俳優の高橋克典(60)が還暦を迎えて一段と円熟味が増し、演技の幅を広げている。かつては肉体派として脚光を浴びたが、2022年度後期のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」でヒロイン(福原遥)の優しい父親役を好演。

12月12~28日には、東京・明治座で上演する舞台「忠臣蔵」(演出・堤幸彦)で吉良上野介役に挑戦する。32年の俳優人生を振り返り、転機となった出来事や今後の展望を語った。(有野 博幸)

 日焼けした肌にダークカラーのスーツがよく似合う。ダンディーに決めて取材部屋に姿を見せた高橋の姿に、緊張気味にあいさつすると「よろしくお願いします。何でも聞いて下さい」。人懐っこい笑顔で応じ、場を和ませた。

 母親が音楽教師だったこともあり、幼少期からピアノを弾いたり、歌うことが大好きだった。「家族や近所の人たちが集まった時に歌ったり、面白いことをして喜ばせることが好きだった。それが僕の原点です」。大学時代に歌手として念願の芸能界デビューを果たすが、ヒット曲を出すことは難しかった。

 7月に急死した所属事務所・ケイダッシュの川村龍夫会長(享年84)に才能を見いだされ、93年の日テレ系ドラマ「ポケベルが鳴らなくて」で俳優に転身した。「歌手から俳優への気持ちの切り替えが全くできなかった。

ずっとモヤモヤした気持ちがありましたね。まさか自分が芝居をするとは思ってなかったけど、松田優作さん、萩原健一さんに憧れていたので、飛び込んでみることにしました」

 「ポケベル―」では、共演した緒形拳さん(08年死去、享年71)から芸能界の洗礼を受けた。「言い争うシーンで本気で殴られて、カチンときたので殴り返そうと思ったけど、グッと我慢しました」。監督がカットをかけると、周囲から「お前、いい顔してたよ。初めていい芝居をしたな」と褒められ、「何て、理不尽な世界なんだ」と目を丸くした。

 石黒賢(59)、高嶋政宏(59)、高嶋政伸(58)らと並び、上品な雰囲気を持った若手俳優として一躍、売れっ子になった。その後、テレビ朝日系ドラマ「サラリーマン金太郎」「特命係長 只野仁」シリーズなど当たり役にも恵まれ、「二枚目に加えて、三枚目の役でも受け入れてもらえるようになった。笑ってもらうのがうれしかった」。筋力トレーニングに励み、肉体派の俳優としても、揺るぎない地位を確立した。

 近年では朝ドラの「舞いあがれ!」が好評だった。「優しいお父さん役で『やっと肉体派を卒業できるかな』と思ってうれしかった。娘役の福原遥ちゃんに引っ張ってもらって、本当の家族のようになれた。

それから、お父さん役のオファーが、たくさん来るかなと期待していたら、全然来ないんですよね。光石研さん、松重豊さんとか、うまい人がいますからね。また、誰か僕のことを見つけてほしいと願っています」

 04年に結婚し、09年には長男が誕生した。「自分が親になって息子と接していると、愛しく思ったり、心配になったり、いろんな感情が生まれて『俺にこんな心があるんだ!?』と驚かされる」。我が子の将来を案じることで、人生を見つめ直す機会にもなった。「僕らの若い頃は大企業に勤めるとか、タワーマンションに住むとか、ステータスが大事だった。でも、今の時代は『どう生きるか』が大事ですよね」

 12月の舞台「忠臣蔵」では、歌舞伎や時代劇ドラマで悪役として描かれることが多い吉良を演じる。「悪役はやりがいがありますから、嫌いじゃないです。でも最初、吉良役は僕には似合わないと思いました。だって、(名奉行の)大岡越前もやってますからね」。ただ、斬新なキャラクターを好む堤幸彦氏(69)が演出を手掛けることもあり「ひと味違う世界観の『忠臣蔵』になるんじゃないかな」と心を踊らせている。

 恩人とも言える川村会長は「克典は60歳を過ぎてから、もっといい役者になるよ」と語っていた。

「突然、亡くなってしまったので、いま思えば、それが唯一の遺言かもしれませんね。うれしい言葉です。川村さんに、僕の吉良役を見せたかったな。喜んでくれるかな」と思いを巡らせた。

 俳優として、飽くなき向上心が原動力だ。「『還暦を迎えて感慨深いですね』とか、ネタで言ってますけど、実はそんな気持ちは全然ないです」と笑う。「海外作品に出たことがないので、チャンスがあれば挑戦したい。芝居をする時には常に新しいことを考えて、常に試して、常に前進していたい。一生懸命に頑張っていれば、誰かが見てくれていると信じています」と力を込めた。

 趣味が多彩で、気分転換の達人でもある。「息子がアルペンスキーをやっているので冬は雪山に行くし、音楽も大好き。バイクに乗ったり、車の運転も大好き」。

還暦を迎えても落ち着くつもりは一切ない。仕事もプライベートも攻めの姿勢を崩さない。

 〇…高橋が吉良役を演じる舞台「忠臣蔵」は赤穂浪士によるあだ討ちを描いた時代劇で、上川隆也(60)が大石内蔵助役、藤原紀香(54)が内蔵助の妻・りく役を務める。12月12~28日の東京・明治座から始まり、来年1月3~6日に名古屋・御園座、10日に高知・高知県立県民文化ホール、17日に富山・富山県民会館、24~27日に大阪・梅田芸術劇場メインホール、31日に新潟・長岡市立劇場で上演する。

 ◆高橋 克典(たかはし・かつのり)1964年12月15日、横浜市生まれ。60歳。歌手として芸能界デビューし、93年の日本テレビ系ドラマ「ポケベルが鳴らなくて」で俳優デビュー。主な出演作はテレビ朝日系ドラマ「サラリーマン金太郎」シリーズ、「特命係長 只野仁」シリーズ、NHK大河ドラマ麒麟がくる」、NHKBS時代劇「大岡越前」など。身長175センチ。血液型O。

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