女子自転車競技日本代表の内野艶和(つやか、23)=チーム楽天Kドリームス/NEXETIS=に注目だ。8月の「2025全日本選手権トラック」(静岡・伊豆ベロドローム)では出場7種目すべて優勝。
―今季はスイスのUCIコンチネンタルチーム「NEXETIS」に加入。8月まで半年間、本場欧州でロードレースの武者修行をした。6月の「スイスロードシリーズ マルティニーステージ」で優勝するなど表彰台に何度も上がり、レベルの高い環境で実績を残した。成長の手応えは?
「挑戦させてもらったことで成長した部分は、たくさんある。ヨーロッパはレースの数が日本に比べて圧倒的に多く、ハイレベルなレースを数多く経験できたことは、すごく大きい。やっぱり強い選手とレースで一緒に走らないとテクニックが上達しないし、レースに出ること自体が体力面の向上につながった。また高いレベルのレースに出られるなら、これからもヨーロッパに行きたい」
―帰国直後の全日本選手権では、圧巻の7冠(スクラッチ、エリミネーション、ポイントレース、オムニアム、マディソン、個人追い抜き、団体追い抜き)。体力的にきつくなかった?
「帰ってきた惰性で2日目まではそこまできつくなかったけど、3日目から急にドッと疲れが出た。それからは一日一日を乗り越えるのに必死で。7冠を達成したいという気持ちではなく、その日の全力を出すことしか考えていなかった」
―前々から7種目に出ることを決めていた?
「コーチからは毎年『トレーニングだと思って全種目に出ろ』と言われていて。
―今月の世界選手権では団体追い抜き、マディソン、ポイントレースの3種目に出場予定。目標は?
「チームパシュート(団体追い抜き)は日本新(4分13秒818)を切れたらいい。マディソンは、このレベルで走れるのが数少ないので、課題にしていることを試して、得るものがあるレースにしたい。もちろんメダルを狙って走りたい。ポイントレースでも(2023年大会で獲得した銅メダルより)もう一つ上のメダルが取れたらいいな」
―海外で半年間ロードレースを頑張って、いいシーズンを過ごした上での世界選手権。自信があるのでは?
「自分がどんなふうに走れるのかは楽しみ。日本に帰ってから今回、初めてハイレベルなトラックのレースを走るので、成長した部分が見つかればうれしい」
―昨年はパリ五輪に出場。初めて挑んだオリンピックではマディソンで総合12位、団体追い抜きで予選敗退。今振り返って、どんな思い?
「悔しさはあるけど、すごく楽しかった。東京からパリまでの3年間はあっという間で、気がつけばオリンピックの舞台に居た。トレーニングをしっかり積んで、後はやるだけという状態でレースができたのは良かった。
―28年のロサンゼルス五輪でいい結果を出すためには、何が必要?
「いっぱいありすぎて、これだと言えない。とにかくパワー、フィジカル、自分の“エンジン”をもっと大きくしないといけない。何が、というより全体的にレベルアップしてから細かい課題に取り組もうと思う」
―そもそも、自転車競技を始めたきっかけは?
「中学生の頃、地元の福岡でタレント発掘事業を通じて自転車競技に出会った。それまでチームスポーツ(バスケットボール)をやっていたから個人競技が新鮮だったし、自転車に乗ることが楽しくて、高校に入ったらやろうと決めていた」
―高校では3年生の19年にジュニア世界選手権トラックのポイントレースで優勝するなど、国内外の大会で活躍。最初から順風満帆だった?
「全然。まったく何も分からずに競技を始めたから、自分でギアを替えたりなど機材の扱いに慣れるのが大変だった。練習では先輩についていくのに必死で、タイムが悪くて勝てなかったし、早く成績を出したい気持ちがすごく強かった」
―強くなったのはなぜ?
「一番は、家から学校まで自転車で通っていたこと。距離は片道38キロぐらい。最初は2時間かかっていたけど、頑張って1時間半ほどで行けるようになった。それに、強い先輩たちに練習に付き合ってもらったり、朝練とか居残り練習をたくさんしたり、人より多く自転車に乗った積み重ねだと思う」
―高校卒業後、なぜ競輪選手に?
「昔からスポーツ選手になるのが夢だった。競輪を仕事にすれば、好きな自転車で稼ぐことができる。大学進学と迷ったけど、やっぱり夢をかなえたかった。
―今は自転車競技と競輪との“二刀流”。苦労することは?
「(メインの)自転車競技は中距離、競輪は短距離。両方とも頑張りたい気持ちはあるけど、競輪の練習が十分にできないことがあって…。もっと練習して勝ちたいのに両立が難しい。気持ちの面でも切り替えがしんどいときや、耐えないといけないときがあって大変」
―気分転換の方法は?
「趣味は読書、ドライブ、おいしいご飯を食べること。それに愛犬とたわむれること。愛犬は福岡の実家に居るのであまり会えないけど、休みの日に“弾丸”で実家に帰ったりする。やっぱり愛犬に会いたいのと、忘れられたくないから」
―自分の強みを挙げると?
「うーん、あまりない。ないからこそ準備をするしかない。準備をすればするほど自信を持って、いいレースができる。世界のレベルや海外選手の強さは知っているけど、失敗を恐れずに思い切って踏み込んでトライしていくことができれば、もっと強くなれると感じている」
―世界選手権が終わった後は?
「少し休んでから11月ぐらいに競輪を一度走って、11月か12月には海外に行ってレースに出る流れになると思う」
―これから将来、どういう選手になりたい?
「長期目標はロス五輪でメダルを獲得すること。それに向けてネーションズカップだったり世界選手権だったりで1位のメダルを取りたい。
◆内野 艶和(うちの・つやか)2002年1月13日、福岡県宇美町出身。23歳。祐誠高入学後に自転車競技を始め、19年ジュニア世界選手権トラックの女子ポイントレースで優勝を飾った。高校卒業後は日本競輪選手養成所を経て、競輪と自転車競技の“二刀流”で活躍。23年世界選手権トラックの女子ポイントレースで銅メダルを獲得した。24年パリ五輪のトラック女子4000メートル団体追い抜き(予選敗退)、同マディソン(総合12位)に出場。今年2月のアジア選手権トラックでは女子エリミネーション、同マディソン、同4000メートル団体追い抜きで優勝。162センチ、血液型O。