕方ない。全然プレッシャーになってないです」と笑いながら、こう振り返る。

 「レフェリーが持っていたコインが濃い青と黄色だった。(コイントスの前から)俺がコイントスを取ったかのように(監督は)話しているんですよ。『(僕が)取ったらね』って話しているんですけど、『前半はあっち(ホームゴール裏)に攻めるから』と、決まったように話しているから。下手したら、その時点でこうなることになっていたかもしれん。前半始まる前から言っている。それで、『源、お前日頃の行いだぞ』って言われて。

(コインが)ぱーんってなったときに、初めてコイントスで『来い、青』って思いましたね。それで青だった」

 その狙いは見事に的中した。水たまりにより時折パスが止まるピッチ状況では、柏の持ち味であるパスサッカーの威力は半減。そこに町田の特長である球際の強度が復活した。ディフェンスラインから徐々に前線に持ち出すのが柏の攻撃の特徴だが、この状況ではまるでその良さが発揮されなかった。

 プレスの掛け方も黒田監督はフォワード陣に訓示を与えた。

 「ボールが止まることも想定、それからスリップで滑ることも想定しながら、(プレスを)かけ続けること。何が起こる分からない、起こってから反応するようでは遅い。だから信じてかけ続ける。繰り返し、繰り返しかけ続ける。自分の背後にボールが行ったら、まずは100%戻る、帰る。そして守備の陣形を早く形成して、そこからもう1回プレスをかけていく。

それをまず90分やろう」

 後ろからのビルドアップがままならない中、FWオセフンを含めて前線から激しいプレスが終始かかる。苦し紛れのロングボールを放っても、DF岡村大八、DFドレシェビッチ、そして昌子が押し返し続けた。GK谷晃生は「前線の選手のプレスの掛け方や強度があったからこその、前線に入ってからのボールのつぶし方につながった。攻撃の面でもすごく収まりが良かった。もちろん全員良かったのはもちろんですけど、前線の選手が特に良かった」と称賛した。町田に優位な状況がそろっている。そんな試合運びだった。

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 雨でとにかく苦戦を強いられた柏側はどうか。3バックの右でプレーした主将DF犬飼智也は、どうパスを組み立てるかの判断の難しさ、強度の高いチームへの対応の難しさを痛感した。

 「特に前半、うちの自陣は水がたまっていて、キーパーを入れてまでの判断は難しかった。そこで普段通りに戦いきれませんでした。ピッチ状況によって、少しあんぱい(安全牌)にじゃないですけど、判断をいつもより前にしました。

(ボールを)つなげるとなった時にはつなぐチャレンジをしていた。そこでの背後へのボールの質だったりで相手に上回られた。ピッチ状況も含めて、相手の方が少し有利になってしまいました。

 ただ、そこで言い訳は出来ない。自分たちが町田とか、それこそ鹿島とかに今季2敗している中で、強度だったりロングボールが多いチームに敗戦しているのは目を向けなきゃいけないところだと思う。そういう相手に対してもどこまで自分のサッカーをチャレンジ出来るのか。もっともっと強度を出すのは当たり前ですし、そういうところかなと。うまく行っていないゲームでも勝ち点を持ってこれる勝負強さとか、優勝するためにはまだまだ上げていかなければいけない部分。そこの課題が明確に出た。練習から取り組んでいかないといけないと思います」

 ボランチとして、前線との架け橋を担った185センチのMF熊坂光希は、ピッチ状況に一切の言い訳を述べず、課題を語った。

 「相手の特長を出させないようにする戦い方とか、自分たちが下からつなぐことを、雨の中でもそれをやるのかということを状況で判断しながらやらないといけないと思う。シンプルに球際の部分とか、セカンドボールの反応とかを相手の方が強度を上回っていた。

そういうところも上げていかないといけない」

 リカルド・ロドリゲス監督も中2日の過密日程については言及すれども、ピッチ状況ではなく試合の入り方で上回られたと分析した。

 「ピッチコンディションを考慮した形でゲームプランを変更した部分はありません。もちろん、今回はピッチコンディションがある程度我々のプレーに影響を及ぼしたというのはあるかも知れませんが、今日の敗退に影響したかという決してそうではない。今日に関して言えば、試合のスタートから町田さんがいいスタートを切り、そして決定力の高さを証明した、そういう部分が今日の試合の結果につながったかと思います。同じピッチで両チームもプレーしていますから、ピッチコンディションは、どちらかというとチームに大きな影響を与えたかというと、決してそうではなかったと思います」

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 試合終了の時には雨が上がり、太陽の光が差し込んでいた。町田にとっては苦難を脱した光、柏にとっては今後さらに成長する兆しの光のように感じた。両クラブとも担当であるため、ひいき目はあるが、攻守にさえる両チームの上位争いをシーズン終盤に見たい。

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