大の里(25)の横綱昇進、元横綱・白鵬の宮城野親方(40)の退職など、相撲界では大きな話題が続くが、両国国技館のお膝元の東京・両国でも、ちょっとした異変が起きている。先月25日をもって49年の歴史に幕を閉じた老舗「巴潟」を始め、墨田区発行の「ちゃんこBOOK」に2020年から掲載されていたちゃんこ店14店のうち5店が閉店(業態転換含む)した。

一方で新規のちゃんこ店も立て続けに開業。両国のちゃんこ業界も新旧交代の風が吹いている。(高澤 孝介、樋口 智城)

 両国のちゃんこ事情に詳しい墨田区観光協会の森山育子理事長は、老舗の閉店が相次いでいる状況について、「とあるおかみさんから聞いた話ですが…」と前置きしつつ理由を挙げた。

 《1》人手不足 「店によっては大量の鶏肉を使用し、丁寧に出汁(だし)を作っています。特に老舗は味の継承や丁寧な接客にこだわりを持つが、そのために必要な人材が働き方改革で不足しているようです」

 《2》コロナ禍 「1つの鍋を複数人で食べることに抵抗がある人が多くなったと思います。一時はどこも売り上げは壊滅的でした。今は回復していますが、コロナ禍以降、食べ方に変化が生じてきているのかもしれません」

 社会の変化は、街の食文化にも影響を及ぼしているが、森山さんは「割烹吉葉に続いて今回の巴潟と、地元の人に愛された老舗だったのでインパクトが大きかったが、ちゃんこ店自体が激減しているとは思いません」と話す。

 実際に両国では23年2月に「ちゃんこ千代の富士」、同年8月に「ちゃんこ両国~Hideaway Chanko Dining」と新店舗が相次いで開店している。特に近年はインバウンドの外国人観光客で街はにぎわっているが、森山さんは「私がお昼にあるちゃんこ店に行った時は、外国人は2~3組いました」と明かす。

 元大関・旭国さん(24年10月に死去)の直営店として1963年に新宿で創業され、両国でリニューアルオープンした「ちゃんこ両国―」の店長・太田国宏さんは「配達サービスのほか、ちゃんこ自動販売機を設置し、売り上げを確保しているほか、メニューをコースのみに限定することで少ない人員で提供スピードを維持しています」と説明する。コースのメインとなるちゃんこは、伝統の「ソップ」(鶏がらベースのスープ)だけでなく、カレー、キムチなど13種類から選べるのが特徴。業務形態を柔軟に変化させ、さまざまなニーズに応えている。

 「国技館・相撲部屋・ちゃんこ店の3つがあってこそ相撲の街、両国といえる」と森山さん。自身も実際に各相撲部屋へ赴き、度々ちゃんこを試食している。「今、相撲部屋ではトマト味やカレー味のちゃんこ鍋もあるんですよ! そういった工夫をすれば、もっと盛り上がるはず」と期待を寄せる。

 「ちゃんこBOOK」を発行する墨田区観光課長の大西俊明さんは「例えば店の中には、ひとり鍋できる店もあるとか、知らない人も多いでしょう? いろいろな情報もPRしながら、街の活性化につなげていければ」と区としての盛り上げに意欲。「『両国にちゃんこあり』。ちゃんこ文化は両国のアイデンティティーの一つなんです。観光の側面としても、その文化を下支えしていかないといけない」と使命感に燃えていた。

家でも外でも楽しめる、ちゃんこ鍋

 外食でも人気の鍋料理だが、一方で家庭の食卓で家族で囲む食事というイメージもある。飲食店や商品などをモニターする体験型情報サイト「ファンくる」が23年12月に実施した「鍋についての意識調査」によると、外食で食べる鍋と家で作る鍋の種類は異なっているという。

 外食で人気なのは「しゃぶしゃぶ」(50%、複数回答あり)、「もつ鍋」(38%)。特にもつ鍋は下処理に手間がかかることなどから、自宅ではなく外で食べる傾向があるとみられる。一方、自宅の鍋で多いのは「寄せ鍋」(49%)、「キムチ鍋」(40%)。

比較的リーズナブルに作ることができるのが人気の理由だ。その中で、ちゃんこ鍋は外食(18%)、自宅(17%)とほぼ差がなく「家でも外でも楽しめる」という傾向があった。

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