◆大相撲 ▽夏場所10日目(20日、東京・両国国技館)

 小結・若隆景が東前頭9枚目・安青錦(あおにしき)を肩透かしで下し、2敗を死守して優勝戦線に生き残った。三役での勝ち越しは関脇だった2023年初場所以来だ。

初の綱取りに挑む大関・大の里は西前頭4枚目・一山本を押し倒し、ただ1人の初日から10連勝で後続に2差をつけて独走。1敗が消え、2敗は横綱・豊昇龍、若隆景、平幕の伯桜鵬、安青錦の4人となった。

 若隆景は信念を貫き、自らに憧れる21歳の挑戦を退けた。互いに低い姿勢での立ち合い。突っ張って攻め込んでくる安青錦に対し、巧みに右を差してからの肩透かしで仕留めた。「下からの相撲なので、それだけを意識した。前傾で勢いのある若い力士に、しっかり自分の相撲を取ろうと思った」。2敗を守り、V戦線に踏みとどまった。

 昨年7月の名古屋場所前、部屋の床山のつながりで安治川部屋に出稽古に出向いた。その時に出会ったのが当時幕下の安青錦だった。稽古で胸を出した三役経験者は「相撲もうまいし、体の力も強い。強くなるなと肌で感じた」と確信した。

本人にも「すぐ(番付は)上がるからな」と伝えた。

 直感は当たり、安青錦は新入幕の先場所で11勝して敢闘賞と一気に飛躍を遂げた。4月の春巡業。初めての巡業参加に戸惑う安青錦を見つけると「明け荷(締め込みなどを入れるつづら)を隣に置いていいよ。分からないことがあったらすぐ聞いてね」と優しく声をかけた。巡業の流れなどを教え、ぶつかり稽古では厳しく胸を出した。今場所は「対戦する番付に上がってきた。自分も負けないようにという気持ちでいた」と明かした。10日目で実現した初対戦。自身を「憧れの存在」とお手本にしてきた新星の壁となった。

 22年春場所で初賜杯を抱いた大関候補は、1年後に右膝前十字じん帯断裂の大けがを負い、4場所連続休場で幕下転落も味わった。三役での勝ち越しは14場所ぶり。

八角理事長(元横綱・北勝海)も「動きがいい。立ち合いが良くなっている」と復調に目を細めた。大関取りの起点となる2ケタ勝利と自身2度目のVも諦めない。11日目は全勝の大関・大の里との一番が組まれた。対戦成績は2勝2敗。「自分らしい下からの相撲を出していきたい」。ぶれることなく、静かに闘志を高めた。(林 直史)

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