東京六大学野球秋季リーグ戦第7週第3日▽法大10―1東大(28日・神宮)

 神宮球場の記者席にある会見場では一瞬、敗者と勝者が交錯する。報道対応を終えた東大のサブマリン・渡辺向輝(4年=海城)のもとへ、法大の主将・松下歩叶(4年=桐蔭学園)が駆け寄った。

「ナイスピッチング!」と話しかけ、固く握手を交わした。大学ラストゲーム。互いが過ごした4年間への敬意が表れたシーンだった。

 松下は言った。

 「彼もいろんなプレッシャーや注目も浴びながら、僕以上に大変な思いをしていたので。今日、僕は三振したんですけど、本当にいいボール。感謝していますし、『ナイスピッチング』って言いたくて握手しました。彼も野球に対して熱い人なので、そういうところは僕も刺激を受けながら、成長できたかなと思います」

 10月23日のドラフト会議ではヤクルトから1位指名を受けたバットマン。「3番・三塁」でスタメン出場し、有終にふさわしい活躍を見せた。初回1死三塁では右翼線に先制三塁打を放つと、8回無死一塁では左翼席中段に通算14号の2ラン。振り抜いた瞬間には立ち止まり、着弾点を見つめた。大学生活最後の一発を、こう振り返った。

 「正直、学生野球の最後の打席になるかなと思っていたので、ここで結果を残したいという気持ちで入った打席でした。その中で手応えある打球だったので、ちょっと眺めちゃったというか、見てました」

 有終の美を飾った6打数4安打4打点。大島公一監督(58)は「『チーム松下』でしたから」と語った上で、そのキャプテンシーを称賛した。

 「新しいことをどんどんやってもらいましたし、『強い法政』を復活させたいという思いがありましたから。その足跡を残してくれたと思いますし、これを来年の下級生へつなげていってもらいたいなと思っています。松下自身がいろんな意味で周りを鼓舞する状況も多かったので、本当に大変だったと思います。プレー以外のことで携わる労力を使うことが多かった。それを背負っていたというところが松下。それを周りが見てますから、松下を応援しますよね」

 指揮官は、ドラフト当日の会見場で、仲間たちが我がことのように松下の1位指名を喜んでいた光景が印象に残っている。松下が俺たちのキャプテン、俺たちのリーダーであったことの証明だった。

 大学日本代表でもキャプテンを務め、日米大学野球では5戦全勝に導き、MVPを獲得した。今後も続くジャパン勢との切磋琢磨(せっさたくま)に「投手に対しては打てるように、野手では特に立石には負けないように頑張ります」と笑顔で語った。

 魂を燃やし続けた神宮を出ると、多くの法政ファンがサインを求めて長蛇の列を作っていた。松下は柳澤諄マネジャー(4年=磐城)とともに一人一人、丁寧にペンを走らせた。人を想い、チームを想う人柄は来季、燕党にも愛されるに違いない。(加藤 弘士)

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