プロボクシングのWBC世界バンタム級王者・中谷潤人(27)=M・T=が、6月8日に東京・有明コロシアムで行われるIBF王者・西田凌佑(28)=六島=との王座統一戦に向け、米ロサンゼルスで今回も強化合宿を実施した。ロスは15歳の時にたった一人で渡った思い出の地。

今、感じることを発信するコラム「中谷潤人 BIG BANG!」の第2回は、親友や恩人への感謝をつづり、統一戦やスーパーバンタム級世界4団体統一王者・井上尚弥(32)=大橋=戦への思いを明かした。

**********

 こんにちは、中谷潤人です。先月20日からのロス合宿では充実した練習ができました。15歳の時から指導を受けているルディ・エルナンデス・トレーナーや岡辺大介トレーナーのもと、西田選手と同じサウスポーの選手もたくさん来てくれて、実戦練習を重ねました。

 井上尚弥選手との対戦構想が米国でも注目されているようですが、現在の僕の中では、井上選手の存在は頭の片隅にあるという程度。今は本当に、西田選手にフォーカスしてやっているからです。井上戦という道筋があるので、そのためには一戦一戦、いいパフォーマンスをして、成長しながら価値を上げていくことが大事になってきます。西田選手に集中する練習は、いつか井上選手と戦うという時に、しっかり生きてくるもの。そして、井上選手と戦うとなったら、もちろん負けない気持ちでいます。

 井上―カルデナス(米国)戦【注1】はチームと一緒に見ました。2回にダウンを喫しても、その後の修正能力というのが、井上選手の強さだと感じました。カルデナス選手の左フックは、僕が23年5月のアンドルー・モロニー(オーストラリア)戦で12回KO勝ちした時のフックと当てる角度が似ていると指摘されています。

井上選手は当然、そこは対応してくるでしょう。僕は一つのフックに頼らず、あらゆるパンチで倒せるよう、たくさんの引き出しを持って、その精度を上げていかないといけません。カルデナス戦はいろいろとイメージできた試合。井上選手と戦うことになった時、練習に生かすための素材になります。楽しみにしてもらえれば。

 注目と言えば、今回の合宿では、声を掛けられる機会が増えました。ジムでは出待ちされる方も。今まで出待ちなんてなかったので、とても驚きました。ジムから離れた場所でも、道を歩いていると「おお~、ジュント~」と声を掛けられたり。今年の目標として「ワールドワイド」というのを掲げているんですが、それが形となってきたのかな?

 15歳の時、一人で米国に来た時は多少の不安はありました。でも、僕はボクシングで強くなるんだと、ワクワクする気持ちや楽しみだという思いの方が上回っていました。それがエネルギーとなって、ジムに毎日通いました。

サウスセントラルという、今思うと決して治安がいいとは言えない所かもしれませんが、誰かに殴られたりとか、実際危険な目に遭ったことはありません。ジムでは殴り合っていましたけど(笑)。

 西田戦に向けては週4日、スパーリングを重ねましたが、10代の頃はほとんど毎日がスパー。トニー【注2】、エイドリアン【注3】とは親友で、今も一緒に練習します。普段はとても仲が良いんですが、ボクシングでは真剣勝負。子供の頃はトニーをボディーで泣かせたり、左ストレートでエイドリアンの鼻を折ったこともありましたね。リングに入ると手は一切抜かないので、ルディからは最近、「ジュントはリングに上がると悪魔になる」などと言われて…。僕には「BIG BANG」という愛称ができたので、「DEVIL」というあだ名は勘弁して~。

 ルディのお父さん、ロドルフォさんは92歳の今も元気です。おじいちゃんの家にお世話になっていた時はジムへの送迎をしてくれたり、ミットも持ってくれました。パンチを出す指示は「9番」「12番」とか暗号みたいにして。僕がメキシコ料理店でオーダーする時によく使った番号なんです。

おじいちゃんが「ナンバー9」と言うとジャブ、「ナンバー12」はアッパーを出す。「コミダ」(スペイン語で食べるの意)はボディーでした。9番が一番多い…かな。やっぱりジャブは大事なので。

 おじいちゃんは今、左足が不自由で車いす生活なんですが、この前、お土産のピーナツを持って行ったら、座ったまま「ナンバー9」と言って、笑顔でミットの構えをするんです。温かい気持ちになりました。ロスでは友情に恵まれ、温かい人たちにたくさん囲まれています。その人たちの期待を活力にして、僕は西田戦も勝ちます。感謝! 感謝!(WBC世界バンタム級王者)

 【注1=井上尚弥―カルデナス戦】 今年5月4日(日本時間5日)、米ラスベガスのT―モバイル・アリーナで行われ、井上が8回TKO勝ちした。3年11か月ぶりの“聖地”登場の相手には当初、アラン・ピカソ(メキシコ)が予定されたが辞退。WBA1位カルデナスにチャンスが訪れた。2回、左フックでダウンを奪われた井上は7回に倒し返すと、8回にパンチをまとめてレフェリーストップ勝ち。

 【注2=アンソニー・オラスクアガ】 1999年1月1日、米ロサンゼルス生まれ。26歳。15歳から本格的にボクシングを始め、アマ戦績は22勝1敗。20年9月にプロデビュー(2回TKO勝ち)。23年4月にWBC&WBA世界ライトフライ級統一王者・寺地拳四朗に挑戦も9回TKO負け。24年7月、加納陸との王座決定戦で3回KO勝ちし、WBO世界フライ級王座獲得(防衛2回)。身長163センチの右ボクサーファイター。愛称はトニー。

 【注3=エイドリアン・アルバラード】 1998年11月21日、米ロサンゼルス生まれ。26歳。2020年2月にプロデビュー(1回TKO勝ち)。身長165センチの右ボクサーファイター。

24年10月には漫画「はじめの一歩」を読んで憧れた後楽園ホールに初登場し判定勝利。20日の2戦目は判定負け。かつて中谷との初スパーでは鼻を折られ「なんだ、こいつは。ヤバいのがいる」と驚いた。

 ◆中谷 潤人(なかたに・じゅんと)1998年1月2日、三重・東員町生まれ。27歳。中1からボクシングを始め、中学卒業後、米国で単身武者修行。2015年4月にプロデビュー。16年度全日本フライ級新人王。19年2月に日本同級王者、20年11月にWBO世界同級、23年5月にWBO世界スーパーフライ級、24年2月にWBC世界バンタム級王座獲得で3階級制覇を達成。身長173センチの左ボクサーファイター。戦績は30戦全勝(23KO)。

家族は両親と弟。

編集部おすすめ