サッカーのイングランド・チャンピオンシップ(2部相当)のリーズを世界最高峰プレミアリーグ昇格に導いた日本代表MF田中碧(26)がスポーツ報知の単独インタビューに応じた。欧州他国の1部リーグに匹敵するフィジカルやスピード、年間46試合の過酷なリーグで主軸として活躍し、優勝。

加入1年目でハードな過密日程、昇格・優勝争いを戦い抜いた収穫や苦悩について語った。(全3回の2回目。取材・構成=星野浩司、岩原正幸)

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 昨年8月。田中はドイツ2部デュッセルドルフからリーズに完全移籍した。日本人選手がいないチームに初めて在籍したが、加入した直後からチームに溶け込んだ。

 「初日からみんなが話しかけてくれて、『英語はどれぐらい話せるの?』とか、『日本食のレストランがここにあるから』って紹介してくれる選手もいた。みんな、めっちゃいいやつで、何やこいつら…と思って、逆に怖かったですよ(笑)」

 リーズの選手の出身地は約15か国と多国籍。ドイツ人が約8割を占め、主にドイツ語が飛び交ったデュッセルドルフ時代とは違い、流ちょうではない英語で互いを理解しようとする姿勢が親密さにつながった面もある。

 「デュッセルドルフの時もチームメートとめっちゃ仲良かったけど、ドイツ人の選手はドイツ人といることが多かった。深く英語を話したがるわけではないし、もちろん仲は良いけど、めっちゃ深く話すような関係ではなかった。リーズに来て(母国が)英語圏じゃない選手も多くて、向こうの英語も聞きやすい。英語でそこまで話せるわけじゃない選手同士で仲良くなりやすかった。

あと、自分より年下の選手がけっこう多かったのもあって、しゃべりやすかったのも良かった」

 リーズはロンドンから北へ車で4時間ほどのところにある地方都市だが、リーグ屈指のクラブ規模を誇る。

 「クラブハウスはバカでかくて、専属シェフが(遠征先の)ホテルでも料理を作ってくれてビックリした。グラウンドは7、8面あるし、アカデミーの選手も練習していて、クラブとしてすごくいい施設だと思う。練習場の横には(海外ドラマ)『プリズン・ブレイク』みたいな、めっちゃでかい刑務所がある。街からちょっと離れていて、めっちゃ静かな環境で練習に集中できる感じですね」

 チームの練習では、今までに味わったことがない驚きもあった。

 「練習のレベルは高い。試合数が多いから練習はあまりしない日もあるけど、コンディションだけは作りたいから、走る量は多かった。(ウォーミング)アップの時にめっちゃ走るし、みんなで連続でスプリントする。(今までの所属チームの)倍どころじゃない、もっともっと走る。アップでスプリントするチームはあまりなくて、試合前とかは(日本)代表でも最後に3、4本くらいしかやらない。めっちゃ走るやん…って思いながら、俺はそれが好き。これはいいなと思いながら走ってる」

 かつてプレミアリーグを3度制覇(68―69、73―74、91―92年)した古豪。

ファンのサッカー熱は高い。

 「リーズの人気、エグいわ…と思った。ロンドンの空港のスポーツ店にアーセナル、チェルシー、リーズのユニホームが並んでる。意味がわかんない(笑い)。クラブの歴史や規模、輩出した選手で言うと、【注】ビッグ6の次にはリーズやニューカッスル、エバートンが来るとみんな言ってる。サポーターは本当に老若男女で、(3万7890人収容のホーム)スタジアムはいつも満員。個人の選手のチャント(応援歌)は5~6人分しかないのに、なぜか俺の歌は最初からあった。うれしかったですね」

 2部とはいえ、フィジカル、スピードは欧州他国のトップリーグに劣らない中、昇格候補筆頭のチームで1年間戦い抜いた。

 「比較的ボールを持てるし、2列目に上手な選手が多いからボールを出しやすい。最初に試合を見た瞬間、絶対活躍できるわと思った。リーグは各国の代表選手も多いし、プレミアに行くために来てる選手がいて、上位争いはすごくレベルが高い。FIFAランク10~30位くらいの国の選手とか、U―20のイングランド代表選手とかいて、2部だけどやっぱりレベルは高い。

そこで試合に出続けられたのは大きい」

 チームは順調に首位を快走したが、シーズン終盤の3~4月には3戦連続ドローで一時、3位に転落した。過密日程の疲労、昇格争いの重圧に苦しんだ。

 「頑張ろうと思うけど、キツすぎて力が湧いてこないし、やる気が出ない。前から(英2部ハダースフィールドでプレー経験がある中山)雄太くんから『絶対にパフォーマンスは右肩下がりでみんな落ちる。いかに維持できるかで昇格争いは変わる』と聞いていた。パフォーマンスが落ちるのは許容範囲で、1年間通しての点数だと思っていた。『1試合悪くてもいいでしょ、自分が悪かろうがチームが勝てばいい』と思っていた」

 厳しい昇格争いを繰り広げる中、4月8日のミドルズブラ戦(1〇0)で4戦ぶりに勝利し、首位に再浮上。そこから4連勝で昇格を決めた。

 「スタジアムのファンの反応は温かいのに、一部のメディアが『やっぱり今年もプレミアに行けないのか』とか、ネガティブに報じてた。(勝ち点で)抜かれた時はけっこう焦ったし、1試合の重みを感じたけど、最後はチームも『勝てばOK』となった。ミドルズブラ戦も先制点を取ってからはほぼ守っていたし、そこは勝つことだけと割り切れた。優勝パレードには15万人が集まったみたいで、ファンと一緒に喜べたのはうれしかった」

 【下】に続く

 ◆田中 碧(たなか・あお)1998年9月10日、川崎市生まれ。

26歳。さぎぬまSCから小3で川崎の下部組織に入団。2017年トップチーム昇格。19年Jリーグベストヤングプレーヤー賞(新人王)、20年ベストイレブン選出。21年6月にドイツ2部デュッセルドルフに移籍、24年8月からイングランド2部リーズ所属。21年東京五輪に出場。22年カタールW杯1次リーグ・スペイン戦で決勝点を挙げ、16強進出に貢献。代表通算32戦8得点。利き足は右。180センチ、75キロ。

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