【F1】メルセデスAMGのジョージ・ラッセルが語る日本人エン...の画像はこちら >>

【チームとしての強み】

 F1ドライバーの角田裕毅に、リザーブドライバーの岩佐歩夢、平川亮。ハースの小松礼雄チーム代表に、タイヤエンジニアリングを担うエンジニアたちやパワーユニット運用を行なうHRCのスタッフたちなど、F1の現場では多くの日本人が活躍している。そんななかで、日本との繋がりが最も強いドライバーがジョージ・ラッセルかもしれない。

 その繋がりのひとつが、日本人エンジニアの桑原克英の存在だ。常にメルセデスAMGのピットガレージにいて彼のデータ分析からセットアップやドライビング改善を担うパフォーマンスエンジニアを務めている。

 慶應義塾大学の理工学部在籍中に自動車工学研究会で学生フォーミュラを経験し、スーパーGTやWEC等を経て2020年にF1の世界へ飛び込み、2023年からラッセルのパフォーマンスエンジニアを担当することになった。

「カツ(桑原克英)は本当に並外れたエンジニアで、1年半前にこのチームに加わって以来ずっと僕と一緒に仕事をしてきてくれている。今チームで使っているソフトウェアのいくつかは彼が全て独力で作り上げたりしていて、今やこのチームで最も優れたエンジニアのひとりだよ」

 昨年2勝を挙げたラッセルは、桑原エンジニアのことを高く評価する。

 様々な人種が働くF1の世界だが、文化的な違いや考え方の違いが「時にはプラスに働く」のだとラッセルは言う。そのなかでも、桑原エンジニアの仕事に対する熱心さは「特筆すべきものだ」と。

「メルセデスAMGのなかでは数少ない日本人のひとりだけど、多様なスタッフがいてそれぞれの文化に基づいた様々なものの見方や考え方、働き方ができるというのは、僕らの強みだと言える。そういう知性や情熱を持ったスタッフが様々な角度から問題に取り組むことでチームが前進することを後押ししてくれるんだ。だから初めて彼と出会ったときにもすごくうれしかったし、彼の仕事に対する倫理観も群を抜いていて、チームにとっては本当に大切な財産だよ」

 3週間ある夏休みには日本に戻るという桑原エンジニアに対し、「あんなに暑くて湿度の高いところに行くなんて信じられないよ!」と茶化すくらい仲のいいふたりだが、日本の文化から学ぶことは多いとラッセルは語る。

【F1】メルセデスAMGのジョージ・ラッセルが語る日本人エンジニアとの絆 王座奪還へ「自信はある」
「日本が大好き」と公言するジョージ・ラッセル ©AnnikaYanura

【リスペクトする日本文化】

 2023年10月の日本GP前にはGP3時代から旧知のレーシングドライバー松下信治とともに両国国技館で大相撲秋場所を観戦したこともあった。

「相撲の力士たちの迫力には圧倒されたよ。当然ながらどの力士もとても大きな体格をしていたけど、あのスピードにはとてもショックを受けたんだ。

僕は日本の文化も本当に大好きで、人々の礼儀正しさや誰もがお互いに敬意を持っている姿勢はとてもすばらしいと思うし、初めて日本を訪れた時には大きな気づきを与えてもらったよ」

 相撲の後には焼肉を堪能していたが、鈴鹿では必ず訪れる場所があるという。

「今まで日本でいただいたなかで最も好きな食事のひとつが、鈴鹿サーキットの近くにあるとても小さな家族経営のレストラン。お客さんたちと一緒に僕らも座敷席に座ったんだ。(お店の人の)誰も英語が話せないんだけれど、みんな笑顔で楽しそうで、みんなの繋がりがすごく感じられるお店なんだ。もちろん料理は信じられないほどおいしかった。あれは僕にとってとても特別な経験だね。それ以来、毎年鈴鹿ではそのお店に通ってその家族に会うのを楽しみにしているんだ」

 昨年の日本GPの際には、ファンゾーンで行なわれたトークショーの最中にF1公式オープニング映像で有名になった"ラッセルポーズ"をプリントしたシャツを着た4~5歳くらいの小さなファンを見つけ、ステージに呼び込んで本当にうれしそうにしていた。日本のファンからはそういうポジティブなエネルギーをもらえるのだと、ラッセルは語る。

「どのグランプリでも普通はレースが終わればファンはできるだけ早くサーキットを後にしようとするものだけど、日本のみんなはレースが終わってもできるだけ遅くまでその場に残って、チームが撤収作業をしている様子やレースのリプレイ映像が流されているのを見たりしていて、本当に特別だなと感じるよ。

 それに僕にはとてもスペシャルな小さなファンがいるんだ。去年はトークショーのステージにも招待して一緒に上がってもらったんだ。僕にとっては本当に心温まる瞬間だった。

彼のSNSのポストを見たことがある人もいるかもしれないけど、彼とお父さんの映像は全て見させてもらっていて、とても幸せな気持ちにさせてもらっているんだ。だから今年もまた彼らに会えるのを心から楽しみにしているよ」

 鈴鹿と東京しか知らないラッセルだが、東京から名古屋への新幹線から見る富士山の美しさにも心を奪われ、いつか絶対に日本で山に登ってスキーをしてみたいと言う。

「これだけたくさん移動をしてきて学んだのは、旅を楽しむのが大切だということ。F1では本当にたくさんの素敵な場所を訪れることができる。以前は僕も1日24時間、365日レースのことばかり考えていたこともあった。それはいいところもあるけど、時にはレースから離れることも大切だということに気づいたんだ。またレースに戻った時にさらにパワーアップして力強く戦うことができるからね」

【F1】メルセデスAMGのジョージ・ラッセルが語る日本人エンジニアとの絆 王座奪還へ「自信はある」
ジョージ・ラッセル(中央)とチームメイトのキミ・アントネッリ(左) ©AnnikaYanura

【王座奪還に向けて】

 今年は18歳の大型新人アンドレア・キミ・アントネッリをチームメイトに迎え、ラッセルはメルセデスAMGを牽引していく存在になる。

「ここ数年は本当に厳しいシーズンが続いたし、僕たちが望んでいた成功を収めることはできなかった。今年はそういった数年間をリセットし、モードを切り替えるシーズンだ。それは2025年だけでなく、2026年に向けた再スタートでもある。いいスタートが切れれば、その後のシーズンにも繋がっていく。それをきちんとやり切るために、どのチームにとっても非常に重要な1年になるんだ」

 昨年はチームとして4勝を挙げ、ラスベガスGPでの圧勝をはじめベルギーGPやイギリスGP、カナダGPなど特定のコースやコンディションでは高い競争力を発揮する場面もあった。

 しかし今年はそれではダメだとラッセルは言う。そういう極端に偏ったマシンではなく、オールラウンドに戦えるマシンが必要だ。

「シーズンを通して安定したパフォーマンスを発揮すること。去年の僕たちのマシンは、うまくハマったときにはものすごく速かったし、ラスベガスやスパ(ベルギーGP)のようにレース週末を通してライバルを圧倒できたレースもあったけど、そういうレースは数えるほどしかなかった。今年は逆に、そういう特定のレースで圧倒的なコンペティティブさを発揮するのではなく、24戦すべてで競争力を発揮できるマシンにしたいと思っているよ」

 2026年のレギュレーション大変革に向けて、2025年は消化試合の1年ではなく、この3年間の失敗をしっかりと総括し、その原因を把握して、改善しなければならない。それが次世代の成功に繋がる。

 前回の大変革のシーズンだった2014年から8連覇を達成したチームであり、現在も桑原エンジニアをはじめ実力者揃いのメルセデスAMGだからこそ、あとはマシンさえ揃えば王座奪還に向けて動き出す準備はできている。

 2025年はその「答え合わせ」のシーズンになる。

「チームの全員がモチベーションに満ちているし、僕も勝つ準備はできている。これまでの数年間はトライ&エラーの日々だったけど、勝つチャンスがあるときにはしっかりと勝ってきた。だから、勝てるマシンさえあれば勝てるという自信があるんだ」

 去年は4勝。ラッセルは今年、大きな飛躍を期待している。

「もちろん今年はそれ以上だ」

【Profile】
ジョージ・ラッセル
1998年2月15日生まれ、イギリス出身。8歳からカート競技を始めるとすぐに頭角を表し、数々のタイトルを獲得する。2014年からフォーミュラ・ルノー2.0へ参戦し、そこから着実にステップアップ。2019年からはF1ウィリアムズに所属した。2022年にメルセデスに移籍。同年の第21戦サンパウロGPで初優勝を飾る。2024年はオーストリアGPとラスベガスGPで優勝した。

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