尾上左近(19)が昨年9月から16か月連続で舞台に出演し、三大名作の通し狂言で次々と大役を勤めるなど、目覚ましい成長を遂げている。力強い役柄を得意とする祖父(初代尾上辰之助)や父(尾上松緑)と異なるタイプで、女形や前髪の若衆で力を発揮。

来年5月に3代目尾上辰之助襲名を控え、「立役と女形の両方を100%で、兼ねる役者になりたい」と力強く宣言した。(有野 博幸)

 どの役を演じても品の良さを感じさせる19歳。舞台では頼もしい限りだが、私服姿の左近は、あどけない笑顔が印象的だ。165センチ、50キロ。華奢(きゃしゃ)な体に目の肥えた歌舞伎ファンをうならせる演技力を備えている。

 全力で駆け抜けた一年だった。「去年までの18年間より、濃厚な一年でしたね。ありがたいことに去年9月から休む月がない。舞台に立ちながら、先の稽古もしています。『大変だな』と思うことはありますけど、歌舞伎役者はそういうもの。先輩の方々はずっとやってこられたことなので、慣れていかないといけませんね」と涼しい顔で語る。

 辰之助襲名が近付いたことで意識が変化した。

昨年から「近いうちに襲名がある」と聞かされ、「気持ちが引き締まりました」。三大名作では「仮名手本忠臣蔵」の大星力弥、「菅原伝授手習鑑」の苅屋姫、桜丸、「義経千本桜」の娘お里、主馬小金吾などを演じた。「特に小金吾が自分では一番、しっくりきました。立ち回りも気持ち良かった」。一年を振り返り、「100点満点で50点。舞台に穴をあけずに勤められたので。それ以外の点数はないです」と慢心はない。

 「刀剣乱舞 東鑑雪魔縁」では巧みな役作りで注目された。ファンから「サコンヌ」の愛称で親しまれ、「普段の歌舞伎とは違う熱気を感じました」。役へのアプローチが古典とは異なり、「稽古も合わせると3か月間、尾上松也のお兄さんに演劇としての心構えを教えていただき、価値観が変わりました」。来年2月の「エヴァ歌舞伎」では渚カヲル役を勤めることが決まっている。

 襲名を発表した記者会見では市川新之助(12)、尾上菊之助(12)と並ぶ「令和の三之助」が話題に。

年齢が離れていることもあり、「共演は楽しみですけど、意識はしていません」。その一方で、同世代の市川團子(21)、市川染五郎(20)には「2人のことは特に意識しています」と対抗意識を隠さない。前回の新春浅草歌舞伎で染五郎が上演前のあいさつで「左近さんについて説明します」とイジる場面があり、「次回はやり返そうと思っています」とリベンジに燃えている。

 「歌舞伎が好きというより、紀尾井町の家が好き。曽祖父の2代目松緑が6代目菊五郎から受け継ぎ、祖父や父に伝えた荒事、生世話物を守りたい。その上で女形や若衆のような自分の色も出していけたら」。役者として目指すべき方向性が見えたことで、視界がクリアになった。今後は荒事にも意欲的だが、気負いはなく、悲壮感もない。来年5月に「令和の辰之助」が誕生する。

 ○…左近は今月、歌舞伎座「十二月大歌舞伎」(26日千秋楽)第1部「超歌舞伎 世界花結詞」、第2部「丸橋忠弥」、第3部「火の鳥」に出演している。「一日中、歌舞伎座に出させていただけるのは幸せなこと。その中でも『超歌舞伎』は前回(23年)、2階の照明室から見て自分も出たいと思っていたので、うれしい。

初音ミクさんとの共演も光栄です」と声を弾ませた。

 ◆尾上 左近(おのえ・さこん)本名・藤間大河(ふじま・たいが)。2006年1月20日、東京都生まれ。19歳。09年10月歌舞伎座で初お目見え。14年6月歌舞伎座で3代目尾上左近を名乗り初舞台。祖父は初代尾上辰之助、父は4代目尾上松緑。屋号は音羽屋。

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