◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 監督時代の長嶋茂雄さん(享年89)に“撮影妨害”されたことがある。1993年冬、静岡から熱海へ新幹線で移動するミスターを取材した時のことだ。

通常は記者とペアで動くことが多いが、この日は私だけ。「静岡着18時頃のひかり号、グリーン車から降りてくるはず。こだまに乗り換えて熱海まで行く」という情報をたよりに、新幹線の上りホームでグリーン車の停車位置付近に張り込んだ。

 ひかり号から専属広報とともに降りてきたスーツ姿の長嶋さんを見つけ、あいさつ。「なんだ、なんだ、報知か」と笑顔を見せてくれたのだが、カメラを構えるとプイッと横を向いてしまう。「監督、1枚!」とお願いしても「へ、へ、へっ」といたずらっぽい笑みを浮かべ、ピントが合わない至近距離まで近寄ってくる。そんなわけで、1枚も正面から撮れなかった。

 乗り換えたこだま号に乗り込んだ私は熱海駅で撮り直そうと、長嶋さんより先にホームに降りて待ち構えたが、今度は肩を組まれてしまい、また撮れない。そのまま2人で駅の構内を歩く姿は、周囲から見ると仲のいい友達か親子のようだっただろう。

 当時、改札には駅員が立っていた。長嶋さんはようやく肩から手を離し、自分では切符も出さずに「どーもー」と右手を挙げて通過。駅員も会釈で見送った。

残された私が切符を出そうとポケットを探っている間に、ミスターは行ってしまった。まともな写真は1枚も撮れず、紙面掲載もなし。右肩の感触だけが残っている。(写真担当・越川 亙)

 ◆越川 亙(こしかわ・わたる)1989年入社。巨人などを取材。趣味は釣りで「いまだ木鶏たりえず」が信条。

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