◇陸上 アスリートナイトゲームズ 最終日(16日、福井県営陸上競技場)

 男子110メートル障害決勝で、昨年のパリ五輪5位入賞の村竹ラシッド(23)=JAL=が12秒92(追い風0・6メートル)の日本新記録を樹立し優勝した。自身と泉谷駿介(25)=住友電工=が持っていた従来の記録(13秒04)を0秒12更新し、日本人初の12秒台突入となった。

今季世界2位、昨年パリ五輪優勝タイム(12秒99)も上回る大記録をマークし、既に代表入りを決めている東京世界陸上(9月13日開幕、東京・国立競技場)での日本人初メダルへ大きく弾みをつけた。

 真夏の福井で、大記録が生まれた。日本勢初の12秒台でフィニッシュラインを駆け抜けた村竹は、何度も力強く拳を握った。「ちょっと、まさかです。ここまで出るとは思わなかった」。世界歴代11位タイの日本新記録に加え、06年の劉翔(中国)のアジア記録(12秒88、追い風なし)まで0秒04、12年のメリット(米国)の世界記録(12秒80、追い風0・3メートル)まで0秒12と肉薄。今季世界2位、昨年パリ五輪のホロウェー(米国)の優勝タイム12秒99(向かい風0・1メートル)を上回った。「世界クラスの上澄みの、さらに上澄みの人しか出せないと思っていた。120点、140点くらいはつけてもいいんじゃないかな」と喜びに浸った。

 手応えがあった。同日の予選は13秒30(追い風2・6メートル)で突破。参考記録となったが「走っていて感覚が良かった」と実感。

決勝では数台のハードルにぶつけたが「ぶつけた感覚がなかった」というほど気持ちは“ゾーン”に入っていた。「中盤からのスピード感が全く違う感じだった。新感覚」と12秒台の高速スピードに最後まで対応し切った。競技場の愛称は、17年に男子100メートルで桐生祥秀が日本勢初の9秒台を出したことで「9・98スタジアム」。日本勢初の12秒台をたたき出し、村竹は「周りの人と12秒98を出して名前を変えようと、冗談交じりに話していた。それ以上のタイムが出て驚いている」と笑った。

 初出場したパリ五輪で日本歴代最高の5位入賞。今季は世界最高峰シリーズのダイヤモンドリーグを中心に試合を重ね、世界のトップ選手と会話を交わす機会も増えた。「物おじしなくなって、精神面でとても成長できた」という。

 東京世界陸上の男子110メートル障害決勝まで16日でちょうど1か月。この日の12秒92はスコアリングテーブル(競技結果を点数化するための表。異なる種目の記録を比較するときに用いる)の100メートルで換算すると9秒82。

世陸で狙う日本初表彰台は金メダルも見え、「1回で終わらせちゃ絶対にダメだと思う。それ以上を狙う。12秒台でメダル獲得」と貪欲だ。東京・国立競技場で日本陸上界の歴史を変えてみせる。(手島 莉子)

 ◆村竹 ラシッド(むらたけ・らしっど)2002年2月6日、千葉・松戸市生まれ。23歳。父はトーゴ人で、母は日本人。小学5年時から陸上を始め、松戸一中から本格的に110メートル障害を始める。松戸国際高3年時は全国高校総体制覇。順大に進み、22年世界選手権は予選敗退。23年9月に日本記録タイ(13秒04)をマーク。24年4月、JALに入社。

同6月に日本選手権初制覇。同8月のパリ五輪は、同種目で日本勢初の決勝進出を果たし、5位入賞。179センチ。

 ◆男子110メートル障害の記録 世界記録は2012年に米国のアリエス・メリット(米国)がマークした12秒80(追い風0・3メートル)。村竹がマークした12秒92(追い風0・6メートル)は、自身と泉谷が保持していた従来の日本記録の13秒04を一気に0秒12も更新し、日本人初の12秒台で世界歴代11位タイ。23年ブダペスト世界陸上と24年パリ五輪は、いずれもグラント・ホロウェー(米国)が優勝し、記録はそれぞれ12秒96(無風)、12秒99(向かい風)。風速の条件は異なるが、今回の村竹の記録は世界大会の優勝タイムを超えている。

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