◆柔道 世界選手権 第2日(14日、ブダペスト)

 男女計2階級が行われ、女子52キロ級はパリ五輪代表の阿部詩(24)が自身5度目の優勝を飾り、完全復活だ。決勝でディストリア・クラスニチ(29)=コソボ=に一本勝ちを収め、昨年のパリ五輪で2回戦敗退となった雪辱を果たし、世界女王に返り咲いた。

兄の一二三(27)は男子66キロ級の準々決勝で敗れたが、3位決定戦で勝って五輪2連覇の意地。同級は武岡毅(26)=いずれもパーク24=が勝って初優勝を果たした。

 勝った詩は、柔道着の袖で目元を拭った。2連覇に挑んだパリ五輪で味わった悪夢から約1年。決勝でクラスニチに勝ち、再び世界一の座に就いた。「五輪の後は弱気になっていたが、そういう自分はもういない。阿部詩という物語がまた始まった」。悲劇の涙を、喜びの涙に変えた。

 序盤の試練もはねのけた。3回戦はパリで銅メダルの宿敵ブシャール(フランス)を迎えた。シードから外れ、早い段階で強豪と当たるのは昨夏と同じ。「そこを乗り越えてこそ、また強くなる」と念じて畳に立ち、延長戦で3つ目の指導を引き出した。

 自身の準決勝の前には、兄・一二三が準々決勝で敗れる波乱があったが動じず。決勝は背負い投げの一本で締めくくり「一歩を踏み出せるような金メダルになった」と、完全復活を印象づけた。

 失意のパリ五輪後、約2か月の休養をはさんで自らを見つめ直した。練習再開は昨年10月頃。再起への思いは、自然と芽生えた。練習中に「畳の上が、やっぱり自分の居場所なんだなと感じた時に、戦うことが自分なんじゃないかなと」。今年の世界選手権での金メダルを目標に掲げ、復帰戦となったグランドスラム・バクー大会(2月)で優勝。4月の全日本選抜体重別選手権で初Vを果たし、確かな自信を積み重ねてきた。日本時間の15日は父の日。会場では父・浩二さん(55)と母・愛さん(53)が見守っていた。最高のプレゼントを届け、「ほっとした」と息をついた。

 28年ロス五輪への再出発にもなった。

ひと安心しながらも「まだまだ道は続くので、もっと頑張らないとなという気持ち」と詩。成長した姿を、世界に見せつけた。

隣の畳で兄敗戦も「自分の試合に集中」

 ◆詩に聞く 

 ―戦いを振り返って。

 「全体的に動けていたし、自分の中では結構、良かった方なんじゃないか。組み手の中での課題とか、まだまだ進化できる部分も見つかった」

 ―準々決勝では隣の畳で兄が敗れた。

 「すごい歓声が起きているなというのは試合をしながら感じていたが、見ることなんてできないし、自分の試合に集中していた」

 ―優勝を決めると涙が出た。

 「この世界選手権の舞台に立ちたいと思うまでにも結構、時間がかかった。本当にいろんな方の応援、支えでここに来られた。うれしくて、なんか(涙が)出てきた」

 ―パリ五輪で敗れてから約1年。

 「すごく苦しい1年ではあったが、自分の強い意志を持ってできたことが、この結果につながった」

 ◆パリ五輪VTR 初戦を一本勝ちで突破し、2回戦で世界ランク1位のディヨラ・ケルディヨロワ(ウズベキスタン)と対戦。2分過ぎに内股で技ありを奪い優位に試合を進めていたが、残り1分を切ったところで捨て身技の谷落としで一本負け。19年11月のGS大阪大会でのブシャール(フランス)戦以来、約4年半ぶりの公式戦黒星を喫し五輪2連覇ならず。

混合団体では2大会連続銀メダルに貢献した。

編集部おすすめ