女優の吉行和子(よしゆき・かずこ)さん(本名同じ)が2日午前0時19分、肺炎のため都内の病院で死去した。90歳だった。

所属事務所が9日までに発表した。持病のぜんそくと体力の低下により、肺炎を発症したとみられる。故人の遺志により、葬儀は8日に近親者のみで執り行った。待機作が3本あり、亡くなる10日前まで病室でエッセーを執筆。周囲に「生涯現役でいたい」と語っていたが、その言葉通り女優業を全うした。

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 「吉行和子」という女優は、しなやかさの中にひそむ強さとインテリジェンスを感じさせる人だった。そこから的確な芝居が生み出された。

 大島渚監督「愛の亡霊」(1978年)では、藤竜也とのハードな濡(ぬ)れ場が。そんなシーンでさえ、隠しきれない知性がのぞいた。吉行さんはエッセイストの肩書もある通り、文才にも恵まれた。感性の源泉をたどるとき、書くときにも用いられる物事を人一倍客観的に見つめる“観察眼”が、演技にも反映されたと思えてならない。

 山田洋次監督の映画「家族はつらいよ」シリーズなどで、橋爪功と味のある夫婦を演じた。

長年連れ添ってきた雰囲気を醸し出しながら、一方で夫を愛情を持って手のひらで転がしてきたような印象が残る。これもやはり、吉行さんの知的な面がそう思わせるのだ。

 90歳は一般に大往生といわれる。107歳で逝った母・あぐりさんは90代になっても美容家として現役だった。吉行さんもまだまだ働く気力を持っていたことを思えば、志半ばでの旅立ちは本人が一番悔しいだろう。(内野 小百美)

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