大相撲 九州場所3日目(11日、福岡国際センター)

 新弟子らによる前相撲が始まり、モンゴル出身のバトツェツェゲ・オチルサイハン(23)=伊勢ケ浜=が「旭富士」のしこ名で初土俵を踏んだ。同じモンゴル出身の天昇山(21)=玉ノ井=を寄り切って白星デビュー。

第63代横綱のしこ名を受け継いだ規格外の新弟子が、力士としての一歩を力強く踏み出した。幕内は横綱・大の里、関脇・安青錦ら4人が初日から3連勝とした。

 怪物候補がベールを脱いだ。呼び出しが約34年ぶりに「旭富士」のしこ名を読み上げると、観客席から大きな拍手が起こった。土俵周りを報道陣が囲み、前相撲とは思えない注目度の中で迎えた初土俵。197センチの長身を誇る天昇山を危なげなく寄り切り、強さの一端を示した。取組後は緊張はなかったと明かし、偉大なしこ名について「まだ慣れてない感じ」と初々しく語った。

 待ち焦がれた初土俵だった。神奈川・旭丘高を経て21年春に入門。高校時代に目立った実績はなかったが、1日60番を取ることもある猛稽古で鍛えた。稽古場で伯桜鵬、義ノ富士、熱海富士ら部屋の関取衆をしのぐ強さを見せ、“史上最強の研修生”と評判はすぐに角界を巡った。

 入門当時の師匠で現宮城野親方(元横綱・旭富士)から、しこ名の継承を伝えられたのは今春に正式に研修生となった後だった。

同親方は1部屋1人の外国出身力士枠の関係でデビュー時期が見通せない状況が続いた中で入門から約4年半、厳しい稽古を続けた姿勢を評価。「辛抱して頑張ってきて、1~2年前ぐらいから部屋で一番強かった。しこ名をつけることで責任感を持って今以上に頑張ってくれると思った」と明かした。

 新弟子が元横綱のしこ名を背負うのは極めて異例で、過去は幕内上位に番付を上げてから継承したケースばかり。宮城野親方が「横綱・大関? そこまではいってほしい」と語ったように期待の表れでもある。現師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱・照ノ富士)も「まだ新弟子。そこまで騒ぐ必要はない」とした上で、「長く辛抱してくれた。(学生時代に)タイトルを取れなくても相撲部屋で稽古を重ねていけば強くなると証明してくれたら」と願った。23歳の大器が4年半の研さんの成果を土俵で表現していく。(林 直史)

 【旭富士評】

 義ノ富士(24年春に伊勢ケ浜部屋に入門)「上半身の力がとんでもなく強い。(自身が日大から)入った時、最初は全然勝てなくて、大学と大相撲での4年間はこんなにも差があるんだと感じた」 

 大島親方(モンゴル出身、元関脇・旭天鵬)「(前相撲で審判)すごいのが出てきたね。うわさは聞いていたし、部屋の動画も見ていたけど、幕内上位の力士が頭つけても押し切れてなかった。

楽しみしかない」 

 天昇山「(前相撲で対戦)強かった。番付を上げて、一緒に闘っていきたい」 

 二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)「(前相撲で審判)「よく稽古している体つき。まだまだ良くなるんじゃないですか」 

 錦富士(兄弟子)「すべてにおいてレベルが高い。気持ちは強いが(出世するには)お調子者くらいがちょうどいいと思う」 

 翠富士(兄弟子)「やっとデビューして良かった。付け人についているので気合入れるため食事会をした」

 ◆第63代横綱・旭富士 青森・木造町(現つがる市)出身。元大関・旭国の大島親方に誘われ、1981年年初場所で初土俵。90年秋場所で新横綱。右四つからの寄り切り、上手出し投げを得意とし、体の柔らかさから「津軽なまこ」の異名を取った。優勝4度。92年初場所で現役を引退。

 ◆旭富士 英毅(あさひふじ ひでき)

 ▽生まれとサイズ 2002年5月17日、モンゴル・ウランバートル生まれ。23歳。

185センチ、150キロ

 ▽競技歴 幼少期はバスケットボールボクシング。15歳の18年春にモンゴルから来日し、神奈川・旭丘高で相撲部に入部。21年春に伊勢ケ浜部屋入門。25年秋場所で新弟子検査を受検し、興行ビザの取得に1場所を要して九州場所で初土俵

 ▽名前の由来 本名はバトツェツェゲ・オチルサイハン。名前はモンゴル語でオチル(神)とサイハン(幸せ)の意味

 ▽親族が五輪選手 叔母のブルマー・オチルバトさん(43)はレスリングのモンゴル代表で12年ロンドン、16年リオ、21年東京五輪に出場

 ◆過去の主な横綱のしこ名と継承力士の番付

 ▽初代・小錦→新小結(初代=優勝制度が創設前に引退、横綱在位1899年5月~1902年1月)→2代目(1912年1月、新小結・山泉が継承。Vなし)

 ▽3代目・朝潮→前頭筆頭(3代目=V5回、横綱在位1959年夏~1961年九)→4代目(1979年春、前頭筆頭・長岡が継承し朝汐。同じく前頭筆頭だった1982年九で朝潮に改名。V1回)

 ▽初代・若乃花→新横綱→新関脇(初代=V10回、横綱在位1958年春~1962年春)→2代目(1978年名、新横綱・若三杉が継承。横綱在位1978年名~1983年初。V4回)→3代目(1993年夏に新関脇・若花田が継承し、若ノ花に。1994年九で若乃花に改名。横綱在位1998年名~2000年春、V5回)

 ▽初代・琴桜→大関(初代=V5回、横綱在位1973年春~1974年夏)→2代目(2024年夏、大関・琴ノ若が継承。

V1回)

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